16 三度目 その3

 ぶわちいぃんの音の後、ドチャっという音を立てレンは床に真っ直ぐ倒れた。軽く吹っ飛んだようにも思える。よくは覚えていない。

 シーーーンと会場は静まり返った。みんな目の前の出来事に驚き、声を失っている。
 
 ブッ、ブブ、ブーー、♪~みっくみっくにしてあげる~~♪ 

 セシルの携帯が鳴った。やはりアンタか、何でこのタイミングを逃さず携帯が鳴るのさ?そのストラップに初音ミクの小さい人形ぶらさげた、初音ミクの曲がかかるその携帯が何で、このタイミングを逃さず鳴るのさ?

 「おお、おう、飲んでる飲んでる。いや、今日はちょっと無理そうだわ。今ちょっと立て込んでて、ごめん、明日にしてくれる?ごめんね、ホントごめんね。おう、また。」

 「ちょっとレン君大丈夫!?」
 「すんごいビンタされたよ!」
 「今軽く中に浮いたよね!?なんか、すっごいスローで見えたよ。」
 「頭打ったんじゃないの?気絶してるよ?」

 レンに駆け寄ってみんなが心配している。左手にグラスを持ったままの私はビンタを打ち終えた形のまま固まっていた。

 「ちょっとやりすぎじゃないの?ビール飲もうとしただけで。」
 「MASATO君どうしちゃったの?」
 
 いろいろと私を非難したり、心配したりする声が聞こえてくる。


 「おい、おいおいおい、どうしたんだいMASATO、いつものお前はそんなんじゃないぞー。お前らしくないぞー。本気のお前を見せてみろーー。」 

 だまれセシル。

 「んふっ、リンちゃんはレン君とちがって真面目な子だからね。周りの大人がいけないんだよね、レン君に無理やりビールなんが飲ませようとしてね。リンちゃんはしっかりものだからレン君が変なことしないように見てあげてるのよね。」

 そう言いながらミスティさんは私の後ろに立ち、私の左手からグラスを取りテーブルに置いた。そして後ろから私の両肩にミスティさんの両手をポンと優しくのせた。
 まるでお母さんのように私をかばってくれたミスティさんの手が肩に触れたとき私はミスティさんに泣きつこうとしたが、さっきの最初の衝撃を思い出しブレーキがかかった。

 「も、もう、今日は帰ります・・。」
 「え、あそう?もう帰る?」
 「あぁ、お疲れ、気をつけて、今日はありがとねー。」
 「レン君はどうするの?一緒に帰るの?」
 「いえ、一人で帰ります。」

 その時、レンが意識を取り戻した。あ、起きた、またひぃぃぃぃぃって言って私から逃げるんだろうな・・そう思った。
 
 「あ!大丈夫!?」
 「え?なんすか?」
 「覚えてないの?ビンタされて軽く中に浮いたんだよ。」
 「えぇ?わかんない・・。あ、でもほっぺたすっげー痛い。なんか隣にリンが立っていたような・・・。」

 レンは私のほうを見ているが怯えていない。これはどうしたことかさっき頭打って、私というトラウマが消えたのだろうか?

 「レン・・・。私を見ても怖くない?」
 「はぁ?何言ってんのお前。頭おかしんじゃね?」

 よし!治ったもういいや、帰ろ。私は鞄から封筒にいれた会費を取り出しセシルさんに渡そうとした。

 「あの・・これ今日の会費です。」
 「おぉ?おーおーおー、いや、いいっていいって、君たちの分は俺が払うから。」
 「えぇ、でも・・。」
 「君たちは酒飲まないでしょ。その分まで払わせたらかわいそうだしな。いいって、いいって。」
 「んふっ、ね、セシル君が払うって言っくれたでしょ。遠慮せずにここは甘えときなさい。」
 「はい・・。ありがとうございます。」
 「遠慮しないて甘えていいのよ!おじさんがんばっちゃうからさー。好きなだけ甘えちゃっていいのよー。」

 はい。限りなく遠慮しておきます・・・。でもやっぱりこの人はゲームと変わらず本当にいい人だ。

 「俺、セシルさんに一生ついていきます!」 
 
 レンはうれしそうにセシルさんの腰に抱き付いている。

 「おーよしよし、レン、お前は素直だなー。できればお前も女の子だったらよかったのになー、ダハハハッ。」
 「マスターだからそれ犯罪っすよーー。」

 まだ会場では楽しい雰囲気が続いている中、私はお別れの挨拶をしたあと駅へと向かった。レンはまだここに残るみたいだが二次会までは行かないで帰ると言っていた。しかし、あの様子だとちゃんと帰ってくるかわからない。そうなったらもう知らない。私は細かいことを考えるのはやめにした。
 あぁー疲れた。なんでだろう。3回もブチ切れてしまった。でもいい人達ばっかりでよかった。あの場所にいた人達はいい人達ばっかだ。
 明日からゲームをするときは少し違った感じがすると思う。実際はこんな人だって知ってると全然違うだろうな・・。すごく親しみを感じる。あぁ、でも少しゲームをする時間は減らそう。成績がどんどん落ちていく・・。次はまた期末テスト結果上位で名前が出るようがんばる。それができたら新しいパソコン買ってもらおう。もう今のスペックのままだと厳しい。
 そんなことを考えながら私は夜の新宿から家へと帰っていった。
  
                       

                 ネットゲームで出会った人達 完
                             

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ネットゲームで出会った人達  16 三度目 その3

閲覧数:104

投稿日:2010/10/17 17:57:36

文字数:2,222文字

カテゴリ:小説

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