「・・・おっとぉ、これでまだ終わったわけじゃねぇぜ、そこの2人さん」
おじちゃんは、また箱を振って今度は俺の方へ差し出した。
「さぁて、そこの彼氏さんも、くじひいてみないかい?」
「・・・・」
そう言われると、乗らない手はない。
「・・・分かりました」
俺たちの周りはあの金魚すくいの時みたいにやけに静かだった。
「じゃあ、俺、1等を狙います」
俺が言うと、また周りに集まってきていた野次馬たちが一気にざわざわし始めた。
「・・・おぉ、彼氏さん、言ったね?」
おばちゃんはすごいと言わんばかりに確認した。
「・・・はい」
ここまでくれば、もう引き返せない。俺は集中するために軽く頷いて、目を閉じた。
一気にあらゆる音がなくなり、静かになっていく。
俺は目を開けて、箱の中から1つの紙だめを引き取る。
「・・・・・」
おじちゃんは俺から、紙を受け取り広げる。
「・・・っっ!?」
おじちゃんの息をのむ音がして、それだけで俺は結果が分かったけど、おじちゃんが言うのを待った。隣のミクは不安そうにプーさんのぬいぐるみを両手で抱きしめながら、おじちゃんを見守る。周りの野次馬たちも呼吸をするのも忘れて事の成り行きを見守っていた。
全ての音がなくなり、静寂が辺りを包み込む中、
「・・・」
ただ1人、おじちゃんは元気に変わらないテンションで沈黙を破った。
「・・・1等、大当たりぃぃぃっっ!!」
その瞬間。静寂は消え去り、音が騒がしいほどにあふれかえった。
周りの野次馬たちは、口々に「すげぇ」「すごいね」などと、騒ぎ立てながらさっきの拍手よりも、もっとすごく大きい拍手をしてくれた。
その中、俺はおじちゃんからスイーツ食べ放題券をもらった。
「しっかし、なかなか運がいいな彼氏さん。・・・お見事だった」
俺はおじちゃんから手渡されながら言われた。俺は苦笑いしながら言った。
「・・・俺は、となりにいる彼女のためなら、どんな奇跡も巻き起こすことが出来るんですよ」
・・・あれ?なんか、しんと静かになったような・・・。
「・・・アカイト」
ミクは、わずかに顔を赤くさせて言う。
「・・・・・ん?」
俺、何か悪いことでも、と思ったところで、
「・・・あ」
さっき、俺が言った言葉を思い出し、表情が固まる。
「・・・・はははっ。ほんとにおもしろい彼氏さんだ」
「おじょうちゃん、よかったねぇ。こんなにかっこよくて素敵な彼氏がとなりにいて。あたしなんて、こんなに老けてる人がとなりにいる毎日だよ。・・・でも、まあ、幸せだからいいんだけどね」
おばちゃんは、おじちゃんに聞こえないようにだけど俺たちには聞こえるように言った。
「・・・あはは」
俺たちは苦笑するしかなかった。
でも、そういうおばちゃんの表情は幸せそうだった。
俺とミクもいつかはこういう風に思えるのかな、と思った。
「じゃ、もう行きます」
「そうだね、花火までもう時間ないんだからね・・・」
おばちゃんは、淋しそうに呟いた。
「・・・はい。・・・あの、とても楽しかったです」
「それは、こっちのセリフだよ。」
「それはそうと、おじょうさん」
おじちゃんは、ミクを見た。
「幸せになれよ」
「・・・・はいっ!」
ミクは、はにかみながら頷いた。
俺は、聞いた。
「あの、来年もいますか?」
「ああ、もちろん。あたしたちは来年もいるからさ、また来てね」
「分かりました」
「また、来ます」
「じゃあ、元気でね」
「風邪なんか、引くんじゃないぞ」
2人のお別れの言葉に
「それは、こっちのセリフです。お2人こそ、風邪とか病気とかしないで下さいね」
「さようならっ!」
と、返して俺たちは笑顔でくじびき屋さんをあとにした。
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