初めて自分の“力”を意識した日。
 俺の“世界”から兄が消えた。


「……」
 億劫に開けた目蓋の向こうは、見慣れた殺風景な部屋だった。無機質な石造りの天井に継ぎ目はなく、所々淡い光を発している。その原理は到って単純で、等間隔に埋め込まれた小さな魔石が魔力に反応し光を放っているだけだ。それはとどのつまり、魔力さえ枯渇しなければという条件はあるものの、半永久灯と化しているも同じこと。そのおかげで真夜中でも室内は明るく保たれるようになっており、闇に身を置く必要は皆無だった。
 その茫とした光を見るともなく見つめながら、俺は寝起きのはっきりしない頭で思考を巡らせた。このいつにない寝覚めの悪さは、何か夢を見ていた証拠だ。残滓すら掻き集められない漠とした手触りだが、俺が見る夢といえば一つしかない。筋道立てて結論を出すまでもなかった。
「……はぁ」
 一層気だるくなった身体を無理やり起こし、頭を振って覚醒を促す。たったそれだけの儀式で、俺は一日の始まりを意識することが出来る。毎日の繰り返しで最早面倒と感じることもなくなったばかりか、すっかり習い性となってしまった。
「今日の予定は……」
 昨晩も頭で反芻した内容を改めて咀嚼し直し、再び深い溜息が零れる。一日の予定など、あってないようなものだった。突然の召集に出動命令。あらかじめ決められていない事柄の方が多すぎて、まともな予定が立った日は数えるほどしかない。それでも確認作業をしないと落ち着かないのは、俺の融通が利かない性格を端的に示していると言えるかもしれない。
 こうして生活していられるだけマシなのだ。その日暮らすのも汲々とし、果てには何の前触れなく命を絶たれる者さえいる。理不尽な世の中だ。その中にあって俺は随分恵まれた身の上だと誰もが口を揃えるだろう。少なくとも衣食住は保障され、怪我などすれば金をかけることなく診てもらえるのだから。
 そんなことを半ば強引に考え気を紛らせつつ、俺は個室にしては広すぎる室内を突っ切り入口近くのドアを開いた。そこは入ってすぐ右に洗面台が据え付けられており、左には手洗いへのドアが、そして正面奥に風呂場へと通じる縦長のドアがある。
 その磨り硝子が嵌め込まれた奥のドアへ入る前に、俺は洗面台脇に設置された奇妙な直方体の物体へと、着ている服を無造作に放り入れた。どういう魔術原理だか知らないが、この中に衣類を入れておけば、後は自動的に洗浄し乾燥まで行ってくれるのだ。予備の服はまだ二着ほどあるし、何の問題もない。大抵は風呂へ入っている間にすっかり乾いた状態となってしまうため、要らぬ心配ではあったのだが。
 そのまま風呂場に入りコックを捻ると、丁度良い温度に調節された湯がシャワーノズルから噴き出した。肩にかかるこの水流を意識する毎に、生きていることの喜びを実感する。食べるよりも寝るよりも、この瞬間が俺にとって一番幸福と呼べるものに近かった。
 それもこれも全ては魔力のおかげだ。この世界に溢れ、またそこに住む生物たちにも個体差こそあれ内包されている力。その恩恵に過剰なまでに浴して、俺は何不足なく日々を送っている。昔――……そう、兄と外で暮らしていた頃には考えられなかった贅沢な生活が此処にはあった。何も後悔などしていない。そのはずだ。してたまるものか。
『「塔」にいる限り、自由はないが安全だ。ただし――自由を捨てた代償は意外と大きい。それは覚悟する必要がある』
 かつて兄が籠へ入れられた小鳥を逃がした際に口にした言葉。思い出す度苦々しい思いが湧き上がるその台詞を、俺は何百回目かで頭から消去した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

夢の痕~siciliano 1

随分久々の小説での投稿で、とても緊張しています><

このお話は、
【シェアワールド】響奏曲【異世界×現代】
というコラボの世界観に惹かれまして、妄想が爆発した結果の産物です。
外部参加も可という有り難いコラボ指針のおかげで、幸せな一時が過ごせました。
まだ見直しが終わっていませんので、飛び飛びの投稿となるかと思いますが…。

それから、一人称という都合上、誰視点なのかがしばらく分からないことになってしまったので、この場で書いておきます><;
このお話の視点はKAITOです。
視点を明らかにしようとすれば出来るのでしょうが、何だか文章がうさんくさくなってしまって、なかなか出せませんでした^^;
筆力がない故だとお許し下さいませm(_)m

次回は一週間以内に投稿出来るよう頑張ります!

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閲覧数:244

投稿日:2012/01/28 03:03:42

文字数:1,503文字

カテゴリ:小説

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  • sunny_m

    sunny_m

    ご意見・ご感想

    こんばんは。読ませていただきました!

    元は同じ世界観から異なる物語が紡がれていて、なんだかとってもドキドキしてます。
    文章の端々にある無機質で近未来(?)な感じが、妄想をかきたてられます~!!
    そうきたか!という感じもありつつ、だけどとてもしっくりきていて、おお!って感じです。
    主人公カイトさんの、兄という存在も気になります。。
    自由の代償に得られる塔での安全…なんだか色んな含蓄があって、そこでもドキドキしました。

    凄く続きが気になります!そして楽しみにしています~!
    それでは!!

    2012/01/30 19:42:38

    • Lilium

      Lilium

      こんばんは。お久し振りです。
      お返事が大変遅くなりまして申し訳ありませんm(_)m
      メッセージありがとうございます!

      近未来…もう“魔力”様様という感じですw
      とにかく魔力が原動力ということにしておけば、何とかなってしまうので、とてもありがたく思っておりますw
      KAITOの兄は私も気になっています!…というのもおかしいですが^^;
      彼とKAITOとの話が先に出来て、二転三転しつつも全体の流れが今のようにまとまった感じなので、私にとっても兄の存在は大きかったりします。

      続きが気になると仰って下さって、本当に嬉しいです><
      それなのにこんなにもお待たせしてしまい申し訳ありません…。
      続きは近々投稿する予定でいます。
      まだまだ寒い日が続きますが、どうかお身体ご自愛下さいませ。

      2012/02/18 00:36:50

  • 藍流

    藍流

    ご意見・ご感想

    こんばんは。
    コラボへの作品参加、ありがとうございます!
    どうぞこの世界で、一緒に楽しんでくださいませ♪

    早速読ませていただきました!
    なんというか、スタイリッシュな空気感があってカッコイイですね。
    原案者として、新鮮な料理の仕方にwktkが止まらなくなっていますw
    どんな物語が展開するのか、続きが非常に楽しみです!

    2012/01/28 20:21:32

    • Lilium

      Lilium

      こんばんは。
      お返事が大変遅くなりまして申し訳ありませんm(_)m
      メッセージありがとうございます!

      スタイリッシュなんて…恐縮です><;
      私はほのぼのしたお話を読むのは好きなのに書くのは苦手なので、こういう作風の方が楽でいいですw
      続きは近々…の予定でいます。
      それから、個人あてで頂いているメッセージへのお返事も、どうかその時にさせて下さい><
      色々勝手で本当に本当にすみません…。
      まだまだ寒い日が続きますので、お身体ご自愛下さいませ。

      2012/02/18 00:25:42

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