タグ:シェアワールド・響奏曲
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そんな俺の狭い視界に、少しして「庭」で支給される質素な革靴が入り込んだ。ステッチの色は群青色――俺と同じだがサイズは一回りほど小さい。やがて頭上から聞き覚えのある大人びた声が降ってくる。忘れようもない、あの因縁浅からぬ女の声音だ。
『何してるの?』
『……別に』
『そう』
そのまま立ち去るだろう...夢の痕~siciliano 8-②
Lilium
自室のドアを開けると、ベッドに腰掛けるMEIKOが映り何だか安堵した。ようやく俺のいるべき場所へ帰ってきたという実感が湧き上がり、自然と頬が緩んでいく。
「おかえり、KAITO。何の話だったの?」
部屋にあった本を適当に読んでいたらしい彼女は、俺が近付くとそれを脇に置きこちらを見上げた。
「いつ...夢の痕~siciliano 8-①
Lilium
あれは俺が「塔」へ連れてこられまだ間もない頃の話だ。一度だけ俺は“彼女”と対面したことがある。隣に立つ幹部が宙に複雑な光陣を描き何やら唱えている様を、テレポートスポットの手前でぼんやりと見ていたのがその始まりだった。当時は魔術というものをまるで理解していなかったため、綺麗に輝く紋様を俺はただただ物...
夢の痕~siciliano 7-②
Lilium
その翌日、俺は自室がある階層の中央通路でMEIKOを待っていた。昨晩、あの予言者を自称する女と別れた後。俺たちは何とも形容し難い微妙な空気を払拭すべく殊更精力的に店を回り、無事従妹への贈り物を手に入れることが出来た。そして今日もお互い暇なため、昼からトレーニング室へ行こうと約束していたのだ。
「遅...夢の痕~siciliano 7-①
Lilium
「塔」の術士には、月初めに微々たる額だが給金が渡される。生活に必要な諸々は全て「塔」が負担してくれているため、この金は純粋に嗜好用だ。「塔」側としても、ずっと閉じ込められ鬱憤が溜まるであろう術士の管理は重大な課題であり、任務で著しい成果を挙げた者には特別ボーナスを支給したりと、意気を鼓舞させる努力...
夢の痕~siciliano 6-②
Lilium
今から数百年ほど昔――まだ魔物との共存が図れており、カオスシードも出現する以前のこと。この世界には「国」という一つの単位が存在した。「国」はそれぞれ境界という名の縄張りを持ち、そこに住む人々はその「国」の所有物として扱われたと聞いている。そしてこれらを侵害する他の「国」には、対話もしくは戦争で牽制...
夢の痕~siciliano 6-①
Lilium
そんな魔力の方向付けがまるで異なる三タイプだが、だからと言って自分の役割だけこなせばいいというものではない。チームで行動することが多い以上、他の術士及びタイプの動向も常に把握した上で己の役を全うするのは当然の責務だった。
分かりやすい所で言えば、術を発動させるまでの所要時間が挙げられる。Aタイプ...夢の痕~siciliano 5-②
Lilium
この世界には人間や一般的な動植物の他に、魔物という生き物が生息している。魔物は魔力のせいで人や動植物が突然変異した成れの果てとも、実は世界が誕生したその頃から存在しているのだとも言われる謎の多い生物だ。
そんな彼らの姿形は千差万別で、四つ足で歩き回る物もあれば、その場から一切動かず地に根を下ろし...夢の痕~siciliano 5-①
Lilium
「じゃあ、診察を始めるわね。はい、服を上げてくれる?」
何はともあれ、どうにか通常の軌道に戻ってくれたようで心底ほっとする。そうして滞りなく検診は進み、さらさらとカルテへ結果を書き込んだ彼女は再び俺に向き直った。
「後は簡単な質問をするわ。気楽に答えて頂戴ね」
「はい」
この問診を終えれば定期健...夢の痕~siciliano 4-②
Lilium
朝食を終えMEIKOと別れた俺は、九十二階にいた。この階層は医療地区となっており、テレポートスポットを円形に囲む幅十五メートルほどの通路を中心に、三つのドアが壁の内周に沿い均等な距離を空け並んでいる。
医療地区がこんな高階層にあるのは、この上階――九十三階から百階までがトレーニング地区に割り当て...夢の痕~siciliano 4-①
