燃料不足のために雪峰へ着艦した俺達ソード小隊と、シック小隊。
俺達九人は先ず艦長室へ通された。
「入りなさい。」
男の声が返ってきた。
「失礼します。」
ノックした右手でそのままドアノブを押した。
部屋の中に入ると、奥の机の椅子に座っていた初老の男性が立ち上がった。
「よく来てくれた・・・・・・。」
そして整列した俺達の前に歩み出た。
日本防衛海軍の高級将校の制服着ており、胸には様々な勲章が輝いている。
声から初老かと思ったが、その体躯、顔つきは思いのほか若々しかった。
ちらと襟元を見ると、大佐の階級だった。キャプテン(海軍大佐)か・・・・・・。
俺達は反射的に敬礼をしていた。
「水面基地所属、第302戦術戦闘飛行隊ソード隊隊長、春瀬秀であります。」
「同じく水面基地所属、シック隊隊長、タイトです。」
(ほら、ワラ!)
(はいはい。)
(キクも!)
(・・・・・・。)
「うむ。」
タイトの言動に俺は心の中で驚いた。
あの四人の中ではタイトは常識人のようで、軍人としての礼儀を知っているようだ。 敬礼もしている。
「まぁ、そう硬くならなくてもよい。」
俺達全員の顔をじっくりと見回すと、男は穏やかな顔で言った。
「はっ。」
腕を下ろすと、今度は男が真剣な顔になり、俺達に敬礼した。
「今日は我が艦隊を敵の奇襲攻撃から守ってくれたことを感謝する。」
「恐れ入ります。」
「私はこの雪峰艦長そしてこの連合艦隊の総司令官を勤める壮河凪だ。君達は燃料の不足でこの艦に着艦せざるおえなかったそうだが、それはむしろ大歓迎だ。機体と、そこのアンドロイドの君達のウィングは、うちのクルー達が腕をふるって整備してくれる。ああ、水面基地には既に連絡を入れてある。戦闘で疲れただろう。今日の夜はゆっくり体を休めてくれ。」
壮河艦長は滑らかな口調で言った。
「身に余るご配慮、恐れ入ります。」
「ふふ、何せ、世界最強と名高い強化人間と、なんとも美しいアンドロイド諸君の世話になってしまったからな。」
壮河艦長の口が明るい笑みを浮かべた。
軍の将校など、皆ただの石頭かと思っていたが、そうでもないようだ。
この艦長はさぞかし部下の人望が厚いことだろう。
「あのー艦長。ちょっといいスか。」
突然飛び出した麻田の言葉に俺は耳を疑った。
自分より遥かに階級が上の人間に対して「ちょっといいスか。」などというのは礼儀がどうこうという以前に人としてあまりに非常識だ。
水面基地では日常茶飯事だったが・・・・・・。
麻田よ。お前は大人として必要なものを学校で習わなかったのか?!
俺の意見は、
こいつ小学校からやり直せ!
である。
「何かね?」
そしてなぜ壮河艦長はその穏やかな表情のまま聞き返すことができるんだ。
「あのー、俺達昼飯食ってないんすけど、夕飯っていつですか?いやもうハラが減ってしょうがないんスけど・・・・・・。」
こ、こ、こいつは!!!
俺は殺意を覚えた。
だが、それは一理あった。俺達は確かに昼は何も食べていない。
機内にレーション(携帯食料)があった筈だが、緊急事態ゆえに、食べ忘れた・・・・・・。
「おお、それもそうだな。では早速食堂に案内してもらいなさい。他のみんなも来る頃だろう。」
そしてやはり眉一つ動かさず応えてくれた。この人少し甘くないか。
「こちらへどうぞ。食堂へ案内します。」
制服を着た男が言った。
「失礼します。」
俺達は再度敬礼し、艦長室を後にした。
「ふーぅ。やっとメシにありつけるぜ。」
「少しは大人しくしろこのバカ!」
「そんで、この俺様が対艦ミサイルをぶっ放したってワケだ!!」
「ほぉ、武哉君が援護してくれたのか!!いやぁー敵艦の弾幕には手を焼いていたところでねー。感謝するよ!!」
「ぼくだってやったんだから!!」
「へっ。どうってこたぁねぇあんなアヒルども。」
「ほら、兄さん。食べながら喋らないでください!」
「ったく、お前はガキの頃からお節介なのは変わってねーな。」
麻田と朝美は、今日同じ空で共に戦った戦友達と自分の武勇伝を語るのに夢中だ。話を聞いている隊員達も、なかなか楽しそうだった。
だが、彼女達を見逃す人間がいるはずもなかった。
「雑音君!!いやー今日は助かったぞ!!改めて例を言うよ!!」
「わたしが守るといっただろう!」
「へぇー。このスーツ、エロカッコイイよね!」
「ちょっとぉー、おさわり禁止ー!」
「君、名前なんていうの?」
「・・・・・・。」(無視)
「あ、君今日カタパルトで戦ってたよね?!すっごいかっこよかっ・・・・・・。」
「おいテメ!キクに触れんな!!SATSUGAIするぞ!!!」
「ひいっ!!」
戦闘に勝利した興奮か、はたまたミク達の珍しさか、雪峰の隊員達のテンションは上がっていた。
