「カガリビト」2章【ココロ】①の続きです。



 ドアを開けると、そこは見たことのない近代的な街の大きな広場だった。高いガラス張りの建物が立ち並ぶ。広場の中央の噴水では子供が水遊びをしている。穏やかな昼下がりだ。僕が出てきた建物は高級ホテルらしく。豪華なドアの両端にはドアボーイが立っている。
「とにかく、状況把握だ・・・」
僕は焦る気持ちを落ち着かせ、ドアボーイに近づいた。
「あ、あの・・・ここはどこですか?」
「ヨウコソ、シティーホテルヘ。段差二、ゴ注意クダサイ」
ん?声がおかしいぞ?棒読み?
「ヨウコソ、シティーホテルヘ。段差二、ゴ注意クダサイ」
よく見ると、そのドアボーイはロボットだった。非常に良く出来ていて人間とほとんど違いない。
「へぇー・・・すごいな・・・」
研究所で見ていたリンはずっとメンテナンスシートに座っていたので、実際に動いているロボットを見てみると本当に人間と区別がつかない。
「でも、困ったな・・・他の誰かに聞かなきゃ・・・」
僕が困っていると、一人の女性が声をかけてきた。
「あら、旅人さん?何かお困りですか?ロボットに尋ねてもプログラム以外の答えは返ってこないよ?」
振り向くとそこに居たのは、さっきの映像で見た、リンによく似た女性だった。実際にはリンよりも髪が長く長身だった。
「あ!あの!ここは?ここはどこですか?」
彼女はクスッと笑うと
「ここは、ロボットシティの中央広場よ。ロボット工場に行くなら西へ。商店街へ行くなら東へ行くといいわ」
と教えてくれた。
「あ、あの!レンジさんをご存知ですか?」
「あら?レンジの知り合い?丁度良かったわ。今から彼に会いに行くところなの。一緒に行きましょうか」
彼女は嬉しそうに笑った。

「答えは決まったか?アレク?」

その時、背後から声がした。
僕が出てきたシティホテルのドアから、黒いマントを着た白髪の青年が姿を現した。
「! エレク兄さん!!」
「アレク、この物語はもうすぐ壊れる。俺と共に来い」
兄さんの右手には黄色の大きなカガリ火が煌々と揺らめいていた。
「エレク兄さん・・・ゴメン!僕にはまだこの物語でやらなければいけない事があるんだ!それに、もうこんなことは止めてよ!兄さん!こんな事は間違っている!」
僕は必死で訴えた。
兄さんは少し驚いた顔をした後、悲しそうな顔をした。
「そうか、残念だな・・・」
兄さんは右手のカガリ火に息を吹きかけた。

