「ええっと…誰から動けばいいのかな?」
赤い服の女の子は周囲に確認するように尋ねた。
「素早さの順になりますが、敵モンスターのステータスがどれくらいなのかが問題ですね。」
メイド服を着た少女はそう言いながら自分の駒をマス目の上に置く。
『行動順は、重戦士A子→レッド・オーガ→狩人カノン→踊り子ユキ→巫女メロディ、です。』
戦闘の流れを淡々と機械音声が説明した。
「装備も新しくしたし、小手調べにちょうど良いニョ。」
魔女っ娘風の衣装を着た女の子は奇妙な語尾と共に答える。
「ではまず私からですね、重戦士は一旦店の外に出たいです。」
先程のメイド服を着た少女が先陣を切るようにサイコロを振った。
『了解です。ダイスの目だけコマを進めて下さい。』
進行役のAIがプレイヤーの行動に対する指示を出す。
「どうしてわざわざ外に?」
背高ノッポでサイドテールの女性が少し不思議そうに聞いた。
「重戦士が装備している武器は鎖付き鉄球、屋内で仕様するのはちょっと危ないですからね…。外からモンスターの背後を取ります。」
A子は自分の駒を動かしながら質問に答える。
『それでは次はモンスターの行動、レッド・オーガが店の主人に襲いかかります。』
「ええっ!?」
人工知能の発言に、私の隣でユキが驚きの声を上げた。
「どうやら、買い物に来た訳じゃなさそうだニョ。」
さらに妹のメロディが平和主義的なジョークを口にする。
「それじゃあ狩人が店主を庇います、出来ますか?」
私…カノンは咄嗟にGMに提案した。
『了解です。ではダイスを振って4以上で成功とします。』
それを聞いて長身の女性が手の中の立方体をテーブルの上に転がす。
「むぅ…2だ。」
私は残念そうにサイコロを見つめながら言った。
『では行動失敗という事で…。』
「待って!ここで狩人はアイテム『あまのじゃくの瞳』を使います。」
カノンは急いで自身の手元にあった一枚のカードを差し出す。
「これは…。」
「ダイスの失敗判定を強引に成功に出来るアイテムだニョ!」
ユキとメロディが二人してカードの説明書きを覗き込んだ。
『了解しました。あまのじゃくの瞳の効果によりダイスの目は4とします。それでは狩人カノンは店主を庇ってモンスターの攻撃を受けました、その爪により衣服は切り裂かれ肌が顕になるでしょう。』
「ほぇ?」
予想外の展開に私は目を丸くしつつちょっと間抜けな声を漏らす。
「スケベなAIニョ、一体誰がプログラムを組んだニョ。」
「リズムさんですよ?」
メロディが文句を言うと、すかさずA子が質問に答えた。
「なるほど!」
一番上の姉の名前を出され、三女は納得するように手を叩く。
「私の番ですね。それじゃあ踊り子のダンスでモンスターにデバフをかけたいです。」
そう言ってユキがサイコロを手に取った。
『ではダイスを振って出た目の分だけレッド・オーガの防御力をダウンさせましょう。』
「えいっ!やった、5です。」
彼女は可愛らしく小さなガッツポーズを見せる。
『踊り子ユキのダンスを目にしたモンスターはその怪しい動きに魅了されて守りにスキが生まれるでしょう。』
「最後はアタシの番ニョ、巫女の回復呪文でカノン姉のダメージを回復させるニョ!」
メロディはAIの進行も聞かず勢いよくサイコロを投げる。
『了解、ダイスの出目x0.5だけカノンさんのHPを回復させます。』
…そんな感じで一通り行動し終えると続いて戦闘は2ターン目に入っていく。
「それでは重戦士が鉄球を振り回し、店の外からレッド・オーガへ攻撃します!」
A子がモンスターへの攻撃を宣言する。
『分かりました、まずは鉄球が屋外からモンスターに当たるかどうかの判定を行います。
ダイスの目が4以上なら成功です。』
「ダイスロール!よしっ、ちょうど4です。」
『それでは続いてダメージ判定です。再びダイスを振ってその目の数だけダメージを与えます。』
GMに促され、彼女は2回目のサイコロを投げた。
「やった!6です。」
『重戦士はレッド・オーガの背中にハンマーを叩き込みます、クリティカルボーナスでダメージは22、モンスターは一撃で気絶し戦闘不能になりました。戦闘終了、冒険者パーティーの勝利です。』
「ありゃ、もう終わっちまったニョ。」
メロディが少し残念そうに呟く。
「凄いですA子さん!」
ユキが笑顔で功労者を労った。
『ではこの戦いでみなさんはレベルアップしました。これにより冒険者のステータスが上がります。あと、ダイスロールの判定により4以上の目が出た方は特技を閃く事ができます。』
それを聞いて、彼女達は順番に賽子を投げていく。
「2。」「5。」「1。」「3。」
「成功したのはカノンさんだけですね。」
A子は戦闘用の駒やシートを片付けながら言った。
『それでは狩人は戦いの中で新たな特技"ポイズン・アロー"を閃きます。通常の弓攻撃より強力な他、毒状態を付与する事で継続的にダメージを与えます。』
