「・・・・・・よし。チェック終了。各ウィングに異常なし。」
「FAW-01クロウウィンド、FAW-Sブラックプレデター、FAW-427レッドラプター、FAW-13キラーファントム、FAW-44デスミラージュ・・・・・・油圧、電圧、動作、全て異常なし。」
「本日のウィング整備、終了。」
「はぁー終わり終わり。円ぁ、今何時だ?」
「飛鳥時計ぐらい持ってろよ。今、八時チョイだ。」
「ん。じゃさっさと部屋戻るか?」
「あー俺テレビとか見てーし・・・・・・。」
「そういや知ってるか?興国の陸海空全ての軍事基地が相次いで何者かの襲撃を受けてるって話。」
「ああ。昼にテレビんトコにずいぶん人が集まってたからな。」
「もう三分の一くらい壊滅したそうだぜ。」
「で、そいつがどうかしたか。」
「どうかしたかも何も、考えてみろよ。誰がそんなことしてると思う?」
「さー・・・・・・基地丸ごとカンタンに吹き飛ばすようなやつ、そういるのか?」
「これは俺の予想だけどさ、ぜってーあのミクオと、あのゲノムパイロットが関わってると思うんだ。」
「え・・・・・・じゃあ興国の基地を攻撃してるのは日本防衛軍だってのか?!」
「まだ・・・まだわかんねぇよ。そんなこと・・・・・・。」
「でも、だとしたら大変じゃねぇか。日本の軍は、専守防衛。戦争は永久に放棄した筈だ。」
「時と場合によっちゃぁ、そんなこと、簡単に捻じ曲げられるかもしんないぜ。」
「・・・・・・。」
「あ。それと、さっき司令がどっかに出張してったぜ。」
「何でそんなこと知ってんだ。」
「ああ、ほんのさっき、側近のヤツと一緒に駐車場に入ってったの見たからな。」
「なんの用事だろ・・・・・・。」
「そこまでは知らんね。ま、この基地から出られるって事だけでも、羨ましいのは確かだがな。」
「まーな。」
「で、今からどーする?」
「そうだな・・・・・・バーでも行くか。」
「そうこなくっちゃ!」
静寂。
このハイヤーの中も、海底にある、この連絡道路自体も。
天井に設置された・・・五メートル間隔ほどだろうか。夕焼けを思わせる色の光を放つライトが、視界に僅かな残像を残しいく。
後はそれに照らされた、茜色に染まったコンクリート。
それでも、退屈ということは無い・・・・・・。
あと三十分程で、地上に上がる。
もっとも、日の光が出迎えてくれるわけでもない。
ただ、あの第二の故郷に再び戻れる刻が来たと思うと、どこか胸躍るものがあった。
二十年前、この日本を未曾有の大災害が襲った。
まさに天災、というべきだった。
隕石。
日本南西側に突如として襲来したその天災は、一瞬にして日本の半分を第一の故郷ごと不毛の大地に変貌させた。
すべてが灰燼に帰したその世界で、生き残った。幼少の私だけが。
唯一の生存者。という見出しで、私はその何もかも失った姿をメディアにさらされた。
その後私は、施設を転々とし、最終的に一人の男に引き取られた。
実の父だ。
フリージア人の母とまだ私が物心付く前に離婚していた彼は、北東側に居た事で死を免れた。
政治家だった彼はその後頭角を現し、防衛大臣になるまでに出世した。
私も、軍に属することを余儀なくされていた。
進学、就職、昇進。父の存在だけで、望まなくとも何もかもが何の滞りも無く進行していった。
しかし、自由は無かった。
周囲から束縛され、目の前に置かれた目標を達成することのみを生きる術だと信じていた。
それでも地位が揚がるにつれ、自由を実感できた気がしたこともあった。
それは、空軍に属し、父の管理から逃れ、初めて指揮を任された、水面基地に来てからであった。
そこで感じたものは、自由だけではなかった。
忠実で、何よりも私の事を慕ってくれる部下達がいる。
曖昧な敬語で気楽に話すものもいた。でも、私は気にも止めなかった。
それよりも、今まで感じたことの無い、何かを感じていた。
いや、遥か昔、第一の故郷にいた時に感じた何かを再び感じていた。
ひょっとしたら、あれは、
「家族」、というものだろうか。
私を信用し、私のことを敬遠しない、側近、部下達。
彼らに、「家族」という形容詞が当てはまるのだろうか。
もしそうだとしたら、私は裏切り者だ。
彼らを騙した、醜い裏切り者だ。
「地上に上がります。」
ハイヤーの運転手、私の側近がそう告げた。
車体が上を向き、微かな振動が体に伝わる。
ゲートにて検問せずに抜け、
警備隊員に見送られながら、車は海沿いの道路を走っていった。
向こうに見える、数億数兆という電灯に、林立するビルの灯。
あれが、私の第二の故郷、水面都。
