それは、雨が降った後の山中。
 彼女はぬかるみに足を滑らせ、くじいてしまっていた。
 あまりの痛みに、歩くことを一度止め、その場に座り込んでいた。
――どうしよう。
 これでは帰れない。
 彼女は村の薬師であった。
 人々のための薬草を取りに来たが、その途中でこの様だ。
 だが、帰らないわけにはいかなかった。
 ズキズキと痛みを訴える足を叱りつけ、薄暗くなってきた道を行く。
 だが途中途中で止まってしまい、なかなか先へ進めないのだ。
――どうしよう…。
 帰れない。痛い。恐い。孤独。いろいろなもので彼女が埋まる。
 ほろほろと、目じりから溢れる雫。
「……っ」
 がさ、と向こうの草が揺れる。
 びくりと体を震わせ、縮こまる。
 もしかしたら、野犬かもしれない。
 もしかしたら、食べられてしまうかもしれない。
 咄嗟に死を覚悟して目を瞑る…と、聴こえてきたのは犬の唸り声などではなかった。
「誰だ…こんなところで?」
「ふ…あ…?」
「何をしている?」
「あ…いえ、少し…」
 現れたのは、ひとりの男だった。
 へたりと座っている彼女に手を差し出す。
「ここらあたりは、熊だの犬だの、沢山出る。早く帰りな」
「……」
 その手に手を重ね、引きあげてくれる。
 その時にまた足に鋭い痛みを感じて、顔をしかめた。
「ん? どうした?」
「あ……えっと…」
 見ず知らずの人に言いづらくて、口篭る。
「……怪我してるのか? 擦り剥いたとか、捻ったとか」
 その様子から何を感じ取ったか、男は訊いた。
 まったくその通りだったので、こくんとひとつ頷く。
 暫し止まった男は、ふいに彼女にその腕を伸ばし…。
「ひゃっ?」
 彼女を抱き上げた。
「あっ、あのっ!?」
「そう怯えるな。別に獲って喰おうというワケでもない」
「いえ、そうではなくて、あの…いったい」
「手当てくらいはしてやる。大人しくしろ。落とすぞ」
「………は、い」
 本当にいまここで落とされかねないので、思わず止まる。
 遠くで、犬の吠える声が響いた――。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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2.出会

それは二人の――世界を変える出会い――


女はルカだけど
男は誰にしようか…。考えてなかった。

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投稿日:2011/02/19 15:51:19

文字数:864文字

カテゴリ:小説

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