そして各々が自分のキャラシートを更新した後、プレイヤー達は軽いミーティングを取る。
「しかし…村の中でいきなりモンスターとエンカウントするとは物騒ですね。」
不審そうに呟いたA子に反応してAIが返答する。
『実は近ごろ、この村には度々モンスターの襲撃があるのです。』
どうやらそれは店の主人と会話をしているシチュエーションらしかった。
「ふむ、もしやこの村に防具屋が二件ある事と何か関係しているのかニョ?」
続けてメロディがだいぶ突っ込んだ質問をする。
『はい、その通りです。この村にある二件の防具屋は互いに商売を競い合っていたのですが、それがモンスター襲撃と関係あるのです。』
人工知能はまるで彼女がストーリーを言い当てたように表現を取り繕ったが、恐らく人間の提案を即興で採用しただけだろうと思われた。
「つまり…、商売仇への嫌がらせという事ですね。」
ユキが結論を急ぐように推理する。
「まだそうと決まった訳じゃないんじゃないかな?何か他に理由があるのかもしれないし…。」
対してカノンは慎重派としての意見を述べた。
「そうですね。現状では情報が足りません、もう少し他の村人に聞き込みをしてみましょう。」
そんな感じでA子が話まとめると、さらにメロディが付け足すように言った。
「ところでカノン姉はさっきのバトルで服が破けちゃった筈ニョ。ついでにここで装備の更新をしていくニョ。」
「あっ、そうだった!すっかり忘れてた。」
私が感嘆の声を上げると、機械音声のアナウンスが部屋に流れる。
『それでは貴方達は再び布の服屋と会話をします。モンスターを退治したという事で、彼女は好意的に冒険者と接してくれるでしょう。』
「モンスターの死体とかどうなってるんでしょうね?」
「この際細かい所は無視するニョ。」
そんな中、A子とメロディがヒソヒソと内緒話をしていた。
『まぁ!先程の戦いで服を破かれてしまったのですね、それならちょうどいい品があります。』
『そう言って服屋は店の奥へと消えて行くと、しばらくしてなにやら布地を持って帰って来ます。』
『どうぞこれを。私が魔法の糸を使って織り上げた"心の綺麗な者にしか見えない服"です。』
「心の綺麗な者にしか見えない服?」
AIの説明に私は同じ言葉をリピートして聞き返す。
「裸の王様に出てくるヤツですね。」
ユキが興味深そうに喋った。
「おおっ!なんて美しいドレスニョ、こんな衣装は見た事がないニョ!」
妹は声を張り上げながら大袈裟にリアクションをして見せる。
「これって…実際は何も着てないってオチだったりしない?」
カノンは怪訝そうにしながら周囲に尋ねた。
「童話ではそうですけど…これはゲームですし、素直にレアアイテムが手に入ったと思っていいんじゃないですか?」
A子がなんだか楽しそうに笑いながら答えた。
『お気に召しませんでしたか?』
人工知能が店主の演技をしながら感想を求めて来る。
「うーん…、装備としては前の服とそんなに変わらない気がするけど。なんだか恥ずかしいなぁ。」
私は少し苦笑いをしながら服の着心地を述べてみた。
「ははーん、さてはカノン姉は心が汚れてるからどんな服か見えてないニョ。」
メロディが意地悪そうにほくそ笑みながらカマをかける。
「そ、そんな訳ないでしょお!」
カノンは内心ドキリとしながら三女の邪推を懸命に否定した。
『では、皆さんでこの装備品に名前を付けて下さい。』
「へ?」
人工知能からの意外な提案に、私はすっとんきょうな声を出す。
「名前…ですか?」
ユキも口をポカンと開けて呟いた。
「AIにしてはなかなか粋な計らいニョ。」
妹は目を細めながらはにかむ。
「カノンさん、どうします?」
A子がちょっと感心した様子で私に聞いてきた。
「うーん、いきなりそんな事言われてもなぁ…。」
サイドテールの女性は首をかしげながら思わず天井を仰いだ。
「フル・フロンタルにするニョ。」
メロディが大きな声で主張する。
「それってなんて意味なの?」
すぐさまユキが尋ねた。
「丸裸という意味だニョ。」
「却下!」
それを聞いてカノンはキッパリと妹の意見を退ける。
「じゃあ、"スノー・ホワイト"というのはどうでしょう?」
今度はA子が別の案を提示した。
「白雪姫の事ですね。」
ユキが相槌を打つように和訳する。
「うん。いいんじゃないかな、それにしよう。」
私も特に理由はないがその無難そうなネーミングに賛同する事にした。
「A子が言うと何かありそうな気がしてしょうがないニョ。」
自分のアイデアが不採用だったメロディは眉を潜め、なんだか少し不満そうにしている。
『了解しました。では狩人カノンは魔法の服"スノー・ホワイト"を手に入れます。』
人工知能がそう告げると、スピーカーからアイテム入手のファンファーレが流れた。
「それじゃ、とりあえずこの村の村長さんの所へ行ってみますか。」
A子が思い出したように話を本題に戻す。
