海岸沿いを車が走っている。運転手はその青い髪を風に揺らしていた。
後部座席では黒い髪の女性、グロリアが小型端末で電子新聞を見ていた。
その見出しには
C.F.テクニカル社、VOCALOID部門、VOCALOID調律師ミュンヒ・ハワウゼン氏退任
と、書かれていた。
その隣で、おめかしをした少女、ハルがこの時代ではあまり見かけなくなった便箋と、
封筒を物珍しそうに眺めていた。
送り主はハワウゼン氏だった。
そこは大きな家と樹木と海と空しかなかった。
メイドに応接間に案内され、屋敷の主人であるハワウゼン氏に簡単な挨拶をし、
主と来客はソファーに腰を下ろした。
「君達を呼んだのは、退任とはまったく関係なくてね、会わせたい娘がいるんだ。」
齢60を越える紳士は、貫禄のある優しい口調で話した。
メイドが案内の為に姿を表した。青い髪の青年とハルは立ち上がったが、
グロリアは立ち上がる素振りを見せない。
「私は、結構です。」
「そうか」とハワウゼン氏は頷き、二人だけ案内される事になった。
中庭が見える廊下に案内されたとき、
夏の終わりを思わせるような、涼やかな歌声が聞こえた。
それは、青年がよく知った歌声だった。
中庭にある大きな木の木陰でハルと同じ、亜麻色の髪の女性が歌を歌っていた。
女性は青年に気がつき、駆け寄ろうと立ち上がったが、
バランスを崩し、そのまま前に倒れそうになった。が、青年が上手く受け止めた。
「めーちゃん」青年はこの言葉がちゃんと声になった気がしなかった。
「カイト、元気そうでよかった」女性は微笑んだ。
「ハル、大きくなったわね」
女性はハルの目線と同じ高さまで屈み、優しく抱きしめた。
「あれが公式発表と違い稼動していると聞いた時点で、メイコにもなにかあると思っていました。しかし、メイコの修復不可能なまでの失敗は事実だったはず、まさか 」
ハワウゼンは完璧なタイミングで、グロリアの言葉を引き継いだ。
「作り直したわけではない」
「では、どうやって?」
「君は君自身に意味が無ければ、手紙一つで出向いてくれる様な人じゃない、
君が聞きたかったのはこの事かな?」
「そんな薄情な人間だと記憶されているとは思いませんでした」
二人は微笑んだ。
「その通りです。しかし私が聞きたい事は違うことです」
ハワウゼンはメイドの淹れた紅茶を飲んだ。
「カイトは人工知能ですか?」
「そうだよ、人が0から造りだした数字の塊だよ。なぜ、疑問に?」
「あれがあまりにも人間の真似が巧いからです」
「そうか」と、ハワウゼンは呟き、窓辺を見やった。
美しく剪定された樹木が、優しく風に揺られていた。
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