二〇二〇年。今、日本は隣国の興国と一触即発の状態になりその上、強大な軍事大国となってしまった。
今から五年前、興国ではテロなどで内戦が絶えない状況だった。日本でもテロ行為が行われることがあった。それも、二年前には沈静化したように見えた。そして日本は、興国へ自衛隊の海外支援派遣を実行したのである。しかし、それによって起こったある悲惨な事件によって事態は一変する。派遣された自衛隊員の一隊の約百名がテロリスト達の手によって殺害されたのだ。必要最低限の自衛武装しか所持していなかった彼らは、完全武装したテロリストの大集団に敵うはずがなかった。それに対し興国政府は責任を負う姿勢を一切見せなかったため、日本国民の怒りは爆発。しかも興国側が日本に内戦に加担したテロ組織が潜んでいると主張し、日本側に圧力をかけるようになる。
それから日本空域に領空侵犯する国籍不明機(おそらく興国)は増加し、さらには拉致事件まで起こるようになった。
事態を重く見た日本政府はその年に自衛隊を日本防衛軍と改名。一気に軍備が増強された。そして興国に面している日本海海上に防衛空軍の人工島基地、水面基地を建造した。そこには緊急事態に対応できるよう、全国から優秀な戦闘機パイロットが集められ、最新の設備と最新の戦闘機が配備された。その中でも最強と謳われる四機の新型戦闘機は、通常のパイロットでは使用に耐えられないため、選抜され体に改造手術を施された強化人間パイロットと遺伝子操作でそれと同等の能力を持った人造人間パイロットが開発された。それがソード小隊の俺達だ。
◆◇◆◇◆◇
早朝、俺達ソード小隊とその他の部隊がブリーフィングルームに集まっていた。
あと五分で出撃管理の少佐が来て今日のスケジュールや連絡事項が言い渡されるミーティングが始まるはずだ。
それまで皆は雑談をしているのだった。
「どうせ今日も上空警戒だな。俺達は非番だし。」
俺の隣に座っている麻田が呟いた。
確かにここに配属されてから俺達ソード小隊の任務はほかの隊と交代で上空警戒だけという単調なものだった。それでももう俺は配属以来何百回とスクランブルで空に上がっている。
だが戦闘になったということは無い。しかしそうなる可能性は十分ある。
そのときブリーフィングルームのドアが開かれ、雑音ミクが入ってきた。
途端に皆の話し声が止んで彼女に興味的な視線が集まる。
やはりアンドロイド以上に少女である彼女は男だらけのこの基地ではやはり珍しいのだろう。しかもその容姿はかなり魅力的だ。上着こそ俺達の制服と同じだが、なんと下半身はミニスカートに黒タイツという、何とも官能的な雰囲気を漂わせる服装ではあった。
「遅くなってすまないな。あ、おはよう舞太。」
「ミクちゃんおはよ。」
そんな格好のミクに平然と朝美が声をかけた。その会話を聞いていた周りから忍び笑いが聞こえる。
確かに朝美は幼稚な言葉遣いだ。朝美は強化人間の俺や麻田、気野とは違い、遺伝子操作によって最強のパイロットを生み出す計画で生まれた人造人間だ。知識などはすぐに覚えていったが精神年齢だけは自然に成長するのを待たなければならなかった。それでも彼は生まれてすぐここに配属された。
「……なんでこいつがここにいるんだ。」
麻田はミクを見ると俺に小さな声で話しかけた。あのテスト以来麻田はミクのことに良い印象は持っていないようだ。
「すぐに分かる。」
と、俺は素っ気無く答えた。
「なんだよ……。」
麻田はそうつまらなそうに呟いた。
ミクは俺の隣の空いていた席に腰掛けた。改めてみてもやはり人間の少女と見紛う。身長は朝美より小さい165センチ位か。
「皆静かに、いまからミーティングを始める。」
部屋の前のほうにある黒板より巨大な液晶画面の前に各部隊の出撃管理を行っている 神田美咲少佐が立っていた。
「えーまずひとつは周知のとおり昨日、ソード小隊二機と新型の空中戦闘用アンドロイド、FA-1との空戦テストを行った。結果はFA-1の圧勝。彼らを倒したということで空中戦に非常に有効なことが分かった。そこで司令官の意向もあって、FA-1いや、雑音ミクを……ソード小隊へ配属する。」
「よろしく。隊長。」
ミクが俺のほうを向いて言った。
「なっ……っ!。」
よほど衝撃的だったのだろう。麻田は椅子から飛び出しそうだった。それを気野が手で制止していた。
「どうした。何か質問か?麻田中尉。」
気を取り直した麻田が質問した。
「その、なぜうちの部隊なんです?」
「それはな、昨日まで最強だったお前達がボロ負けしてミクが最強の戦闘機となったわけだ。だから、最強の戦闘機は最強の部隊に相応しいということで司令官が決められたんだ。解ったか?!」
「わ、解りました……。」
背後の方でまた忍び笑いが起こった。正直この二人のやりとりは教師と生徒という感じがしてならない。
「ミクはソード隊五番機。これからはコールサインはソード5だ。いいな?」
「分かった。」
と、ミクははっきりした声で答えた。
「このあとソード隊は基地周辺空域の哨戒にあたってもらう。詳細はこのあとのブリーフィングにて伝える。それと、今日からスクランブルの当番はダガー隊からソード小隊だ。常にフライトに備えているように。」
それから幾つかの連絡が終わりミーティングで終わると、ほかの隊のパイロットはブリーフィングルームから出て行き俺達と少佐が残った。
少佐が部屋の蛍光灯を消し、そのあとすぐに俺達の顔を巨大な液晶画面が照らした。
「久々にお前達に任務に当たってもらう。新人を配属したことだしな。」
そう言って少佐はリモコンを操作し始めた。
液晶画面に基地を中心として円形の警戒エリアを表示した地図が現れた。それぞれ数十キロメートルごとにエリアが分かれている。
少佐のリモコンの操作にあわせてポインターが俺達の飛ぶエリアにラインを引いた。
「今日はDエリアの警戒だ。最近、武装した国籍不明機が飛来しているという情報があり、今回は警戒範囲をDエリアに伸ばした。帰還許可が降りるまで哨戒を実施せよ。高度は二万フィート。速度は五百ノットだ。国籍不明機およびその他の異常を発見しだい、司令部に連絡し指示を待て。あと、分かっていると思うがDエリアとなるともうかなり興国の領空に近づいている。絶対に、指定されたウェイポイントから離脱しないように。下手すれば興国の迎撃機が飛んで来るぞ。離陸時刻は七時。以上だ。」
画面に表示された情報を俺達はすばやく頭に叩き込んだ。
「ミク、分かるか?」
少佐がミクの顔を覗き込んだ。
「分かる。それに、フライトの内容はハンガーでコンピューターに入れて貰うから。」
ミクは元気な顔で言った。具体的なことは分かっているようだ。少佐は驚いたように目を見開いて肩をすくめると、満足気に笑みをこぼした。
まだ専門的な知識は無いが理解力は人間以上なのだろう。流石アンドロイドといったところか。
「よし。ブリーフィングを終了する。」
俺達は敬礼するとブリーフィングルームを急ぎ足で出て行った。これからGスーツを装着したあと、機体のある地下駐機場へ向かうのだ。
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