「情報収集ですね。でも、村長さんの家って何処にあるんでしょう?」
ユキが誰となしに質問を投げかけた。
「なら服屋さんに道案内して貰うニョ。」
それに対しメロディが片手をあげて提案する。
『それでは貴方達は布の服屋から村長の家の場所を聞きました。』
『村長の家ならここから東に進んだ村の中央付近にあります、お気をつけて。』
プレイヤー間の議論に反応してAIが物語を進行させていく。
「色々とありがとうございます。」
最後にカノンは服屋に向けて冒険者として礼を言った。
『では小さな村なので冒険者はさほど時間をかけず村長の家まで辿り着く事が出来るでしょう。貴方達が家を訪ねると一人の老人が出迎えてくれます。』
『旅の方ですか?私がこの村の村長です。』
「まずは布の服屋さんがモンスターに襲われた事を伝えます。」
私が人工知能にそう言うと、村長のロールとしての台詞が返ってくる。
『そうでしたか、確かに最近は村へ魔物が入り込む事が度々あるのです。村の代表者としてお礼を申し上げます。』
『そう言って老人は深く頭を下げました。』
「ところで村長さん、このエルフ女の着てる服を見てどう思うニョ?」
唐突に妹が興味本位で姉を指しながらNPCに尋ねる。
『ふむ、なんとも上品なお召し物だ。この方はどこかのご令嬢ですかな?』
『老人は指で眼鏡の焦点を合わせながら言いました。』
それを聞いてメロディは薄ら笑いを浮かべながらカノンの方を向く。
「い…いえ、この村にある布の服屋さんに頂いたんですよ。」
私は冷や汗をかきながら誤解がないよう急いで弁明した。
『ああ、そうでしたか。彼女は若いが腕は確かな職人ですからね。』
『村長は納得したように頷きながらゆっくりと答えます。』
「それで村長さん、魔物というのはどこからやって来るんでしょう?」
魔法の服の話題を途切るようにA子が村長に聞いた。
『村の外れの川を越えた先にある山脈からです。』
『さらに村長は貴方達に向けて、残念そうに事情を説明します。』
『昔はこの村にも多くの狩人がおり、山の獣を狩る事で魔物の数が抑えられていたのですが、最近は猟師になる者もめっきり減ってしまい、数の増えた魔物が人里まで下りて来るようになってしまったのです…。』
「そういう事情だったんだ。」
ユキが独り言のようにポツリと言葉を漏らした。
「なんか思ったよりも事態が面倒臭そうニョ。」
手を顎に当て、神妙な顔をしながらメロディが呟く。
「なるほど、それで皮の服屋が関係してくるんですね。」
A子はなにやらメモを取って情報を整理しているようだった。
『えぇ、昔はみんな山の狩人が獲って来た動物の皮を加工した服を着ていたのです。
しかし今は布の服が主流になりつつあり、皮の服を着る者は少なくなりました。』
『村長はなんだかしんみりした様子です。』
「う~ん、なんというか…部外者の私達があんまり首を突っ込むべきじゃないような…。」
カノンは困った顔をして左右を見回した。
「そんな事言い出したら冒険は始まらないニョ!」
メロディは頼りない姉の様子を一渇するように叫ぶ。
「じゃあ次は、その山の狩人に会いに行かないといけないのかな?」
ユキが人差し指を頬に沿わせながら自分の予想を述べる。
「そうしたい所ですが…そろそろ遅いので、一旦お開きにした方が良さそうですね。」
A子は部屋の時計をチラと確認しながら言った。
「ホントだ、もうこんな時間!」
ユキは驚いて椅子から立ち上がる。
「…ゴメンねユキちゃん。これ、大学のレポートにまとめるから、感想とかあれば書いておいて欲しいの。」
そう言って私は帰り際、妹の友人に一枚の紙を渡した。
「分かりました、書けたらメロディちゃんに渡せばいいですか?」
帰り仕度をしながら、ユキは友人の姉に確認する。
「A子に家まで取りに行かせるニョ!」
「えっ!?私がですか?」
そんな軽口を交えつつ、私達は彼女と別れの挨拶を交わした。
「あとこれもあげるニョ。」
そう言いながら妹は玄関でリボン状に包まれたキャンディをユキに手渡す。
「飴玉?ありがとう。」
少し不思議そうにしつつ、彼女はメロディにお礼を言った。
「クリアの景品として用意したんだけど、途中で切り上げになっちゃったからね…。」
私はボソボソと独り言のように呟く。
ユキが帰った後、カノンは緊張の糸が切れるように長い溜め息を吐いた。
「はぁ~~。」
そうしておもむろに包み紙を解いて、飴を口の中へと放り込む。
やっぱり私は裸だったのではないか…?と
赤裸々な乙女の恥じらいを胸に抱きながら。
#25:心の綺麗な者にしか見えない服
jamバンドメンバーの一人、鼓カノンを主人公にした二次創作小説です。
・前編【https://piapro.jp/t/CN5R】
(※オリキャラ・オリ設定注意。)
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