お姉ちゃんと一緒にデパートへショッピングに行った。

「ミク、見て見て。本場オランダのゴーダチーズですって。おいしそうね」
「指差さないの。ほら行くよ、靴屋さんはあっち」

試食コーナーを指差すお姉ちゃんの手を引いて、私は足早にそこを通り過ぎる。
そのとき向こうの方に、サングラスをかけた、やたらとかっこいい男の人がいた。
あ！　あれって今、来日してるって評判のハリウッドスターじゃない！？　お忍びかな？

「お姉ちゃん、お姉ちゃん見て！」

私が慌てて呼びかけると。


「……え？」

もうっ！　いつまで試食コーナー見てるのっ！



／



「オトナな女の子特集」ということで、雑誌のセクシーモデルの依頼が来た。
私じゃなくてお姉ちゃんに。
……はいそこ、ツッコミ厳禁。はいはい分かってますよ、どうせ私にそんな仕事、来るわけないですよーだ。

「では来週の水曜に。よろしくお願いします巡音さん」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

あ、打ち合わせ終わったみたい。
雑誌社の人と別れて、お姉ちゃんが戻ってきた。

「お待たせミク」
「ううん。じゃ、帰ろっか」

２人で家路についた時だった。

「……ところでミク」
「何？」

お姉ちゃんは困ったように眉をひそめながら言った。


「セクシーって、どうやるのかしら」


あなたが私にそれを訊くんですか。



／



家のお風呂が壊れてしまったため、みんなで銭湯に行くことになった。

「お姉ちゃん、準備できたー？」
「もちろん。シャンプーでしょ、リンスでしょ、ボディソープでしょ……」

手提げ袋から荷物を取り出して、忘れもの点検。
バスタオル、着替えと続き、大きな紙パックがヌッと出てくる。


「それと牛乳」

持参する人、初めて見たよ。


「あとコーヒー牛乳と、フルーツ牛乳」

まずい、満喫する気だ。



／



お姉ちゃんとカイトお兄ちゃんが、チェス盤を挟んで向き合っていた。

「ははは、これは困ったぞ。やるなぁルカ」
「あら兄さん、もうギブアップ？」

何だかすごく知的で、高級感あふれる光景だ。

「すごいなぁ。そうしてると２人とも大人～って感じだね。私はチェスのルールなんて、サッパリ分かんないよ」

私が話しかけると、２人はなぜか一瞬キョトンとして、笑った。

「あはは、何言ってるんだミク。チェスのルールなんて俺達も知らないさ」
「そうそう。チェスごっこしてるのよ」

チェスごっこ？

「ようし、ならば兄さんはナイト２つで合体攻撃だ！」
「だけどそのナイトさん２人は、おなかペコペコで動けないっ！」
「な、何だって！？　しまった、お弁当を忘れてきてしまったぞ！」


うふふあはは。
……こんな２人が、私の兄と姉です。



／



「あんなにひどい人だったなんて思わなかったわ！」

お姉ちゃんは涙ながらに、私に訴える。

「ねえミク、あなたもそう思うでしょ！？　あんな恩知らず、見たこと無いわ！」
「お、お姉ちゃん落ちついて。彼にもそれなりの事情が……」
「あんな男をかばうの！？　ミク、あなたもいずれ騙されちゃうわよっ！」

何とかなだめようとするけど、お姉ちゃんの怒りは収まりそうにない。

「お姉ちゃんだって、最初はかわいそうだって言ってたじゃない」
「そうよ、言ったわ！　あんな人にちょっとでも同情しちゃったなんて……自分がこんなにバカな女だったなんて！　私、もう私ッ……！！」


お姉ちゃんが『ごんぎつね』で泣いちゃって、手がつけられません。
誰か助けて下さい。



／



どうしてもお姉ちゃんに言ってもらいたいセリフがあって、苦手な英語を頑張った。

「スリー、マイナス、ツー、イコール？」

３－２＝？
ただの引き算だ。
お姉ちゃんは満面の笑顔で、元気よく答えてくれた。


「わんっ！」


すいません。
正直、辛抱たまりません。



／



『動物』タグの動画って癒されるよね。
可愛いネコさんが、なぜか一生懸命ティッシュの箱に入ろうとしている姿とか、すごく微笑ましくて。
お姉ちゃんはそんな動物タグの動画が、大のお気に入りだ。

「ぷっ……やだ、この子ったら……。もう、もう……」

ネコさんの姿にすっかり夢中。もう愛おしくて仕方ないって、とろける様な顔で見守っている。
笑いが漏れるのを必死で堪えて、顔真っ赤にして肩プルプル震わせて。

「～～～～～っ！」

こらこらお姉ちゃん、椅子でジタバタしないの。お行儀悪いよ？
あんまり暴れると、後ろにひっくり返って危な……ああほら、言わない事じゃない。もう、しょうがないなぁ。


―――― というお姉ちゃんの姿が、なぜか『動物』タグで投稿されていた件について。








　　　巡音ルカの『めぐりすぎ注意だと言うだけ空しくなってきた』

　　　　　　　　　　　　　　　おしまい