ロッカーの立ち並ぶ部屋で、俺はタイトと共に、あの浅黒いクリプトン社員、クロギンから渡されたコンテナの中身を確認していた。
 まずは、俺が水面基地に置いて来たスニーキングスーツと特殊自動拳銃Ⅳ型、GPS端末で、タイトにも色違いのスーツが用意されていた。
 そして次に目に付いたのが、異常な数の銃火器類。 
 あの作戦は、これら全ての弾薬を最大限に使用せねば成功し得ないということか。
 特にこの銃・・・・・・。
 「いいブツだろ?」
 俺がその中の一つを手に取ると突然背後からクロギンの声がした。 
 この部屋に足を踏み入れたときから本当に何の気配も感じなかったので、思わず鳥肌が立った。
 振り向くと、クロギンがあや意思笑みを浮かべながら立っていた。
 「20式、45口径機関拳銃。ナイベス社のAY-69の派生とも言われている、クローズボルト式サブマシンガン。MP5に続く、当たるサブマシンガンと言われている・・・・・・。」 
 「ずいぶん詳しいんだな。近頃のメディカルズは兵器開発までしてるのか?」
 クロギンの饒舌に答えるようにタイトが言った。
 「いや何・・・・・・ただの趣味だよ。」
 そういって彼は小さく笑う。
 「それにしても、あんた本当にとんでもないことを考え付いてくれたな。」 俺がにらみつけると、クロギンはすぐに何のことかを察し、苦笑いした。
 「いいじゃんか。それしか方法がないし、それに、最高にスリリングな潜入方法だろ?」
 「ま、確かにそうだな・・・・・・。」
 意外にもタイトはこの男が考えた、突拍子もない潜入方法に何の疑問も抱かず、むしろそれを楽しみにしているようだ。
 そう。先のブリーフィングルームで、少佐が俺達に伝えた、恐ろしく危険で、そして最高にスリリングな潜入方法。それは全てこのクロギンが提案したものだったのだ。
 その態度といい、言動といい、本当に何を言い出すか分からない男だ。
 「他にもいろいろあるぞ。ほれ。特にこれなんか。」
 クロギンがタイトのコンテナから、一斑のライフルを取り出した。
 どこか古めかしいスタイルだが、各部に取り付けられたマウントレールと、樹脂製のバンガード、ストックが、高度な近代回収を施されたことを物語っている。
 「FY-71だな。昔の任務で現地調達をしたことがある。」
 タイトはクロギンからそれを受け取り、マガジンの脱着してレバーを引いた。 
 「旧興国がAK-47をベースに独自開発したものだが、そいつは部品精度の向上が図られた改良タイプで、命中精度は折り紙つきだ。オプションも一緒に入れておいた。」
 クロギンの解説を聞きながら、タイトは慣れた手つきでドットサイト、レーザーサイトをレールマウントに装着していく。
 「まだまだあるぞ。他にこれとか。」
 「分かった分かった。もういい・・・・・・。」
 まだ解説を続けようとするクロギンをタイトが制止した。
 多くの装備をバックパックに収め、サブマシンガン二班とハンドガンはホルスターに収納した。
 「これで全部だな?」 
 「いや、実を言うと、後一つ、重要なもんが残ってるんだな。これが。」
 そう言うと、クロギンは両手のポケットからナノマシン抑制剤の注射器を取り出した。いや、よく見るとラベルが違う。
 「こいつを、打たせてくれ。今君達の体内にあるナノマシンは、一切が使用不可になっている。こいつはピアシステム用ではなく、無線用ナノマシンだ。こいつを打つことで、今までどおりに無線が使える。」
 俺とタイトは顔を見合わせた。 
 まだ合って間もないような、しかも外見的に怪しいこんな男に注射を打たれるのは、いくらなんでも抵抗を覚える。
 しかし拒否しても始まらないし、そうすればこの男は強要しそうな気がする。 
 俺達は視線で頷き、この注射を受け入れることにした。 
 「じゃあ後ろを向いてくれ。行くぞ・・・・・・。」
 彼の言うようにすると、次の瞬間首筋に鋭い痛みが走った。
 「ッ・・・・・・!」
 クロギンは容赦なく俺達の体内にナノマシンを流し込んだ。
 得体の知れない、何か出なければいいが・・・・・・。
 「よし!これで、少佐達と仲間の間での無線は大丈夫だ。」 
 首筋から針が引き抜かれると、タイトは眉間に皺を寄せクロギンを睨み付けた。
 「おい。もしかしてこれと同じ事を、お前がキクにしたんじゃないだろうな?!」
 それなら仕方がない。
 なにせ、こんな不気味な笑顔を持つ男が自分の命より大切にしているキクに注射をしようものなら、今ここでクロギンを殺しかねないからな。
 「あ・・・・・・いや、あのコ達は網走博士にしてもらったよ。はは。」
 「・・・・・・ならいい。」
 これで一応、クロギンは九死に一生を得たということか。
 とにかくこれで、後は任務開始を待つのみとなった。
 「お、そろそろ時間じゃないのか?ホレ。」
 クロギンが腕時計を俺達に見せた。
 十時五十分。あと十五分だ。
 既に準備は万端、俺達が乗る「愛機」は「弾薬庫」で既に「装填」されているに違いない。
 「そうだな・・・・・・デル。行くとするか。」
 「ああ。」
 俺とタイトはスーツにバックパックを装着し、装備の動作を確認するとロッカールームを後にしていった。
 「がんばってくれよ?奴らを何とかしないと、日本中が奴らに占領されちまうかもしれないんだから。」 
 ロッカールームを出て行く俺達の背に、彼の言葉が掛けられた。
 分かってるさ・・・・・・。   
 恐らく、これが奴らとの最後の戦いとなる。
 俺は必ず打ち勝ち、任務を達成し、そして確かめなければならない。
 この俺が、本当は何のためにあるのかを。
 そして、彼女が言おうとした、言葉を。
 胸の中で呟きながら、俺はタイトと共に、弾薬庫へと向かっていった。

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SUCCESSOR's OF JIHAD第六十話「得体の知れない男」

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投稿日:2009/12/01 22:25:25

文字数:2,421文字

カテゴリ:小説

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