鈴が、楽しそうに、軽やかに、舞うから、蓮も、それを、うつした。自然と、唇が、鈴の歌をうつし始める。
 リン、リン、リンと、鳴り響く鈴の音と、一つの声のように、合わさった、蓮と鈴の声。その歌声に、薄桃色の花が、金の光をかたどるように舞い咲いてゆく。
 伸ばした手が、触れそうで、触れないまま、離れ、扇が、シャラリと翻された。鈴に出逢うように、彼女と、逆周りに回って、初めて、手が触れる。あたたかい鈴の手を、握らずに、合わせたまま、最初と同じ、振りを取る。
 そして、ゆっくりと、お辞儀をして、どちらからともなく、見つめあった。疲労を感じても良いはずなのに、感じなかった。ぼんやりと、夢心地で、術にでも、かかったようだった。
「蓮、すごい!! まるで、知っていたみたい……初めてなのに、こんなに、そろって、舞えるなんて、信じられない」
 鈴が、やっぱり、夢心地で、そう言った。
 でも、褒められるのは、嬉しいけど、己がすごいからでないことは、蓮が、一番、知っている。そして、その理由のほうが、蓮にとっては、重要だった。
「俺がすごいんじゃなくて、俺と鈴だからだ」
「え? 私と蓮だから?」
 蓮は頷いて、それから、ちらりと、水辺を見て、そのまま、空を仰ぎ、最後に、まっすぐに、己を見ている、鈴を見た。
「水は、空を映す。それと同じで、俺は、鈴をうつすんだ。自然と、身体が、いや、俺の全存在が、鈴を、うつそうとするんだ」
 今、この瞬間に、鈴の全存在を、うつしたいように、蓮は、鈴を見つめた。己と同じ、金色の髪も、玉の肌も、金色に光る真っ白い衣も、そして、等しくて、異なる、空色の瞳も………
「俺は、鈴の鏡なんだ。水と同じだ。まっすぐに、空を、うつす。鈴を、うつす」
 決して、等しく同じモノにはなれないけれど……ただ、うつし続けるだけだけれど……
「それなら、鈴は、蓮の鏡だね」
「そう思う?」
 嬉しそうに、はずんだ声に、蓮は、少し、顔を近づけて、そう囁いた。
「うん。当たり前じゃない」
「でも、空は、水を、うつさないよ」
 低い声が、夜をつたうように、響いた。己の声じゃ、ないみたいだった。
「それでも、蓮が、鈴をうつすのに、鈴が蓮をうつさないなんて、ありえない!! だから、空だって、きっと、水をうつしているよ! 蓮と鈴みたいに、呼び合っているもの!!」
 光がはじけたみたいに、鈴の声が、いっぱいに、響き渡った。鈴は、本当に、鈴みたいだ。己の全身全霊で、リンと、鳴り響く。
「そうだよね。俺たちは、対だから」
「うん。蓮と鈴だもん!!」
 頷いて、蓮は、己の手を、鈴の前に、差し出した。
「もう一度、舞おうか?」
「うん!!」
 鈴が、眩しいくらいに、微笑って、ぎゅっと、蓮の手を握った。
 温もりが伝わる。
 そして、同時に、最初の音を、響かせた。

   天の此方(こなた) 水の彼方(かなた)
   みちわかたれた双子の月
   淋しかろう 淋しかろう
   恋し恋し夜 夢にも見る
   月満十五夜
   月満ちて 時かける
   みちて かけて 
   みちかけてみち
   時満ちて月満十五夜
   今宵こそ 全き 月華 天にそろう

 手を繋いでいるときよりも、抱き合っている時よりも、鈴を近くに感じる。
 魂と魂が、このまま、とけ合って、一つになっちゃいそうなほど、近い。
 世界が、蓮と鈴の歌声で、いっぱいになる。金色の光で、あふれかえる。
 もはや、ここが、水の中なのか、空の中なのか、どこにいるのかも、わからなくなる。
 夢か、現か、幻(まほろば)か……何もかも、わからなくなる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

双子の月鏡 ~蓮の夢~ 二

 レンリンメインボーカロイド総出演の和風ファンタジー、というか、神話です。
 サブキャラクターでは、今回は、でてきませんが、カイト、ミク、メイコ、ガクポが、目立ってきます。
 まだまだ、延々と、続きます。お付き合いいただけると、大変、嬉しいです。
 蓮を、”レン”と読む部分と、”はす”と、読む部分、鈴を、”リン”と読む部分と”すず”と読む部分ががあって、紛らわしいので、ルビを振ろうかとも、思ったのですが、()表記になって、邪魔かなぁと思いましたので、振りませんでした。もしも、振ったほうが良いと思う方がいらしたら、言ってください。
 ちなみに、歌を歌って、花を咲かせると言えば、日渡早紀さんの『僕の地球を守って』が有名ですが、蓮の場合、水を花に変えている、水が花になると言う感じです。そういうわけで、根はありません。音は、必要ですが。

閲覧数:2,063

投稿日:2008/07/19 19:34:44

文字数:1,506文字

カテゴリ:その他

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  • 和沙

    和沙

    ご意見・ご感想

    読んでいただきまして、ありがとうございます。
    やたらと、長い話なので、気長に、読んでいただけると、うれしいです。

    メッセ-ジ、ありがとうございます。

    2008/12/23 16:32:02

  • 弥生春歌

    弥生春歌

    ご意見・ご感想

    まだまだ読み始めですがゆっくり読んでぃきたいと思ぃます

    これからもガンバってくださいね

    2008/12/21 22:03:52

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