特に麻田や矢野大尉が周りを笑わせたりしている。
皆、緊張の糸が切れて気が緩んでいるようだった。
だが、すでに食事を早々と終え、食堂の隅にあるベンチへと腰を下し、そんな隊員達を眺めている俺と気野だけは、とてもそんな気分にはなれなかった。
こういった状況が肌に合わないのもそうだが、それより重要なことがあったからだ。
「なぁ・・・。」
気野が小さな声で問いかけた。
「ん?」
「どう思う。今日の戦闘・・・・・・。」
気野が何を問いたいのかは解かる。気野もそれを知っている。
だから俺と気野の会話はいつもこうだ。
「どうもこうも、驚きの一言だ。」
「敵とか?」
「ああ。」
「F-14トムキャット、YF-23グレイゴースト・・・・・・。」
「揚陸艦からはF-35ライトニングⅡB型。」
「MIG1.44までいたね。」
今日の戦闘の謎は例のアンドロイド部隊だけではなかった。
これらの戦闘機も、興国が所有するはずのないものだ。
F-14トムキャットは十年以上も前に引退し、既に世界でも数えるほどしか残っていないらしい。
YF-23グレイゴーストはF-22と第一次ATF計画で敗れ生産されているはずもない。ラステナスカのある宇宙開発機関が研究のために数機程度所有しているらしいが。
MIG1.44は実験機だ。それもかなり前に開発が放棄された。飛んでいるものを見たのは今日が生まれて初めてだった。
F-35ライトニングⅡB型は、垂直離着陸可能な艦上戦闘機だ。一応現役の機体で、確か採用国はエルベニア、ナイベス、そして開発国ラステナスカ。興国は・・・・・・ない。
だが、いずれの機体にも興国の国籍マークがあった。
興国がもつ筈のない機体に、だ。これはどういうことか。
どこかの国、あるいは組織が兵器を提供している可能性もないわけではないが、理由が見当たらない。興国に兵器を提供し日本と戦わせる理由が。
そもそも動物で言えば絶滅危惧種のような機体をあれだけ集められる国がどこにあるだろうか。
「だけど、敵だけじゃない。」
気野が俺の顔を見た。
彼の眼鏡越しに何かを訴えるような視線が見えた。
「そうだな。」
あの戦闘で俺達を海から援護してくれた潜水艦、サンドリヨン。
あの潜水艦には対空攻撃能力がある。
その性能は敵航空部隊の第一波を一瞬にして全滅させたほどだ。
そんなことは現行のイージス艦でも不可能だ。
しかしそれはありえない筈だ。
潜水艦に対空攻撃能力があるという話は聞いたことがない。
第一そんなものが開発されたら当然俺達の耳へ届く。
しかし、その巨大な潜水艦は俺達の前に突然姿を現した。
そう。味方にすら不明な部分が多いのだ。
「この雪峰も・・・・・・。」
「考えたら、キリがないぜ。」
「ああ・・・・・・・・・そうだね。。」
「麻田や朝美を見ろよ。前向きなんだか、馬鹿なんだか・・・・・・。」
俺と気野の目線の先では麻田が皆を笑わしていた。
「・・・・・・。」
気野はおもむろにフライトスーツのポケットからカード状の何かを取り出した。
「いい笑顔だよ。」
気野のコンパクトデジタルカメラの液晶画面には、麻田や矢野大尉の話に笑っているミクの顔が映っていた。
初めて見た、澄み切ったように純粋なミクの笑顔・・・・・・。
それは天使のような美しさだった。
だが俺にはその姿が、俺がこの前借りた小さな文庫本の小説に登場した、疑うことを忘れさせられてひたすら戦わされる戦士と重なってしまうのだった。
「クリプトンより、新製品のお知らせです。
世界の軍隊が絶賛し、数あるメーカーの中でも世界一の売り上げ、稼動数を記録した、当社最高級のアーマード・バトルロイドブランド、「マリオネットシリーズ」に新たな機体が登場いたしました。
その名もCA-B577「SEA・REX」
この製品一番の特徴は、従来のABLにはなかった、水中潜航能力、地上での強力な跳躍力、さらに電波吸収素材を使用した高度なステルス性能を備えていることです。
しかも、一つの統合AIで最大三百機まで自律操作可能です。
勿論、攻撃性能も従来より強化されています。
このSEA・REXの登場によって、効率よく海上での任務を遂行することができるでしょう。
詳しいスペックはカタログにて。
なおクリプトンでは世界の兵器の輸入、製造、販売も行っています。
今はお目にかかれない、試作機、実験機も、多数取り揃えております。
ご希望の兵器が輸入困難などの場合にお気軽にご利用ください。
以上、クリプトン・フゥーチャー・ウェポンより新製品のお知らせでした。」
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