突如湧き起こった衝動に、気付けば目の前の腕を掴んでいた。

「な、何事です、神威さん」
「――あ……あ? い、いや……」
 クールな表情に僅かばかりの驚きの色を滲ませて、ルカが問う。問われたがくぽはと言えば、こちらも静かな面持ちを幾許か揺らがせて、答えにならない声を零した。
 何かが、がくぽを突き上げていった。押されて咄嗟に手を伸ばしたが、それは意識が追い付くより早く。自分が何故そう動いたか、という以前に、自分が取った行動を把握できていない彼は、夢の残滓を払うかのように、ただ瞬きを繰り返すばかりだった。

「神威君?」
 掛けられた声に視線を転じれば、KAITOがにこりと目を細めて小首を傾げていた。
「とりあえず、ね。放そうか?」
 笑みを浮かべながらその声は平坦で、背には不穏な雷雲でも負っていそうな威圧感。がくぽはびくりと肩を震わせ、掴んだままの腕も同時に揺れて、そこで漸く、己が手の内にあるものの存在に思考が追いついた。
「わ、うわ?! し、失礼致した……!」
 途端に目を見開いて、慌てて華奢な腕から手を離す。白皙の頬にはサッと朱が上り、揺るがぬ笑み(らしきもの)を貼り付けたKAITOの視線を受けて、気まずげに小さくなるがくぽだった。

 一方ルカは、解放された腕を逆の手で引き寄せて動きを止めていた。やや俯いた視線の先には、掴まれていた腕がある。
「どうしたの、ルカちゃん? まさか怪我でも」
「なっ!? 真ですかルカ殿、あぁあ我は何という事をっ! グミ、グミは何処か! 即刻典医を連れてまいれ!!」
「――ぇ、え?」
 瞬時に青褪めたがくぽのテンパった叫びに、はたと我に返ったルカが顔を上げた。
「あぁ何としてお詫び申せば良いのか……万一傷痕なぞ残ろうものなら、この神威がくぽ、腹を切りまする!!」
「ハラキリ? ……何の騒ぎです?」
 事態が掴めないルカはぱちぱちと瞬きをして、小鳥のように首を傾げる。可憐な仕草にがくぽが再び頬を染め、そんな彼を必要以上にぐいぐいと押し退けて、KAITOはルカに手を伸ばした。
「腕見せて。痛むのかい?」
「腕? ……あぁ。いいえ兄様、何ともありませんわ。痛んだりもしていません。ただ」
「ただ?」
「ただ、……何と言うのでしょう。先程、神威さんに腕を取られたあの一瞬……"何か"が……そう、"何か"が、わたくしの内をすり抜けていった……ような」
 奇妙な感覚を上手く説明できず、言葉を探して彼女はまた腕に視線を落とした。
「何か……わたくしではない、"誰か"の感情……?」
 "誰か"の感情。その言葉に、がくぽははっと目を見開いた。彼を突き動かしたもの、あの焦燥感にも似た衝動もまた、彼自身のものではなかったと感じたのだ。あれは己の奥底から湧いたものではなかった。ルカの言うように、"誰か"の――。

「ふぅん? 不思議な事だね……何処かのルカちゃんとシンクロでもしちゃったのかな」
 穏やかな声音に、思いに沈みかけていたルカもがくぽも顔を上げた。その声と同じ色で微笑むKAITOに、ふっとルカの肩から力が抜ける。
「そんな事があるのでしょうか。けれど、そう……それが近いのかもしれません。あれはわたくしのものではなかった……けれど、まったく別のものというほど違和を感じたわけでもなかったのです。ほんの僅かずれたような、ほんの僅か重なるような。遠く、だけれど何処か同じでもある、"誰か"……」
 そっか。とKAITOは頷き、やはり柔らかく笑んだままで続けた。
「その子は、何か辛い思いをしてるのかな。苦しい思いを?」
「え、」
 驚きに目を瞠るルカの手を取って、ぽんぽん、と叩く。その笑みと同じように優しく、労わるように。安心させるように。
「大丈夫。"その子"もルカちゃんなんだとしたら、側にはきっと誰かいるから。"俺"とかめーちゃんとかマスターとか、ルカちゃんを大事に思う誰かが必ず居るから」
「兄様」
 うん、ともうひとつ頷いて笑いかける兄に、ルカもゆるゆると微笑を浮かべた。はい、兄様。答える声は柔らかく、困惑も憂いも拭われて。
 満足気に三度(みたび)頷き、KAITOは妹の手を離した。そうしてそのまま、てのひらを上に向けて差し出す。
「よし。じゃあ、何か歌おうか」
「歌、を?」
「ルカちゃんが"誰か"の思いを感じたなら、逆に伝える事もできるかもしれないだろう? 楽しい、嬉しい気持ちが伝わったら、その子も顔を上げられるかもしれない」

