最初は、がくぽにもルカにも言うつもりはなかったんだ。と旅立つ寸前の彼は言った。
「だってさ、なんかさびしいじゃん。別れの言葉って」
ふざけたようにそう言う彼に、別れとかいうな、とがくぽは顔を顰めた。
「俺はそういう所が嫌いだ」
「知ってる。俺はがっくんがそうやって怒ってくれる所、案外好きだよ」
意外に真面目だよねがっくん。と彼は笑い、それじゃあね。と背を向けた。
華奢に見える、彼の背は意外に広い。けれどたった一人きりで世界を担うにはやはり頼りなく。
その背中に、必ず戻ってこい、とがくぽは言った。
「何でもいいから戻ってこい。お前がいなくなったらルカ様が悲しむから」
その言葉に、背中を向けたまま彼は小さく笑い、足を止めた。
「がっくんは、絶対にルカとめーちゃんを、皆を、護ってね」
「俺はルカ様しか守らない」
彼の言葉にがくぽが冗談交じりでそう言い返すと、それもそうだったね、と笑い、彼は去って行った。
そして、がくぽもルカと共に塔から旅だった。
「とりあえず、行先はあの時助けた子供のいる村にしましょう。」
そうがくぽが提案をすると、ルカは、うん。と無邪気に微笑んだ。
「がくぽは前に会ったのだって?生意気になったと言っていたけれど」
「生意気どころの騒ぎじゃないですよ」
と、顔を顰めたがくぽにルカはくすりと笑みを落とした。
ルカたちのいる術者たちの研究機関である「塔」は大きな街の奥、四方を森に囲まれるようにしてあった。その森の奥深くには更に「庭」があり、反対側に森を抜けると隣接する街へ出る。他の町や村などに向かうには一度、その隣接する街を通り抜けなければならない。昼でも薄暗い森の中をしばらく進む。と、ほどなくして街への門が見えてくる。そこを潜り抜けると、途端に騒がしくも心地よい喧騒が周囲に満ちる。旅の食料を調達するために市のたつ日を選んだのもあるのだが、街中は騒がしくにぎわいう人々でいっぱいだった。
色とりどりのテントを覗き込み、荷物や食料を調達して、街の外門近くにある貸馬屋で馬を借りに向かった。そして荷物を落とさないように馬の背にくくりつけ、二人は馴れた様子でその背中にまたがった。
「ルカ様。しばらくはフードを被ったままで。ルカ様の顔を知っている者がいても可笑しくは無いので」
がくぽの言葉に濃くりと頷き、ルカは再びフードをしっかりと被りなおした。
あまり外へは顔を出さない自分だが、それでも巡音の娘の顔を知っている者がこの街に居てもおかしくは無い。巡音の娘がふらふらとうろついている姿などを見られたら、要らぬ騒動を巻き起こしてしまうから。
がくぽの言葉の通りきっちりとフードを被り、ルカはがくぽと共に馬に乗ったまま街の外門から外へ出た。
街から馬を走らせて数刻。気が付くと辺りには広々とした草原が広がっていた。このところがくぽが忙しかったのもあって、ルカはなかなか外を出歩く事が無かったのだ。久しぶりの外出に、しかも遠出に浮き立つ気持ちを感じながらルカとがくぽはは、もうそろそろ良いだろう、と被っていたフードを下げた。
以前に行った村までは馬で2日かかる。その間ずっと馬を走らせるわけにもいかない。だがルカの久しぶりに外に出る、浮き立った気持は知らないうちに馬を走らせる速度を速めていたようだった。
「ルカ様」
諌めるようながくぽの声が響く。
「え?」
「え、じゃなくて。少し休みましょう。体力が持ちません」
そう言うがくぽは顔色一つ変わっていない。まだ大丈夫よ、とルカは言いかけて、自分自身の方が体力を消耗している事に気がついた。
「ごめんなさい、ありがとう」
ルカがそう言うと、謝る必要はありませんよ、とがくぽは苦笑した。
しばらく進んだ先に巨木があるのが見えたのでその根元で休むことにした。馬を枝につなげ、自分たちはぼこぼこと地面から出てきた木の根に腰をおろした。火をおこし、水を一度沸騰させる。真水を飲む事は避ける事。これはがくぽが旅の始まる前から口を酸っぱくして言っていた事だった。
「折角だから、お茶を入れるわね」
そう言って、ルカは荷物の中から四角い煉瓦状に固められた茶葉を取り出した。
「俺がやります」
慌てて茶葉の塊を受け取ろうとしたがくぽを制し、ルカは、これくらいできるわ。と笑った。
「これくらいの事は出来ます。がくぽ、あなた、私の事を何もできない子供だと思っていない?」
「少しだけ。手を切るのではないか、と」
「失礼な事を言うわね」
そうルカは苦笑して、そんな事無いわ、と自身のナイフを取り出した。
固形状に固められた携帯用の茶葉は削りとり、お湯で煮だして使う。ルカは器用にナイフを扱い一握り分の茶葉を湯を沸かしている鍋へ入れた。そしてそこに、砂糖の塊もひと欠片入れて。しばらく煮立てた後、それぞれのカップに漉し入れた。
「がくぽがね、外に行って色んな場所に行ってる間、私は私で出来る事も増えているのよ」
そう言って胸を張りながらカップを渡してくる。更に焼き固められた携帯食もひと欠片、手渡してきた。そんなルカに、それは知りませんでした。とがくぽは苦笑した。
「今までメイドがやってきた事を、ルカ様も出来るようになったのですね」
「本当に失礼ね」
「でもお茶は美味しいです、ルカ様」
「よかった」
がくぽの笑みにルカも又微笑みを浮かべて、カップに口をつけた。
濃く煮出されたお茶の渋さは淹れられた砂糖の塊によって中和されている。がくぽひとりだけならば素っ気なく沸かした湯だけで水分補給を済ませてしまうのだが、ルカがいると、単なる休憩が少し和やかなものになる。そんな事をがくぽは思った。
弱い音 【シェアワールド】響奏曲【異世界】
前のバージョンで続きます!
