私には始まりも終わりも同じものに思える。
なぜって二つとも巡り巡るものだから。
だから私には、終わりも始まりも苦しい。
プラント・オパール 第1章「泥」
私は父に高い高いをしてもらうのが大好きだった。
父の腰ほどしかない背の私でも、大きなその両腕に抱きかかえられれば星も掴める気がした。
地面からふっと体が浮く瞬間、私はロケットになって宇宙を巡る想像を何度しただろう。
ほんの数秒、距離にして2メートル弱の空中旅行なのにそんな楽しい錯覚で遊んだものだ。
「あ、あー。こちらミク。地上のパパ、応答せよ。」
「こちらパパ。ミク、宇宙遊泳は快適ですか?」
「こちらミク。かいてきです、パパもかいてきですか?」
「ちょっと腕が痛いですが快適です。」
母はそんな私たちを見ながら目を細めて微笑んでいたし、父も私も笑っていた。
父は育ち盛りの私が日に日に大きくなるのをその両腕に感じて、母に「いつまで高い高いできるかな」なんてこぼしていたりもしていた。
幸せな家族と過ごす幸せな時間は、私にとってごく当たり前のことだった。
優しい父が、母が、そこにいることは別に特別なことなんかじゃなかった。
”なくてはならないものだから、なくなることなんて考えることも出来ない”
それはきっと両親も同じ事だったと思う。
でもみんなそうでしょう?
酸素がなくなって呼吸することができなくなってしまったら死んでしまうことなんて誰もが知っている。
だけど、そんな一番身近で大切なものがいつかなくなってしまうなんて普段思ったりはしない。
毎日「明日酸素がなくなったら・・・」なんて考えて、ご飯が喉を通らないなんてことないでしょう?
万が一不安を感じたとしても、友達と遊んだり・・・面白いテレビ番組を見たり・・・一晩ぐっすり寝たりすれば忘れてしまう。
「ここにあって当然のものが消えてなくなる」
酸素が一気になくなってしまうことを考えるなんて、あまりにありえなさ過ぎて馬鹿らしいもの。
それと同じだったんだと思う。それと同じ。
子どもの頭では「不変の幸せ」の中にいることに対して何も感じていなかった。
今考えると、「もしも今の幸せがなくなったら・・・」って、少しだけでも考えておけばよかったのかもしれない。
そうすれば後から来る辛さや苦しみが、ほんの気休め程度には和らいだかもしれないのに。
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