全てを終わらせた僕をよそに無惨にも朝はやってくる
王女が待っている、早く城に帰らなければ…

城に帰ってから見たのは王女が廊下で座り込んでいるところだった

『リ…王女っ!?』

思わず名前で呼んでしまいそうになったのを押さえ、王女に駆け寄る
そして僕の姿を見て驚く王女

『レ、レン!?その服…っ』

あぁ、名前でようやく呼んでくれた
驚きと嬉しさが混じり、そして心配をかけてしまったことを悔やんだ

『レ、ン…?』
『…王女、私の名前はレンではありません。ただの召使です』

そう言えば困ったように僕を見つめる王女…いや、僕の愛しい妹
ひとまず着替えてこなければ…

『驚かせてしまってすみません、先ほどペンキ塗りをしておりました。私は着替えてきますので、王女はお部屋へとお戻りください。ご心配かけてしまい申し訳ありませんでした』

一礼をしてからリンに背を向けて自室へ

……リンと僕はこの国の期待の双子
成長していくにつれ、大人たちが何か言い出す
それはあまりにも難しいことでその時の僕らはわからなかった
けれど、今ならわかる
大人たちの勝手な都合で僕らの未来は一瞬にして壊れてしまったということを

まだ、幼いリンが王女になる前、よく二人で青の国へ出向いた
それは、その国に伝わる古くからの言い伝えを試したかったから
きっとリンは何も覚えていないだろうけど…

もうそろそろ午後三時
リンはブリオッシュを楽しみにしているだろう
そう考えると何故か笑えてきて、足早に調理室へと向かった

それから何度となく変わらない毎日を過ごしていった
変わったのは緑の国とリンが僕に微笑むようになったこと
けれど僕の心は満たされない
そんな気持ちとは裏腹に笑顔でリンに話しかける自分がいてばからしくなった

彼女…ミクが言った言葉、

【シナリオはもうすぐ終焉を迎える。あなたも本当はわかっているでしょう?】

あぁ、わかってるさ。けれどどうすることもできない
これは報い。それならば僕はあえてそれに逆らおう
可愛く可憐な僕の愛しい妹、彼女を守るのは僕の役目なのだから


やけに物静かな朝
いつものように仕事をしようと思っていたが、何だか城内の様子がおかしい
窓を見れば武器を持った民衆と先頭には赤の剣士と青の王子

「…今日が終わりの日なのか…」

14年、短いようで長い月日を送ってきた
それがようやく終わりを迎えるのだ

こうしてはいられない
クローゼットからあるものを取り出し、
きっと不安がっているであろうリンの元へ向かった

『王女!!逃げてください、赤の剣士と青の王子が民衆を引き連れてクーデターを起こしました!!』

そこには予想通り怯えているリンがいた
大臣たちはいない…これさえもシナリオだというのか

ぼーっとしていると城から数名の声が聞こえる
まだリンは混乱しているようだ。無理もない…だが、今は一刻を争う

『な、なんで…どうし…』
『王女、早くこちらへいらしてください、早く!!』

リンの手を取り、廊下へ飛び出た。声の聞こえてきた方向は城門
ということは外へ逃げられないだろう
それならば…

『レン…』

酷く怯えているリンを安心させるかのように、強く、優しく手を握り締めて走る

『…大丈夫、大丈夫だよ、リン』

本当は名前なんて呼ぶつもりなかったんだ
決心が鈍る前に早く仕事を終わらせたかったから
けれど隣で壊れそうな妹を見て、どうしたらいい?
僕にはリンを抱きしめる資格などない