 誘(いざな)う手を取るルカの表情は晴れやかで、がくぽはそっと安堵の息を漏らした。同時に、些か複雑な気分でもある。言葉を探して思いに沈む、ただそれ以上の憂いをKAITOは読み取り、そしてあっさりと晴らしてしまった。僅かの変化も見落とさない彼を同じ『兄』として尊敬し、さらりと歌を持ち出す辺りは流石『魁のボーカロイド』と感嘆し、……そして。
(なんとも、強大な壁である事だ)
 怖じけるような気分が湧いて、胸の内だけで呟いた。想う女性(ひと)の隣に並び立つ為には、これほどの男を超えてゆかねばならないのだ。果ての見えぬ感覚に、思わず竦んでしまいそうになる。
 けれど。
「然様なればカイト殿、我も共に歌わせてはいただけまいか」
 怯む自分を叱咤して、シャンと背を伸ばして願い出た。聳え立つ壁がどれほど高く厚くとも、立ち竦み諦めてしまえる程度の想いなどでは決してないのだから。
 そう、だから。自分を突き上げたあの衝動、あれもまた"何処か"の、"別の"自分(がくぽ)のものなのだとしたら。ならば自分も歌い、伝えよう。僅かなりと胸を震わせ、奮い立たせてその背を押そう。

 凛と立つ姿を、KAITOは暫し検分するように眺め。やがてふぅとひとつ息を吐いて、複雑な顔で頷いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい
  • オリジナルライセンス

波紋 -響奏曲・Interlude-

シェアワールドコラボ用のつもりが、『異世界』サイドが入らなかった←
いや、よく考えたら別に『現代』サイドだけでもおkなんだけど。でも何か微妙?と思ってしまったので、これはコラボ宛にしないでタグだけ付けておこう。
『異世界』サイドも書く予定ですが、最近何故かPC前限定で異様な眠気に襲われるので予定は未定orz

何かこう、書いてて物凄く「がくぽ、ごめん。」という気持ちになったよw
ぽルカのつもりで書き始めたのに、何故か青いひとがごっそり持っていったという……。
兄さんの掻っ攫いスキルはとうとうそんな域まで達してしまったか。予定が狂うので勘弁するのです。
まぁ私も私で、力技でそれを展開に組み込んで殿に頑張ってもらったけれどもw

ちなみにこれ、『コイザクラ』シリーズのキャライメージ(の片方)でした。
※『コイザクラ』のルカさんはキャラ付けをどうするかまだ迷ってて、2パターン案があります。これはその片方版、なのでした。

【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】 http://piapro.jp/collabo/?view=collabo&id=15073

もっと見る

閲覧数:422

投稿日:2011/06/14 00:03:49

文字数:2,389文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連する動画0

  • sunny_m

    sunny_m

    ご意見・ご感想

    兄さん、本当に美味しいとこをかっさらっていきますね~w
    がんばれがっくん!!障害は大きいけど、見てるこっちはとても萌えるから!!
    というわけで。不穏な笑顔を見せるカイトさんと頑張っているがくぽに激しく滾っています。
    全てを見透かしているような、KAITOにも絶賛ときめき中です☆
    そしてきれいめクールなルカさんにも。たまりません。

    も~ルカさんがかなり綺麗な印象で、おぅ!とこちらにも胸を鷲掴みされています!
    おっとり系なルカさんを書くことの多い私ですが、綺麗なお姉さん…かなり素敵だわ~!!!
    コラボの方の藍流さんが書くルカさんも、綺麗めで、だけどなんかちょっとずれてるとこが可愛いくて!!なんかもう、ほんと大好き!!←

    同調ネタ、とても美味しいです~☆
    ありがとうございました!!

    2011/06/15 23:31:51

    • 藍流

      藍流

      もう本当、このひとどうにかしてくださいww
      実際問題、展開に影響するから困るんですが←
      予定ではちょっと兄バカ発揮するだけのギャグ要員だったのに……。
      兄さんの所為で中盤がくぽの影すら無いとかそんな馬鹿な。
      なんかそのまま終わりそうなのを、全力を振り絞って殿に出番作ったよ!

      ルカさん綺麗系になってますか! 良かった!
      綺麗なお姉さんは大好きですが、私が書く女性陣はコミカルに寄りがちなのでw
      クール、クール……と呪文のように唱えながら頑張りましたよ☆
      そしてそんなクール系ルカさんを「ルカちゃん」と呼ぶ兄さんに萌えていましたw(←
      ……私がこれだから兄さんの出番が増えるのかしら。ごめんなさい、がくぽさんw

      予定外で苦戦しましたが、美味しく楽しんでいただけたようで嬉しいです^^
      ありがとうございました?!

      2011/06/16 01:28:44

オススメ作品

クリップボードにコピーしました