Lilium
「またお兄さんの夢、見ていたの?」
食堂にて食事の乗ったトレイを受け取った所で、背後から声をかけられた。疑問系ではあったが確信している様子で返事を待つ気配に、俺は答えず適当に空いた席へと腰を下ろす。そんなこちらの態度など一向に構わず向かいへ座った彼女は、自身のトレイに置いた皿から一本のペンネをフォ...夢の痕~siciliano 3
Lilium
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□コラボ&投稿概要□
ボカロキャラが住人として暮らすファンタジー世界と、アプリ&創作文化としてのVOCALOIDが存在する現代(近未来)日本を舞台に...コラボ宛投稿リスト【シェアワールド・響奏曲】
藍流
何だか、子供の頃に遊んだ『ひみつ基地』にいるみたいな気分にさせる部屋だなぁ。
此処へ来ると、カイトはいつもそんな風に思う。天井まで届きそうな本棚と正体のよく判らない怪しげな瓶詰めの並ぶ試料棚に囲まれ、中央には大きな作業机がどんと据えられて、その上にはいつでもいろんなものが所狭しと広げられている、...懐古 -響奏曲・Interlude-
藍流
【一】闇の先の蒼、蒼の内にまた闇
柔らかに腕(かいな)に抱かれるように、眩い蒼へと融けて。闇に代わってそれに包まれ、再び視界から変化が失われた。けれど、今度は明確に、進んでいると感じられた。見えざる手に腕を掴まれたように、はっきりと"何処か"へ引き寄せられている。惹き付けられる感覚に、鼓動が高鳴る...響奏曲 -02-
藍流
「塔」は俺の所属する組織の名称で、文字通り象徴としての意味合いも強い円塔が拠点になっている。各地に支部となる塔はあるが、俺の暮らす此処はその総本山に当たるため、規模は他と比較にならないくらい大きかった。この中で全ての生活が賄えるよう計算し尽くされた設計は、例え大部分を魔力に頼っているにしろ舌を巻...
夢の痕~siciliano 2
Lilium
初めて自分の“力”を意識した日。
俺の“世界”から兄が消えた。
「……」
億劫に開けた目蓋の向こうは、見慣れた殺風景な部屋だった。無機質な石造りの天井に継ぎ目はなく、所々淡い光を発している。その原理は到って単純で、等間隔に埋め込まれた小さな魔石が魔力に反応し光を放っているだけだ。それはとどのつ...夢の痕~siciliano 1
Lilium
森を抜けるとそこには草原が広がっていた。そしてその先にある小さな村。そこが目的地だった。
馬で「塔」のある街から一週間ほど。術者となってからほとんど「塔」から外に出ていなかったルカにとって、一週間もの距離は長旅だった。元々が「庭」や実家からあまり外へ出たことのないルカである。途中で立ち寄った村や...夜明けのはじまる前【シェアワールド】 響奏曲【異世界】
sunny_m
時の砂 流れ 落つる
夜(よる)告げ鳥の かそけき 囀り
天に実る 星を もいで
泉 湧いた 酒に 蕩かす
黄金(こがね)の 枝葉 さざめかす 森
白銀(しろがね) 流る 遡上する 滝
足元 空に 魚 沈む
パイの 中に 弾け散る 虹
昨日が 今日の 次に 転がる
明日 出逢った さかしまの 夢...呪詞・異界転位【響奏曲・設定】
藍流
【序】因と果の律をすり抜ける
軽く瞼を下ろし、身体から余分な力を抜く。意識からも同じく。ただ在るがままに、在るだけのものに。世界と己の境界を曖昧に、世界に溶け込み、世界と溶け合う。
時の砂 流れ 落つる
夜告げ鳥の かそけき 囀り
天に実る 星を もいで
泉 湧いた 酒に ...響奏曲 -01-
藍流
くそ、まだぴりぴりする。
がつがつと足を進めつつ、がくぽは内心で毒吐いた。溢れかけた魔力を強引に捻じ伏せた名残が、乾いた冬の日に散る火花のように指先や髪の根に未だ主張している。
それにまた苛立ちを煽られながら歩いていたからだろう。常ならぬ空気に彼が気付いたのは、わっと上がった歓声が耳に入ってか...響奏曲 -Introduction・2-
藍流
最初は、がくぽにもルカにも言うつもりはなかったんだ。と旅立つ寸前の彼は言った。
「だってさ、なんかさびしいじゃん。別れの言葉って」