息が切れそうになったとき、目的の場所に辿り着いた
そう、ここは…

『こちらへどうぞ』
『ここは…』

代々王家が守ってきた王室の間、玉座がある場所だ
扉を開き、リンを中へと入れる
その間にも民衆の声は大きくなる一方だった

『レ…』
『リン』

リンの言葉を遮るように小さい、けれどしっかりした声で言い聞かせる

『ほら、僕の服を貸してあげる。それを着て早くここから逃げて』

目を大きく開き、涙を零すリンはとても綺麗で可愛い

『大丈夫、僕らは双子だよ?きっと誰にもわからない』

そう言って持ってきていた僕の服をリンに手渡す
中々受け取らず俯くリンをよそに、だんだん民衆の声が近づいてくる

『リン、最後くらい僕のお願い聞いてよ。海で約束したでしょう?』

そう言えば、はっとしたように顔を上げ、涙を拭いて着替え始める

そう、これでいい
リンが民衆から悪の娘と言われるならば
同じ血を引く僕はさしずめ悪の召使かな?
なんて馬鹿みたいなことを考えながら僕はリンからドレスを受け取り着替える
このドレスは……僕がリンに似合うと思って作らせたあの黄色のドレス
なんだ、ここからすべては始まっていたのか…
自嘲ともとれる笑いを零す僕を不安そうに見つめるリン

『さぁ、リン。お別れだよ』

民衆の声も近い。その姿ならばどうにか城の外へ逃げれるだろう
走っていくリンの姿を見て、泣きそうになるのを堪え玉座に座り俯く

僕の役目はこれで終わり…
後は…………








『この無礼者!!!』

ついに青の王子と赤の剣士が王女(召使)を捕らえ、この一言により、城は静寂を取り戻した

齢十四にして召使となった一人の少年
その傍らにいつもいた召使(王女)はもういない
青の王子と赤の剣士が事の始まりは王女なのだから、罪もない召使を捕らえる必要はないと言ったからだ

事の騒動から数日後
広場には大勢の民衆が集まり、高台の上を食い入るように見つめている
その上には赤の剣士と青の王子、そして

「黄の王女、最後に言い残す言葉はあるか?」

そう、処刑台に括りつけられた王女…いや、召使






少しの静寂が続く


もうそろそろ午後三時
鐘が鳴り響くだろう

始まりから終わりまで、ずっとこの鐘は僕らを見守ってきた
僕のしたことは間違っていたのかな?

ねぇ、リン
約束覚えててくれてるかな?

まだ本当は、言いたいことたくさんあるんだよ
だけどあまりにも時間が足らないから
僕は海でしたあの言い伝えがどうか届くように願っているよ



‘        ’

‘         ’

‘       ’

‘          ’



……さぁ、鐘が鳴る

リンは来ているのかな…?

顔を上げれば遠いけれど間違えるはずがない愛しい半身
あぁ、良かった。リンを見て微笑む

君に届くかな?

もしも生まれ変われるならば…――






『あら、おやつの時間だわ』








昔々、一人の少女と一人の少年がいました
無知であるが故に、大切な半身を失った不器用な少女
利口であるが故に、運命を変えられたことを喜ぶ少年
そんなことを知らない民衆は、少女(少年)がいなくなったことで喜び合い、抱き合いました
そして口々に言うのです

‘悪の娘(召使)はいなくなった’と

果たして、一番の愚か者は誰なのでしょうか
悪の娘、悪の召使、緑の娘、白の娘、青の王子、赤の剣士
それとも…―――




‘例え世界の全てが’

‘君の敵になろうとも’

‘僕が君を守るから’

‘君は何処かで笑ってて…―’

fin...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

"悪の召使"歌詞小説No.5(悪2/2)

……長い…ですね…
すみませんでした…orz

閲覧数:1,241

投稿日:2010/02/07 10:23:17

文字数:3,075文字

カテゴリ:小説

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  • レイジ

    レイジ

    ご意見・ご感想

    初めまして、レイジと申します。

    作品読ませて頂きました。心理描写が上手いなと素直に思いました。
    文章も良く纏まっていて、読みやすかったです☆
    良い作品をありがとうございました!

    2010/02/11 17:42:07

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