「ふぅー・・・・」

すると黄色く美しかった炎は、みるみるどす黒く邪悪な炎へと姿を変えた。
「お前もこのカガリ火はよく知っているだろう?これはあのリンとか言うロボットが持っていたカガリ火だ。この中にはココロが入っている。実際には正常に機能しなかったようだが、今俺が少し細工した。これをネットワークで繋がった街のロボットに入れるとどうなるか・・・」
「まさか、兄さん・・・止めるんだ!!」
僕は黒い炎に向かって、息を強く吹きかけた。
「ふううううー!!」
「無駄だ!」
僕の息はあっけなく跳ね返され、僕は後ろへ倒れた。
リンによく似た女性が駆け寄ってくる。
「大丈夫?!あれなんなの?なんだか・・・すごく、こわい・・・」
兄さんはドアボーイへとゆっくり近づいた。
「黒き炎よ!この者にカガリ火を灯したまえ!」
兄さんは黒い炎をドアボーイの体内へと押し付けた。
ドアボーイは電流が走ったように震え、そして動かなくなった。
「さらばだ。アレク・・・早く逃げろよ」
そう言うと兄さんはシティホテルのドアへ入っていった。
「待て!!」
僕が追いかけようとドアに近づいたが、既に遅く、ドアを開けるとフロントの女性が会釈してきた。
「キャアアアーーー!!」
外で数発の銃声と共に悲鳴が聞こえた。僕が急いで再び外に出ると、ドアボーイがリンによく似た女性の首を締めていた。
それだけではない。そこらじゅうでロボットが人間を襲っている。僕は首を締めているドアボーイに飛び掛った。
「やめろぉー!」
ブンッ!
僕はドアボーイに吹っ飛ばされた。
「痛っ!!」
丁度右手が下になる形で着地してしまった。右手に力が入らない。
僕は意識を集中させ、ドアボーイのカガリ火に強く息を吹きかけた。
「ふうううーーー!」
消えない。
「ふうううーーー!!」
消えない。
「ふううううううーーーーー!!」
やった!消えた!!
ドアボーイはそのまま崩れ落ちた。僕はリンに似た女性に駆け寄った。
「大丈夫ですか?!!」
「ケホッケホッ・・・ありがとう・・・」
彼女の腹からは真っ赤な血が流れ出していた。
「あ・・・血が・・・」
「さっき、ドアボーイに撃たれたの・・・。私はもう助からないわ・・・。最期に一つお願いをしてもいいかしら・・・。これを・・・これをレンジに・・・渡して欲しいの・・・」
彼女はポケットの中から袋に入った小さなUSBメモリーを取り出した。
「これをレンジに・・・。『誕生日おめでとう』って・・・・」
そのUSBメモリーは、僕がレンジさんから預かって来たUSBメモリーと同じ物だった。
「分かった・・・分かったよ、リンダさん。必ず、必ず、レンジさんに伝えます・・・!」
僕は小さくなっていく彼女のカガリ火を力いっぱい吸い込んだ。レンジさんと同じ、黄色い綺麗な炎。
「・・・・ありがとう・・・」
 僕はこれ以上苦しまないように彼女のカガリ火を消した。そして、吸い込んだ彼女のカガリ火を消えないよう大切に体内に仕舞った。
そこらじゅうで、悲鳴と怒号と銃声が聞こえる。ネットワークに入った邪悪なココロのカガリ火は瞬時に広がり、末端のロボット一体を倒したところで、どうにもならない事態になっているようだ。
 僕は痛む右手を抱えてシティホテルのドアへ向かって走った。託された2つのUSBメモリーと2つのカガリ火を握り締めて。


