もし世界がたった五分前に始まったのだとしたら、私という人間をどうやって証明するのだろう?
それは突然のことだった。
一時間目のその授業は、普段とは別の席に座ることになっていた。
問題集をどけた机の端から目に入ってきたのは、まさに悪意そのものだった。
女子特有の丸っこい字で何の罪悪感もなく書き連なれた暴言は、口に出せば人間同士の関係などたやすく壊せそうなほどの威力さえ持っていた。
部活に来るな、まじうざい、書かれていたのはそんなものだった。
重くも軽々しく使われるある特定の言葉に関しては繰り返し書かれていた。
その机の主がどうしてそれらを書いたかはわからないが、その言葉は私の心に硝子の雨のごとく突き刺さった。
机の主は私に何回も詫びた。私に対して書いたものではないことは本人の態度から明らかだった。
しかし机の端を埋め尽くすその落書きが私に強いショックを与えたことだけは真実だった。
まさに言葉の暴力。言葉というものは軽くも重くもなるこの世で最も恐ろしい武器だ。
私が理解したことは彼女の語彙力のなさと器の小ささくらいのものだった。
もちろん普段の私ならそれくらいのことは特に気にせずスルーするのだが、どうもこの日はいつもの調子が戻らずにいた。
何かを聞かれても咄嗟に笑顔を繕ってばれない程度の嘘を返せるはずなのに、この日だけはどうしても表情が動かなかった。
時々溢れそうになる涙を堪え、眠そうなふりをしながらそっと目元を隠した。
家に帰るまでずっと笑えず、まるで人生の絶望を誤って覗いてしまったようだった。
小さな小さな恐怖の種を植え付けられた。心に。精神に。癒えることはない。
「大丈夫か?人生終わったみたいな顔してるぞ」
顔を上げれば、そこには一人の人間が私を無表情で見下ろしていた。
彼は私のクラスメイトであり、親友であり、幸せを分かつ彼氏でもある。
「そんな大げさな顔してた覚えはないわよ」
「今朝のことだろ?」
「随分勘がいいのね」
「悪い、ちょっと机見ちまった」
「そう。いいわよ別に、それほど気にしてはいないから」
表情を作ることはできないが、こうやって平然と嘘をつくあたり私も彼女とたいして変わらないのかもしれない。
「ルカがそう言うんならそういうことにしておいてやる。そのかわり放課後俺の急用に付き合ってくれないか」
「急用?」
「慰めに近くのコンビニでも行こうかと思って」
「お金ないって言ってたくせに」
「ルカに軽く奢るくらいはあるさ」
それ以上は何も言わなかった。
学校で深く突っ込まれてもはぐらかすのが難しい。その点をわかってくれていたのだろうか。
今朝の出来事が夢とかだったらいいんだけどな。
今すぐにでも記憶から消し去ることができるなら世の中都合のいいことばかりになるけれど。
愚痴とか悪口ばかり言っている人間はそれ以外に離すことがないのだろうか。
本当に人間様は厄介なことを考えるものだ。
別に今に始まったことではない。
所詮人間など悪く言えばエゴと欲求の塊みたいなものだ。
それだけじゃない。無限に尽きることのない好奇心、それこそが最も厄介だ。
好奇心がなければ文明は進化することはなかったし、世の中の人間はもっと無気力に暮らしていただろう。
しかし好奇心も度を過ぎれば思考能力を捉える足枷となる。
人間はどうしても物事を科学や自身の常識の範囲内で認識しようとする。
この星は人間が作り出したものではない。膨大な地球の歴史の中では人間は駆け出しのひょろひょろみたいなものだ。
なのに人間が作り出した科学などで解明しようとする。
無理に手中に収めようとするから理解ができないのだ。
例えば「世界は実は五分前に始まった」という仮説。
もし本当にそうだとしたら、それを証明する方法はいったいどこにある?
そうじゃないにしてもそれをどうやって証明する?