残された東日本で最大の繁栄を謳歌する日本の首都。
今から、私は、
その故郷の地を再び踏むことができるのだ。
私は輝くビル群の夜景に、どこか懐かしさを覚えていた。
「お待ちしておりました。世刻大佐殿。どうぞこちらへ。」
ハイヤーを降りるなり、黒いスーツにサングラスという、これでもか。とばかりに没個性的な姿の男達が出迎えてきた。
「他の皆様は既に席についておられます。」
私の周りを四人の男達が取り囲んだ。
なんとも堅苦しい。
このような時に地位の高さがいかに不自由かを実感してしまう。
そして、私とその四人は目の前に聳え立つ、地上三百六十メートルの建造物の中に入っていった。
エレベーターの室内にある階数表示では、このビルは百階まであるようだ。
無駄に巨大だ。
もっとも、巨大さに意味があれば無駄ではないが。
クリプトンタワー。
世界屈伸の科学工業企業、クリプトンが、その経済力を誇示するために建設した、いわゆる本社ビル。
この都市の繁栄も、このクリプトンがあったからこそ実現したものだ。
表向きこそ、家庭用、業務用のアンドロイドの開発、生産に特化した企業だが、それはクリプトン・フューチャー・ヒューマンズというクリプトン傘下の子会社が行っているものであって、実際には軍事、医療に特化したもう二つの子会社が存在する。どれも業界一流である。
そしてそれを統率するのが、本社、クリプトン。
そのとき、エレベーターのベルが鳴り、目的の階に着いた事を知らせた。
「到着いたしました。九十二階の機密用会議室です。」
間接照明に照らされた黒曜大理石の通路を十秒歩き、アンティーク調の扉の前で一度止まる。
この扉、当然厳重な防音処理を施されていることだろう。
先ほどまで乗車していたハイヤーも、あのエレベーターも、厳重な防弾、防音処理で固められている。黒服の男達もスーツの下には恐らくボディアーマーとアンダーシャツ・・・・・・どうも地位が揚がると堅い物に囲まれる傾向があるようだ。
益々堅苦しい。
「では、どうぞお入りください。我々はこれで失礼させていただきます。」
それだけ言い残し、黒服の男達はエレベーターへと向かっていった。
扉の横に設置されている装置に、自分の角膜を認証させると、
その扉は、誰に空けられるでもなく、ひとりでに音も無く開いていった。
丁度目の前に、一人分の座席が用意されている。私の席だ。
「掛けなさい。」
短くも重みのある言葉を掛けられ、私はその席に腰を預けた。
「今日の、用事は、一体なんですかね。」
私も言葉を返した。
今日、この時間に召集の電報が着ただけでは何をするか分かるはずもない。
「ただの状況報告だよ。今ここにいる皆に、目の前で計画を見守っていた君から今の状況を話してほしい。」
今ここにいる皆というのは、正面にいる本社クリプトン社長、それの軍事部門の子会社であるクリプトン・フューチャー・ウェポンズ社長、政界の頂点である総理大臣。そして、私の実父であり、防衛大臣の世刻敬祐。
私にこの四人に対して状況報告をしろというのか。
もっとも、総理大臣がいる限り、それだけでは終わりそうも無い。
「そうですね・・・まずは、情報収集が終了したことを報告いたします。御宅の軍事部門開発の兵器類、強化人間、ゲノムパイロット、そして、アンドロイドの戦闘、運用データが十分な値に到達しました。あとは、蓄積したデータを整理し、あなた方にお渡しするだけです。」
「ふむ。それで、その今回の戦闘データ収集に当たって興国にその敵を演じて貰った訳だが、向こうには計画のことなど説明できるわけが無い。ある程度の兵器の提供、煽動しか行使することはできない。従って、あの国が今後も日本を攻撃する可能性は日を見るより明らかだ。そこで・・・。」
「ミクオ君達を差し向けたわけですね。雪峰の艦隊が襲撃された時点で、こちらによこす事を決定した。そして、丁度良く例の空中空母の指揮を任せた。」
「その目的は周知の通りだ。しかしその行為は日本の法どころか指針に反すること。それでも、やむを得ん場合だからこそ・・・。」
「だからこそ、総理の方がいらっしゃるわけですね。」
私は顎を撫でていた総理に視線を向けた。
「あ・・・ああ。クリプトンの支援あっての日本だ。ここは政府も協力すべきと判断し、興国軍事基地攻撃を「超法規的処置」として許可したのだ。実際こうしなければ、日本が危ない。」
超法規的処置・・・・・・。
緊急事態故に法の規定を超えた行為が必要な場合、高度な政治的判断で国家自体がそれを行う、というものだ。
