私の前に跪き、何かを話す紫髪の大臣。
でも私の耳に声が聞こえ、話の内容を理解していても、私の発言は許されない。だって私は只の責任者。『国』の責任を取るだけの、一つの人形。私は、国のためだけに生き、国のためだけに死ぬ。それが、私の人生。

「・・・こちらが、今年の予算案ですが・・・」

そう言いながらも、彼は書類を見せるだけ。元から私に読ませる気などないのだろう。どうせ自分達で処理するのだ。何故わざわざ私に見せるのか分からない。形だけの会議に、浅い溜め息が出る。"人形"の私に、会議なんて必要あるのかが分からない。

「女王陛下、お食事の時間でございます」
「もう、そのような時間でしたか。長く付き合わせてしまいまして、申し訳ございませんでした。ごゆっくりお過ごし下さい・・・毒見を忘れずに・・・」
「承知しております」

ボソリと大臣が呟くと、食事を運ぶ前の毒見役が来る。
1人は恐怖で震え上がり、1人は無表情、1人は諦めた表情で、長くて冷たいテーブルの前に立つ。いつもそう。そして3人の内の1人が・・・必ず血を吐いて倒れる。そうなる確立は毎日のようにある。国民が、怒りを責任者に向けている証拠。いつまで経っても、その怒りがおさまる事がない。

「本日のメニューは・・・」

コック長がやってきて食事内容を詳しく話し始める。でも興味がないから頭に入らない。口に入れば全て同じ。味さえあれば満足。特に、変な味さえなければいい。

「・・・それでは、どうぞ」

3人が一口ずつ毒見をして、3人が無事な食事を口に運ぶ。次々と運ばれてくる食事を、3人それぞれ毒見をしていく。やはり1人は恐怖で震えながら、一口一口を覚悟しながら食べる。1人は無表情で躊躇せず食べていく。彼は既に毒見役をして一年経過しているのだ。だからか、感覚がマヒしてしまっているのだろう。1人は諦めた表情をしながらも、内心は怖かったのだろう。震える手で食べ続けているのが見える。

「おい毒見!」

突然、近くにいた兵士が叫ぶ。
血を吐いたのかと思い、食事の手を止めて、毒見役の3人が立っている方へ目を向ける。でも誰も倒れていない。ただし、1人がスープを毒見しようとしないだけ。スープを凝視し、毒見用のスプーンさえ手にしない。

兵士が止めるのも聞かず、私は毒見役の前まで足を運ぶ。その毒見役は、私の姿を確認すると、身体を振るわせた。

「・・・、女王、様」
「女王様!」

毒見役のスプーンを手にとり、スープをすくいあげて口に運ぶ。薄いけれど、毒の味が口の中に染み渡ると同時に、私の口の端を何かが流れる感覚がした。

「女王陛下!」

床にポタリと一滴・・・小さな赤い雫が出来る。
この程度の毒なら、少しの血液だけで済む事を兵士は知らないのだろう。私が平然と立っていることに驚き戸惑っている。毒ぐらい少しの免疫がついている身体だもの。そうよ・・・国の責任を取る人形が、すぐ壊れてしまうのは良くない事・・・父にそう刷り込まれた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

悪ノ物語 02

悪ノ物語 第二話

今度はリンサイド。
次回は、メイト視点です。

閲覧数:323

投稿日:2009/06/01 23:15:43

文字数:1,246文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました