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「酷くやったもんだよね。顔色もずいぶん悪いし、体中内出血しているじゃないか」
カイコは答えず、ただ恨めしげに我が上司を思い切りにらみつけてやった。テトは気づいていたけれど気づかぬ振りをし、気にも留めないようにレンの傷を見るが、その間もカイコを捉える力は緩まない。
レンは両手首を太いロープで縛られ、ワイシャツやネクタイ・金髪ですらも血に染まって、床に転がっていた。頬は青白く血の気が無く、はだけたワイシャツの隙間から見える色白な肌は内出血と血と切り傷で赤黒くなり、左手の甲はおかしな形に変形しており、骨折をしているのは、医療に関しては素人のテトの目にも明らかだった。
カツカツカツカツ!
硬いヒールの音が地下室に響き、走ってくるのか音の感覚は短く、どんどんと近づいてくるのが分かる。ヒールの音は、地下室の前で止まり、中に入ってくるとはぁはぁと荒い息を整え、ルカは我が息子の変わり果てた――といっても、死んでしまったわけではないが――姿を目にした。
「ルカ、王女は…」
「ごめんなさい、彼はプリンセスではなく、私の息子のレンですわ。プリンセスと間違えられたようで…。レン、レン?大丈夫?レン!」
倒れ傷だらけのレンに近づき、声をかけるがレンはピクリとも動かず、苦しげに顔をゆがめたまま、気絶している。
「大丈夫、すぐに医務室に連れて行けば助かる。連れて行ってあげて、すぐに応急処置を。カイコ一人くらい、ボク一人で十分だから」
「わかりましたわ、ミステト。お願いいたしますわね、レンはしっかりと医務室へ連れて行きますので!」
高いヒールが邪魔だ。そういうように、長いブーツを脱いでレンをおぶると、もう一度今来た埃っぽい通路を走り、戻っていくルカを見ていたテトは、
「酷いね、あんな風になっているのがみたかったの?じゃあ、ボクとやりあってみなよ。君の気が済むまで遣り合ってあげるからさぁ!!」
カイコのほほを思い切り殴った。
あまりにも何も無い静けさの中、レンは目を覚ました。
白い天井が見える。首を横に向けると白い壁と一つの窓がみえ、自分はベッドの上で眠っていたようだ。
さて、このイメージ、どこだろう。
医務室につれてこられたレンは、応急処置を受けて病院に搬送され、意識不明のままに今に至ったのだ。
個室なのか、周りには他のベッドがあるようには見えない。
いきなり、ベッドの近くに誰かが近づいてきて、レンに言葉をかけた。
「目が、覚めましたか…?」
無口なのに無理やり口を動かして話しているようにみえる、その口調は、紛れも無くあの、レンがもっとも苦手とする人物――弱音ハクだった。
「はい、ここはどこですか?」
「…病院です」
一問一答制のようにハクは短く答えていた。
レンも調子をつかめない。
「すみません、もう少し寝ていてもいいですか?頭が痛くって…」
「どうぞ、では、私はこれで…」
ハクも無理にしゃべるのは嫌らしく、そそくさと部屋を出てドアを閉めていった。レンはそれを見送るとベッドの上で寝返りをうって窓のほうへ体の向きをかえ、一度ため息を付いた。
自分はいったい何をしているのだろう。リンがどこに居るのかも分からず、ただ狂った相手にやられっぱなし、挙句の果てにはテト大臣に助けられて病院行きでは、召使としてリンの弟として、大丈夫なのだろうか?
もう一度、大きくため息をついた。
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