こちらにお座りください、と神威に引かれた椅子に座り込む。
 目の前にはステーキと彩りよく添えられたニンジン、ブロッコリーにマッシュポテト。そのディッシュを挟むように置かれているナイフとフォーク。
 失礼します、とワイングラスに葡萄色の赤ワインが注がれた。

「あの、ワインは…」
「あら? 私と同い年じゃなかったかしら?」
「あ、そうだった!」

 すでにカイトとメイコは席についていて、グミに椅子を引かれたルカも微笑んだ。
 双子はチョコチョコ椅子によじ登って自分で座り、互いを見つめ会うと、フォークとナイフをたてに握ると柄の尻部分をどん、どん、とテーブルに叩きつけた。その時も、この二人は「ぱーてぃ、ぱーてぃ!」と叩きつけると同時にはなつ。完璧と言っていいほど完璧な動き。その仕草に、流石は人形だと思わされてしまった。

「止めなさい。お客様の前で…」

 カイトがそう言うと、また互いに顔を見合わせた。仕方ないと諦めるかと思いきや、フォークとナイフを握ったまま高らかに腕をあげ、身体を左右にしならせながら「Hurry、hurrY!」と宴の開始をせがんだ。

「奥様。ワインを」
「いいえ。私は良いわ…」
「では変わりになるものを」

 神威がメイコのワイングラスにオレンジジュースを注ぐ。それを見たルカはグラスを持ち上げた。

「乾杯しましょう?」

 カイトとメイコがそれに合わせてグラスを持ち上げたので、ミクもそれにならう。初めて握るワイングラスは、今まで持っていた一般的なグラスよりも高級感があって、ミクには何だかそれだけでウキウキしてきた。

「Aer you ready?」
 とリンは首を傾け。

「準備はいい?」
 とメイコが首を傾けた。

 双子も食べるらしく、オレンジジュースを入れた普通のグラスを高らかに持ち上げる。

「サァ、始メヨウ」
「さぁ、始めよう!」

 子供が全く口を揃えて、宴の開幕を告げ、グラスをぶつけ合う。
 カチン、と小気味良い音と共にミクは初めてワインを口にした。葡萄の芳醇な香りが口から流れ込む。

「美味しい…」
「それは良かったです。よろしければ、もっとお飲み下さい」
「そう。今日の主役は貴方なんですから」

 クスリと笑ったメイコに、ワインに好評を得たカイトも満足げ。
 そうそうと、子供達もはしたなくフォークとナイフをカチャカチャ叩きあわせた。

「君ガ主役ノCrazy nighT」
 とリン。

「君が主役のHappy nighT!」
 とレン。

 「歌え、踊れ、騒ごうぜ」と歌いながら、彼らはそばの食器や道具で音を奏で始めた。フルーツの受け皿をカァンと叩き、時には互いのナイフをカチンとぶつける、タップを踏んで、思い思いに動いているのに、それがしっかりと一つの音楽になっているのだ。
 その曲芸のような音楽ショーに、ミクはワインをグビグビ飲み干し、神威へグラスを差し出す。

「おかわりください!」

 遠慮せずお代わりを要求し、カラクリ人形達が陽気に奏でる音楽と共に、宴が始まった。


♪☆♪


 楽しくなってきちゃった? とリンとレンに問いかけられたミクは、「なってきちゃった!」と返事をして、グラスを高らかに上げた。

 覚えてる。

『もっー、っぱい! カムイぃーい! もっ、ぱいちょうだい!!』

 うん。覚えてる。

 そのあとルカ、グミ、リン、レンの奏でる音楽にカイトとメイコが踊り出して、「私で良ければ」と神威がミクの手を取ってダンスをエスコートしてくれたのだ。

 この時、うっかり兄よりも彼が酷く格好よく見えてしまった…──。


「しまった!!」


 ぼすん、とミクはふかふかのベッドに頭を突っ込んだ。宴のことを思い出して恥ずかしくなった。
 何いってるの私ったら、と酷く頬が火照った。顔から火を吹きそうだ。両頬に触れて頭をブンブン振った。

「(私のお婿さんにならない~? とか、超、超、超チョー馬鹿なこと言った!!)」

 思い出して余計に恥ずかしくなってベッドの上をコロゴロ寝返りを打つ。何回も何回も端ギリギリまで来たらターンを繰り返してゴロゴロ転がった。
 しかし、そこで漸くはっと我に返った。

 神威と踊った後のことを全く覚えてないのだ。
 記憶をこれでもかと掘り下げてきたミクはそんな事実に頭を抱える。
 恐らく、誰かにこの部屋まで運んでもらったのだ。もう、それは間違いないとまた恥ずかしさがぶり返す。酒好きの…──酒癖の悪い母がよく、大暴れしているのに翌日、ケロッとした顔で何があったっけ? と言う姿を思い出した。

 きっと、それだ!

 どしん、ととうとうベッドから落ちて、視界がまた暗くなる。

 あれ、とミクは起き、ベッドに手をついて立ち上がる。

 部屋が、『暗い』。
 まるで、『夜』みたいだ。
 窓の外を見ると木々の影が犇めきあっている闇の中…──チーズのような満月が夜の空に腰を据えていた。

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Bad∞End∞Night【自己解釈】③~君のBad Endの定義は?~

本家様
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16702635


さぁ、宴は終わり…♪

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投稿日:2012/05/13 18:07:42

文字数:2,060文字

カテゴリ:小説

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