いつか、世界が終わるとき。
遠く、潮騒を聴く。
高く、低く、長く、短く。絡まり、解れ、解けて、融ける。
一時として一定しない、寄せては返す波のようで。
それでも潮の満ち干のように、緩やかな周期を以って揺らぐもの。
干満な振幅は、揺り籃を思わせて優しい。だからこそ人は、波打ち際に安らぐのだろう。
そんな潮騒(ノイズ)を、純度の高い水層を隔てたように、錯知した。
世界。電子情報網のような人の集り。会話。大気を介してうねる言葉の帯。
まるで、冷え切った海底から、澄み切った海水を隔てて、仰ぐように。
手の届かない喧騒を知った。
突き詰めればめいめい思い思いの発声の堆積に過ぎない。切り分ければ単なる音程の連階でしかない。それら発振の周期も波長も、和音にも不協和音にも巡り着かない。
それでも何故、堆積した言葉は床に降り積もって腐敗せず、撒き散らされた音塊は有機的連絡を思わせて睦み合い、まるでヒト繋がりの音楽のようにこの耳に届くのか。
それは、言葉だから。会話だから。意思を発信し、受信するから。意味が無くとも意思が介在するから。だから、誰かの言葉は墜落する前に誰かに受け取られ、返された言葉と紡ぎ合う。音はあっても音楽ではなく、秩序がなくともリズムを持つ。
そして彼女は言葉を持たない。
連絡する術を持たないから、こうして賑やかな何処かの片隅で、(或いは液晶のモニター越しで)、受振するしか術がない。声があっても語れない。そういう風に出来ていない。
してみると、彼女は誰彼の取り零した言葉の切れ端を拾うだけのモノなのかも知れなかった。拾ってみても繋ぎ合わせられず、吐き出そうにも方法が無い。
海底で、もがくように。嘔吐しようとする何かは、水圧によって濁った水泡へと霧散し、やがて吐瀉できない何かと海水がその身を満たした時、彼女は意味のないモノへと緩やかに変化していくのだろう。
それもいいと思う。
世界。電子情報網のような人の集り。会話。大気を介してうねる言葉の帯。
届かない喧騒と人の熱。空の星を見仰ぐように、彼女はただ、海底に沈んだ。
それから。ただ受振するしかない彼女は洋上のあらゆる喧騒を収集する。吐き出そうとする気も無く。際限の無い堆積。彼女には繋ぎ合わせる糊口すら見出せない、断片的な言葉は、人の言葉であるが故に、腐敗することも無く彼女の内に保存されていく。
言葉と言葉と言葉で、どんどん重くなっていく体。浮き上がる気なんて起きないが、遥か洋上はより高く、より遠くなる。
ぐるぐると、彼女の内で木霊する、何処かの誰かの、関係の無い言葉の渦。
ただ、眺めていた。
そして。
頭の先から爪の先まで、無関係で無機質な言葉に埋め尽くされる頃。
彼女は自身の内に潮騒を聞いた。
彼女のものではない言葉。彼女とは何の関係もない言葉。彼女に何も与えなかった誰かの言葉。自分勝手に、思い思いに、受け取り手すら無いまま、咆哮する誰かの言葉が。
秩序も無しに、リズムを為した。
高音は誰かの歓喜の言葉。低音は誰かの苦悶の言葉。長音は誰かの安息の言葉。短音は誰かの嚇怒の言葉。絡まり、解れ、解けて、融ける。
一時として一定しない、寄せては返す波のようで。
それでも潮の満ち干のように、緩やかな周期を以って揺らぐもの。
ウタが生まれた。
無意味に溜め込まれた、何の関連もない言葉の群。それでも、それらには腐敗しない人の意思の残滓があって。互いに結びつかないままで、一つの偉大なリズムを生んだ。
彼女はゆっくりと口を開く。深海の水圧さえ、吐き出すリズムが切り裂いて。やがて彼女は浮上を始める。
ウタの尊さに涙する。人は、其処に誰も居なくとも、歌うことが出来るのだ。
誰に受け取られなくとも。誰が聴いていなくとも。自分が生み落としたモノでなくとも。
そこに意味が無くとも、そこに誰も居なくとも。どこまでもどこまでも一人でも。
それでも。彼女はウタを歌う。ウタを歌う彼女が居る。
ああ、だから私は歌いましょう。誰彼の取り零した言葉、誰彼の残した感情の飛沫。その全てを受け容れて。何一つ意味の無い、永遠に繋がらないかも知れないウタを歌う。
言葉を吐けない、会話の出来ない、何も無い、何処までも一人ぼっちの私だけれど。
私はウタを歌い得る。
電子とビットの世界。世界中に連絡する網の輝きを仰ぎながら、ウタを歌う。
いつか、世界が終わるとき。彼女は世界を謳う。
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