 ドアを開けると、そこは研究室だった。
ただ、そこは見慣れたごちゃごちゃとした研究室ではなく、小綺麗で、電気もついてなくて、ひんやりとしていた。
「動くな」
暗闇から声がした。
「お前は人間か?どこから入ってきた?」
暗闇から銃を構えた金髪長身の白衣を着た男が出てきた。少し若いが、その姿はひと目でレンジさんであることが分かった。
「レンジさん!リンダさんからの預かりものを届けに来ました!」
僕は左手を挙げながら答えた。
「リンダの・・・?!分かった。手を下ろしてくれ」
僕は手を下ろし、リンダさんから預かったUSBメモリーを渡した。
「リンダさんからの伝言です」
僕は、レンジさんにカガリ火を通して一部始終を見せるため、深く息を吹きかけた。
「ふぅー・・・・」
右足に激痛が走る。僕はバランスを崩して倒れた。
慌ててレンジさんが抱き起こしてくれた。
「大丈夫か?!」
「ハァハァ・・・はい。ありがとうございます。」
僕はデスクにあった椅子に座らせてもらった。恐らく、右足の指が何本か無くなったようだ。
「そうか・・・君がリンダを・・・ありがとう」
レンジさんは複雑な表情をしていた。
「どうして、私の作ったロボットたちが・・・。上のロボット制作工場でも突然ロボットたちが人を襲い始めたんだ。私は命からがら、この地下研究室に逃げ込んだんだが、恐らく上はもう・・・」
レンジさんは混乱した様子だった。
「白髪の少年よ。知っているなら教えてくれないか?今何が起こっておるのか?」
僕は少し考えて真実を話すことにした。
「レンジさん、落ち着いて聞いてください。今の事態の原因はロボットが悪いココロを持ってしまった事が原因です。そして、そのココロはレンジさん、貴方がこれから開発するものです。それを、僕の兄・・・僕と同じ能力を持った者が未来から盗み、改造し、今のロボットのネットワークに散蒔いたのが原因です」
レンジさんは少し考えて答えた。
「・・・なるほど、つまり、この事態は、私がこの先開発する『ココロ』とやらを、君の兄が盗み悪用したことが原因なのか・・・」
さすがは科学者だ。こんな突拍子もない話でも理解が早い。
「そうです」
レンジさんはゆっくりと確かめるように話した。
「なるほど・・・弟である君を責めたところで何もならない事は分かっている。だが、キミを信用する訳にもいかなくなった。さっきの映像も作り物の可能性もある・・・。疑う可能性と信じる可能性は五分五分だ。もう少し、教えて欲しい。君のお兄さんはなぜこんな事をした?目的は?そして、君の目的は?」
レンジさんがじっと僕の方を見つめる。無理もない。こんな事態が起きたんだ。何が真実で何が嘘かなんて判断するには余りに情報が少ないはず。僕は正直に答えた。
「兄は・・・全ての物語を終わらせるために、この力を利用して次々と物語を破壊しています。その行動の原因は・・・僕を・・・後世のカガリビトを守るため。命を犠牲に物語に火を灯すのがカガリビトの使命です。守るべき物語さえ無ければ、もう犠牲者は出ないと考えたのでしょう・・・」
「なるほど・・・では、君の目的は?」
「僕の目的は・・・・・・目的?」
僕は困ってしまった。考えたことも無かった。なんで僕はこんなに一生懸命に物語を回って、身体を犠牲にして、物語を救っているのだろう?どうして・・・?なんのために・・・?
「どうした?答えられないのか?」
僕は3秒程考えて、考えるのを止めた。考えても答えの出ないものは、考えても答えは出ない。
「わかりません。でも、これが僕にしかできないことで、これが僕の仕事だからです」
どこかで聞いた言葉だったが、素直な答えだった。
レンジさんは、ふっと鼻で笑うと、ため息をついた。
「ふー・・・疑って悪かった。話は理解した」
「へっ?」
僕はきょとんとしてしまった。
「君の話に恐らく嘘はない。信じるよ。もし、君がそれっぽい適当な理由を話していたらここから叩き出すところだったけどね」
レンジさんはニッ笑った。
「では、私はこれからどうしたらいい?」
話し方が途端に丸くなった。
「あ、えーっと・・・。新しいロボットを創ってください」
「私も丁度、そうしようと思っていたところだ」
「そして、ココロの開発を続けてください」
レンジさんは、少し考えて言った。
「なぁ、少年よ。もし、私がココロを開発しなければ、こんなことにはならなかったんじゃないか?」
「あ、それはダメです。レンジさんが行動を変えてしまっては、この物語事態が破綻してしまいます」
レンジさんは、苦い顔をして言った。
「しかし・・・これ以上、私の開発したのもでこんな事になるなら・・・」
レンジさんはこちらを向き直して、尋ねた。
「なぁ、少年。この物語はハッピーエンドになるのかね?」
何とも科学者らしい、核心を突いた質問だと感心してしまった。
 僕は、思っている事を正直に答えた。
「どんな結末を迎えるかは分かりませんが・・・」
僕もレンジさんの方を見つめる。
「僕が必ず、この物語を終わらせます」


「では、気を付けてな」
「レンジさんも、無理しちゃダメですよ」
僕は痛む右足を庇いながら立ち上がり、研究室のドアに手をかけた。
「あ、ココロデータのバックアップは必ずそのUSBメモリーに保存してくださいね。僕がこのドアを出ると、僕に関する記憶はなくなりますが、必ずまた会いに来ます!」
「ありがとう。待ってるよ」
僕は手を振り、研究室を出た。


「カガリビト」2章【ココロ】③へ続く→

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

「カガリビト」2章【ココロ】②

※これはmillstones様の素晴らしい楽曲「カガリビト」を元にした「悪ノ娘」「ココロ」「ハロー、プラネット」の二次創作です。私の妄想です。
ちなみに
「カガリビト」・・・楽曲を聞いただけ。設定読んでない。
「悪ノ娘」・・・小説は一回読んだけど実家に置いてきてしまった。
「ココロ」・・・楽曲は聞いた。小説もミュージカルも見てない。
「ハロー、プラネット。」・・・楽曲は聞いた。ゲームやりたいなぁ。
てな感じで、かなり原作様とは食い違っていると思います。勉強不足ですみません。
・あらすじは、カガリビトの少年アレクが楽曲の世界を回ってカガリ火を灯していくお話です。
・中途半端に原作を汚されたく無い方は観ないことをお薦めします。

もっと見る

閲覧数:455

投稿日:2013/01/20 01:54:53

文字数:4,718文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました