人魚姫が次に目を覚ましたのは、見知らぬやけに豪華な天蓋付きベッドの上であった。
人魚姫は少々顔に戸惑いの色を見せ、あたりをきょろきょろと伺った。
しかしそこには魔女どころか、見慣れた妹のリンの姿もない。
不安に充ち溢れ、とうとう身体を起こそうとしたその時だった。
人魚姫の『足』に突如、得も言われぬ痛みが走った。
身体を起こしてなどいられない。
あまりの痛みに、顔をゆがめるルカ。
『……そうか……私、人間に……』
そう呟こうと口を動かすが、出てくるものは微かな吐息だけ。
それで曖昧だった記憶が、人魚姫の中で、確かな真実へと変わった。
『魔女に、何と云いつけられたんだっけ……?』
人間にしてもらう、その儀式の最後に人魚姫は魔女にいくつか言いつけをされていた。
一つは、必ず王子と結ばれること。
二つは、王子が誰かと結ばれてしまうと、その次の日の夜明けに泡となって消えてしまうこと。
「ああ! 目覚めたかい! よかった!」
思考の途中に、爽やかな声が邪魔に入った。
しかしそれは人魚姫にとって不快ではない。
痛みで体が動かせないので、顔だけ声のした方に向ける。
透き通るような青い髪。
爽やかな声。
涼しげな眼もと。
その上品な立ち振る舞い。
目の前に現れた青年は、まさに人魚姫が恋に焦がれた、相手だった。
「よかった、君、近くの浜辺に打ち上げられてたんだ。どこかの船が遭難してそれで流されたんだろうと思ってるんだけど……。でもまあ、生きてて良かった! 僕は、カイト。みんな王子って呼ぶけど、別に名前で構わないよ。君は? 名前はなんていうのか、教えてくれないか?」
人魚姫の目を嬉しそうに見つめて、饒舌に話す彼を、人魚姫はただただ見ていた。
でもすぐに気付く。
自分は王子と話すことができないのだと。
人魚姫は両手を口元に持って行き、人差し指を立て、口の前でバツをつくって見せた。
それを見て王子は、すこし悲しそうな顔をした。
「そうか、ごめんね、僕が悪かった。じゃぁ君、文字は書けるかい?」
人魚姫は首を振った。
人魚姫は文字を知らない。
地上に文化など知らない。
「そっか……それなら仕方ないね……。でも、しばらく城の中にいた方がいい。……おっと、こんな時間だ、少し席をはずすよ。また来るから」
王子はそう言って、部屋から出て行った。
ルカは突然のことで何が何だか分からず、ただ茫然としていた。
これはゆめなのか、ああそうだ、夢であろう。
そんな考えを何度も何度も繰り返した。
王子は何度も人魚姫のいる部屋に来た。
人間界のいろいろなことを話してくれた。
王子にいろいろなことを教わった。
人魚姫の歩く練習にも付き合ってくれた。
人魚姫の瞳を、「深海のようで綺麗だ」と言った。
ルカの気持ちは膨らむばかり。
王子と話をしているときは、とても楽しかった。
けれど、独りになれば思い出す。
思い出してしまう。
裏切った家族、国民のこと。
自分は人魚姫なのだという真実。
足の痛みとともに、声の出ないもどかしさとともに、胸につっかえて、涙が止まらなくなる。
それでもいいと人魚姫は思っていた。
このまま王子と楽しく暮らせるのなら、それでいいと。
しかし、終わりは近づいていた。
「そうだ、君に紹介したい人がいるんだ。さあ、入って」
王子は突然にそう切り出した。
そしてドアの方へ駆けよった。
ドアの外から現れたのは、美しい緑の髪を二つに結わえた少女だった。
突然のことに、動揺を隠せない。
これから何を紹介されるのか、不安でたまらない。
「彼女は隣国の王女。僕の―――婚約者だ」
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ご意見・ご感想
えええ!!ルカさん頑張って!!
ミクに取られちゃんですかね・・・?
2013/06/23 17:09:42
イズミ草
一応童話にしたがってるからねぇ……
よく知らないところは、適当だけどww
2013/07/07 09:32:17