というかこの題名で他の話を書いたような気がしなくもなくもないのですが…
なんかチェックしてみてあったら、題名変えます。
でもこれがしっくりくるからなぁ。
こまるなぁ。
コメント2
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*注意*
・ぽルカです。
・亜種注意です。
・がくぽさんが大変です
一応ワンクッション。それでもよろしければどうぞ^^地獄の一日又は天国の一日
くらびー
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ご意見・ご感想
日枝学
ご意見・ご感想
お久しぶりですsunny_mさん。唐突にそうだ読んでみよう、という気分になり読ませていただきました(笑
sunny_mさんらしい、温かい作品ですね。自分が今まで読んだsunny_mさんの作品は微熱の音以降の作品しかありませんが、何となく、sunny_mさんの作品は読んでる側の心が温まるような作品が多いように思います。そういう得意分野みたいなのは一種の武器ですね! 何か面白い作品を書く上で。
良かったです。次の作品、楽しみにしています。
2011/09/13 02:24:38
sunny_m
>日枝学さん
コメントありがとうございます!
そうですね、傾向的に私の書くものは、なんだかあたたかな雰囲気のものが多いみたいです。でも特に意識はしていないのです(笑)←
結果的に、というのがしっくりくる感じですね?
でも、温かい雰囲気は個人的に好きな雰囲気なので、そう言っていただけると嬉しいです!
なんだか投稿が空き気味で、次のめども立っていませんが(笑)楽しみにしているとの言葉、嬉しいです!!
ではでは!
2011/09/13 22:24:59
藍流
その他
うpお疲れ様です!
何この青い春!w もがぁとなりつつ、でも爆発しろ!とは思えないのはふんわりなルカさんの所為ですむぐぐ。
ルカさんと一緒だからか、がくぽさんの雰囲気が柔らかくてほのぼのとしました。
さっきまで自分とこのがくぽ書いてたから、ギャップに笑ってしまったよ←
冒頭の、兄さんとの遣り取りもいいなぁ、と。自分とこの(以下略
sunny_mさんのがくぽさんは清廉な感じで、きりっとしてるけど柔らかさもあって好きです!
ルカさんもおっとり無邪気で可愛くて好きですー!
今までにも書かれてましたが、消失によって気候も狂っている、というのが……おぉー!と思いました(←そこまで考えてなかった奴)
そして今回は「固めた茶葉を必要分削って、煮出して使う」というのがツボに。
凄く異世界感と言うか異国風味と言うか! 長旅の雰囲気も出て美味しいなぁと!
良くも悪くも穏やかなふたりで、なかなか進展してもらうのが大変そうでもありますが(笑)
彼等の旅の行き先を楽しみにしています^^
2011/08/22 20:31:56
sunny_m
>藍流さん
コメントありがとうございます?
この二人だけにしておくと、本当に青い春過ぎて私自身も書いててもだもだします。
何この恥ずかしい子たち!!!w
そしてこの二人、本当に穏やか過ぎて話が進んでくれません(笑)
だめだ、やっぱりジロウ(仮)の出番だ!と裏話的な事を考えたりもしつつ。
話の流れ、というよりも、書きたいネタが沢山あるのでぽつぽつと書きすすめれればいいのですが…wネタすぎてなかなか繋がってくれませんw
ちなみに固めた茶葉、っていうのはシルクロードでお茶を運んでた時代にあったんです^^
語り出すと長くなるので割愛しますが(笑)こういう方面の仕事をしてた時があったんです。
旅の進展…頑張れ二人とも!!w
それでは、ありがとうございました!!
2011/08/23 21:26:17