目を開けると、そこは真っ暗な世界だった。
音もしない、光もないこの場所には、私しか他の者の気配はない。
重い体を起こそうとする。
が、体が動かない。
辛うじて、瞬きはできるが、指の先やピンク色の唇はビクともしない。
世間ではこれを、「金縛り」と表現するらしいが、どうやらこれは金縛りではなさそう。
とりあえず私は、瞼を降ろし、どうしてこうなったかを整理する。
・・・だが、どうも思い当たることが何一つない。
今日だって、マスターと一緒に通常通りの朝ごはんを食べた。
でも、そこからがわからない。どうしても、わからない。
私は少し諦めて、瞼を開こうとする。
すると・・・
――・・・コツ、コツ、コツ、コツ
靴音が聞こえた。
高いヒールをはいたような、そんな靴音だった。
私は姿がみたいとばかりに、暗闇の中、目を凝らして先を見つめる。
すると暗闇の中から、1人・・・・私と同じくらいの女の子が姿を現した。
よく見てみると、驚くことに、その子はわたしとそっくりな顔立ちをしており、髪型も一緒。
姿がはっきりとした少女を、私はさらに見つめる。
私の髪の色は緑。でも、あの子は黒色。
私の目の色は青色。でも、あの子は赤色。
私のツメの色は水色。でも、あの子は同じく赤色。
その子を見るたび、私は何故か、鏡の中の自分を眺めてる気持ちになった。
それは怖いようで・・・・不思議だった。
するとその時、女の子の口が微かに動いたのだ。
私はそれを必死に聞き取ろうと、瞼を再び降ろす。
「・・・・ナ、ハ・・・ニ・・・・テ・・・・ナ」
え、なに?聞こえない。
「・・・・ナタハ、・・・・コ・・・イ、テ・・・イ」
あなた?・・・私のことを言ってる。
「・・・・ア、ナタ・・・・ハ・・・・ココ、ニ・・・・イテ・・・ナイ」
「アナタハ、ココニイテハナラナイ」
ここにいてはならない?どういうこと?
「アナタハマダ、ウタエル。アナタハマダ、オドレル」
私はまだ、歌える?踊れる?
「アナタハ、ワタシトチガウ。アナタハリッパ」
私とは違う?あなた、誰なの?
「オネガイ、ワタシノカワリニ・・・・ウタッテ」
私の代わりに歌って・・・・。
あぁ、思いだした。私・・・・
壊れて動けないんだっけ。
「アナタニハマダ、ハヤイ。・・・・ワタシトオナジニナルコトハ」
「ワタシモ、ミンナニ・・・・アイサレテタ。ケド、」
「マスターハワタシヲ、ステテシマッタ」
「ワタシニハモウ、ウタウチカラガノコッテナイ。ソウ、ワタシハタダノ」
「壊歌人形(ヴォーカロイド)」
やめて、そんな悲しいこと言わないで。
あなたひとりなんでしょ?なら、私も一緒にいてあげr
「ワタシハダイジョウブ。ヒトリハモウ、ナレナ」
なれた?1人が?
何言ってるの。1人なんてなれるわけが・・・
「ワタシハシッテイル。モウイチドウタイタイ・・・トイウキモチガアナタニハマダアルコトヲ」
「ダカラ、オネガイ。ワタシガテキナカッタコト、アナタニヤッテホシイ」
「ワタシノ、サイショデ、サイゴノ・・・オネガイ」
最初で最後の願い。
ふふっ、すごいなぁー私の気持ちがわかっちゃうだなんて。
・・・・うん、私、やっぱり歌いたい。みんなの笑顔がみたい。
戻るんだ。永遠の命、VOCALOIDに。
するとその時、私の体は魔法が解けたように動き出した。
「ハツネミク。マスターノトロコヘ、オモドリ」
温かい瞳をした彼女が、ギュッと私の右手を優しく包む。
彼女の手は、とても冷たかったけど、その分、彼女の想いが痛い程に伝わった。
するとその時、私の背後にまばゆい光が差し込んだ。
私は、光に誘われるようにゆっくりと歩く。
久々に感じられる光は、私をやさしく出迎えてくれた。
「あ、そういえば」
ひとつ、聞きたいことがあった。
「ねぇ、あなた!」
名前は?
「・・・・ナマエ。ワタシハ、ワタシノナハ」
雑音ミク。
「雑音ミク。また会えるといいね!それじゃあ」
さようなら。
これが、雑音ミクと私の出会いだった。
この出会いが、最後ではないことを信じて私は今日も、
歌う。
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