遥か昔から存在しようがつい最近に出来上がろうが、人間という性に囚われているうちは万物の完全な証明法など存在しない。
人間は自分自身のことさえ真に理解できていない。
故に自身の存在理由を説明することもできない。
「ねえ神威」
「どうした?」
「私ってさ、なんで生きてるのかな」
「は?なんでまたそんなことを?」
「いや、なんか気になってさ。神威にはどんなふうに見える?もしも進む道が崖っぷちぎりぎりを恐る恐る歩くくらい過酷でも、そうまでして生きたいと願うのかな?」
こんな問いかけに「何言ってんだ」と一喝してもおかしくないのに、意外にも神威は真剣に考えてくれた。
「歴史とか見てても、名を残した人は皆いろんな凄いことしてるよな。今までとんでもない挫折とかつらく苦しいことを積み重ねて、なんとかして世の中を変えようとして消えていった人達ばかりだ」
「確かに目的が叶わないまま断念せざるを得なかった人達も多いと思う」
「そう。人の数だけ無数に価値観が存在するなら、それだけ伝えたいことや実現させたかったことだって存在するわけさ」
「うん」
「信念のために行動する途中で『本当にこれで正しいのか』『自分の生き様はこれでいいのか』とか、自分について再確認する」
「再確認?」
「うん。なんて言うんだろうな、そうやって全体を見つめなおしてさ、自分が生きる意味を見つけるんだ。一つ見つかってもそこで満足するんじゃなくて、もっとたくさん見つけようと頑張るんだ」
「……」
「だからさ、ルカも考えるより先にまず動いてみたらいいんじゃないかな」
「もしも、つらくて苦しくて泣きたいときは?」
「その時は…そうだな、俺がその無防備な背中を守るよ」
もしも世界が五分前に始まったとして。
植えつけられた記憶が例え想像を絶するものであったとしても。
実際は五分しかない過去より、無制限に時間がある未来に向けて歩く。
一人で見つからないなら、二人で一緒に考えながら見つけていけばいい。
「ふふ、ありがと。週末神威の家に遊びに行ってもいい?」
「別に構わないけどなんで?」
「今後のこと、自分の将来についてちょっと考えたくなったの。少なくとも私はあなたと生きていくつもりだから。一緒に考えてよね」
何があってもさ、きっとあなたといられればなんとかなるんじゃないかな。
そう思わせてくれたのは、きっかけを作ってくれたのはあなただから。
「守ってくれるんでしょ、私の騎士様?」
彼は一瞬目を丸くして、だけどすぐに口元に笑みを浮かべた。
「仰せのままに」
【ルカ誕】世界五分前仮説
"No cross, no crown."(十字架なければ栄冠なし。)
人間は苦難を経てはじめて大成されるという意味。
どうもゆるりーです。
思いついた単語から話を考えてみました。
元々ルカ誕に考えていた話はファンタジーなのですが、とても一話完結では収まらなくなったので別の話を急いで考えました。
寝るときに考えたので構想時間は数分です。
頑張っていつものやつに持っていこうとした結果、妙に哲学的な話になりました。
堅苦しいこと言ってますが要するに「とりあえずやるだけやって生きようぜ!」ってことです。
なんだかがっくんのほうが際立っているような…まあいいか。とりあえずルカさん可愛いです。
あと自己満足で書いたのでいろいろ通常運転です。はい。
世界五分前仮説は本当にある仮説、というか思考実験の一つです。
なんでルカ誕考えきゃと思ったときにこの単語出てきたんだろう。謎です。
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Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
人間は進化しすぎた哀しい生物、というのが私の持論です。
人間がせいぜいちょっとした文明を作るような、もしくはオランウータンレベルのちっこい社会を作る程度の知能しか持っていなければ、滅ぶ生物は今よりずっと少なかっただろうし、同じ人間でここまでつまらぬ争いを繰り広げることもなかったでしょう。
だが人間は進化しすぎた。
火を見つけ、利用する知能を。
電気を見つけ、操る知能を。
化学物質を見つけ、利用する知能を。
それらを駆使して、兵器を作る器用さを手に入れてしまった。
そして言葉も手に入れてしまった。剥き出しの感情を叩き付ける刃を。
その結果が現代という惨状。
他を排除し、血で血を洗い、言葉の刃で若者すらも戦うような残念な世界です。
余りにも哀しい。
しかしその知能があったおかげで我々がこんな便利な生活をしているということも忘れてはならない。
このかなりあ荘のメンバーとて、コンピュータの発達がなければ大半がお互いのことを知らぬまま生きていたでしょう。
知能と言葉はまさに使いよう。在るだけで周りを破壊する爆弾となるか、守るべきものを守る刀となるか。使い手次第ですね。
何が言いたいかといいますと哲学的に悩むルカさんかわいいってことですね(え?
2015/02/02 23:14:03
ゆるりー
薬と毒は表裏一体、みたいなものですよね。
使い方次第で人間の命運などいくらでも変わるものですし。
ちょwwwwwwww
シリアスが見事なまでにぶち壊しwwwwwwwwwwwww
でもその通りなんですけどね、とりあえずルカさんはひたすらかわいいです(ん?)
2015/02/09 23:39:04