主な使用例としては人質をとったテロリストグループなどが、逮捕された仲間の釈放を要求した場合によく行われる。
よりによって今回は、ただの一企業が起こした計画のせいでこの超法的処置が必要になったということか。前代未聞だ。
「しかし、それだけでは解決できない問題が残っています。」
先ほどまで堅く口を閉ざしていた防衛大臣が、一言。
これだけで何を意味する言葉かを周りが理解できる事を知っているからだ。
「興国に残された、核、ですね?」
三年ぶりの父との会話。流石にこうも久しいと嬉しく感じてしまう。
「そうだ。調査によれば、あれは我が国のTMDでは対処できないことが判明した。これをどうにか処理する必要があるが、例の空中空母の部隊ではそのような慎重にして精密な作業を行える者はいない。」
確かに。特にミクオ君。
「失敗し、最悪起爆などすれば大惨事どころか世界にこの件が露見してしまう。」
その言葉を境に一度会議室は沈黙に包まれた。
仕方が無い。私が言い出そう。
「その件なら私共にお任せを。私の基地の強化人間とアンドロイドを使えば、核の撤去が可能かと思われます。」
「できるのかね?」
と、クリプトン社長。
「はい。その代わり・・・・・・。」
私は改めて防衛大臣に視線を向けた。
「防衛陸軍をお借りします。」
この作戦では空軍の力だけでは不可能。
なんとしてでも陸の戦力が必要だった。
「いいだろう。要員はこちらで指定する。作戦方法はそちらに任せる。」
良い返答を貰うことができた。
久しぶりの親子の会話にしては良好だ。
「では、これで終わりまでの目星はついたということかな。」
本社社長が場を仕切るように通りのよい声を発した。
「では、もういいですかね?」
「うむ。これにて、会議を終了する。」
私達は立ち上がり、互いに礼をした。
勿論、防衛大臣とは、敬礼で。
「ところで、世刻君。」
他の三人が先に部屋を出、私も部屋を出ようという寸前で、本社社長に話しかけられた。
「何でしょう。」
「網走君と、「彼女達」は、どうしているかね・・・。」
彼女達というのは、雑音ミクさん、呪音キクさん、タイトさんのことだ。
何より、社長も彼女達の事をよく知っているはずだ。
「こちらで、元気に過ごしていますよ。」
「そうか・・・・・・。」
「気になるんですか?自分達が捨てたものを。」
社長の表情が、物寂しげな表情になったのが見て取れる。
「そうだ・・・・・・かつて、私は彼と彼女を切り捨てた。彼の場合は違反行為の責を負い、彼女の場合は開発が続けられなくなり、出来損ないとして・・・・・・次の二人は、ウィルスに感染しエラーを引き起こしたため・・・・・・彼の行った違反とは、廃棄された彼女を廃棄所から救い出し、個人的に所持したことだったのだ。それは今考えれば愛着を持った愛娘と同じ存在に対しては当然のこと。私は・・・・・・自分のした過ちを後悔しておる。」
「それで?」
「全てが終われば、彼と彼女達を帰してほしい・・・・・・。」
社長はすがるような視線で懇願した。
「・・・・・・分かりました。いいでしょう。」
「彼女は・・・・・・兵器にはふさわしくない。」
「と、おっしゃいますと・・・・・・まさか、御宅のあれですか。」
「その通り。歌ってもらう・・・!」
社長の顔は、笑みを浮かべていた!
「それはいいお考えで。・・・!」
私と社長は、互いに不気味な笑みを浮かべながらしっかとばかりに握手をした。
歌・・・・・・。
クリプトンがパフォーマンスとして開発した、歌唱用アンドロイド。
それが、ボーカロイド。彼女はそれに加わる。
ステージに上がり、大歓声を浴びる彼女、雑音ミクさんの姿が頭に浮かんだ。
「すーとらーとーすーふぃーあー・・・・・・。」
「へぇー。ミクそんな歌知ってるんだ。」
「ああ。私の大好きな歌だ。」
「ミクって声もきれいだし、歌手になれるんじゃないの?」
「歌かぁ・・・・・・それも、いいかもしれないな。」
「なれるよ!ミクなら。もうすぐここから出られるんでしょ?」
「そしたら、ワラとは、もう会えないのか・・・・・・。」
「そうかもかも知んないけど、あたし、ミクがテレビに出てたら、すっごい応援するから!」
「ありがとう。ワラ・・・・・・。」
「やっべ飲みすぎた・・・・・・ウォエッ!」
「おい待て!こ、ここで出すなよ!いいな!!」
「あーもー我慢できん・・・・・・!!」
「こいつを使え!」
「ありがとうございます!麻田中尉!」
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