ふざけたようにそう言う彼に、別れとかいうな、とがくぽは顔を顰めた。
「俺はそういう所が嫌いだ」
「知ってる。俺はがっくんがそうやって怒ってくれる所、案外好きだよ」
意...弱い音 【シェアワールド】響奏曲【異世界】
sunny_m
提出用の書類を手に、メイコは「塔」の渡り廊下を歩いていた。
「塔」の名の通り、その建物はいくつもの塔で構成されている。一番広く巨大なのは中央にある研究者用の塔で、次いで居住区としている塔。その二つの大きな塔から派生するように大小の塔がその周辺にそびえ立ち、その間を渡り廊下が繋いでいる。
これだ...明け方の日【シェアワールド】 響奏曲【異世界】
sunny_m
積み重ねられた知識の層が織りなす静謐な空間がそこには広がっていた。丈夫なつくりの棚に詰め込まれているのは過去から続く記憶の書。幾人もの賢者が思考錯誤し生み出した術式が記されたもの、この世界の生物全てに関する習性を緻密に研究したもの、古今東西の文化文明を事細かに記録したもの。
そして嘘かまことか、...始まりの日【シェアワールド】響奏曲【異世界側】
sunny_m
突如湧き起こった衝動に、気付けば目の前の腕を掴んでいた。
「な、何事です、神威さん」
「――あ……あ? い、いや……」
クールな表情に僅かばかりの驚きの色を滲ませて、ルカが問う。問われたがくぽはと言えば、こちらも静かな面持ちを幾許か揺らがせて、答えにならない声を零した。
何かが、がくぽを突き上...波紋 -響奏曲・Interlude-
藍流
「ずいぶん遠くまで見回りをしたようですね」
きちんとした服装にマントを羽織り、眼鏡をかけた青年が外から『塔』へ帰ってきたルカたちにそう声をかけてきた。眼鏡の奥、読み取ることのできない冷静なその表情に、ルカは思わずがくぽの背中に隠れてしまった。
4人で数日、森付近に点在する町や村の見回りをして。ルカ...物語の始まる前の日 【シェアワールド】響奏曲【異世界側】
sunny_m
ドン、と重い音が森の奥に轟いた。
音の後には、抉られた地面。爆発系の術の痕跡。
そこだけ緑の衣を剥がれた大地をじっと見つめて、少年が一人、唇を引き結んでいた。黒色のシャツに銀のタイを締め、肩にはシャツより更に濃い黒のケープを纏う、『庭(ガーデン)』で学ぶ生徒の制服姿だ。
しばし険しい表情で考...希求 -響奏曲・Interlude-
藍流
終わる世界に、彼らは生きる。
少しずつ、ほんの少しずつ、消失してゆく世界。
知らぬ間に袖口に跳ねていたインクの染みのように、ぽつ、ぽつり、と、微小な点を穿つように。
僅かずつ、ほんの僅かずつ。
密やかに、けれど、確実に。
「孔だ。物や土地に留まらず、"其処"自体が削られ消失している」
彼...【告知】響奏曲【シェアワールド企画】
藍流
終わる世界に、彼らは生きる。
「此処も、か」
低く呟く男が見下ろすのは、何も無い場所だった。
何も無い。
物が無い、ではない。建造物も、自然物も、動物の影も、大地も。
――大地、すら。消えて無くなり、其処に在るのは茫とした孔だった。昏く深く墜ちていくようにも見えれば、白く霞んで見通せないよ...響奏曲 -Introduction・1-
藍流
溢れ返る想いがある。何かを伝えたい、けれどその手段が分からない。どうすればいいのか分からない。どうしようもできない。目の前で起こっている事象に対してなすすべもなく、ただ見つめることしかできない。
けれど、だからこそ。無力だからこそ。「次」を拓くために私はあがきもがくように、手を伸ばし前を見て、何...重なる音 【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】
sunny_m
狂った魔獣が吼えた。大音量の咆哮が森の中の空気を、木々の枝を、逃げる子供の鼓膜を、震わす。肌で感じる魔物の気配に逃げながら子供は悲鳴を上げた。恐怖で走っている足がもつれる、かくんと力が抜ける、水の中に沈み込んだように周囲が重くなる。
そしてそのまま、まるで地面に滑り込む様な勢いで、ざん、と子供は倒...少し昔の話 【シェアワールド】響奏曲【異世界側】
sunny_m
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