―――――幕末に生きた人斬りは、現場に『天誅』の一言を残した。


意は『天に代わって罪深き者を罰する』という正義の意思表示。


それに倣い、未来と流歌は人を切り刻み、叩き潰し、焼き尽くした町や国に、『天誅』と書いた紙を一枚置くようになった。


そうやって真似をしているうちに楽しくなってしまい。


更に人を殺しまくるという無限ループを繰り返した結果。





世界人口は嘗ての3/4にまで減少していた。










「んあ―――――……………んっ♪」


大口を開けて蜜柑をほおばる流歌。果汁たっぷりの冬の味覚が口いっぱいに広がる。


「……幸せそうねぇ」

「だっておいしいじゃないみかん。村じゃこんなの食べらんなかったものー」

「その言葉聞くの今年で3度目よ」


呆れ笑いをしながら、そういう未来もまた蜜柑を剥いていた。


4年間の殺戮ですっかりお尋ね者状態の二人が住んでいるのは山中の古ぼけた山小屋。

誰も訪れない山奥にありながら、ちゃっかり電波は届いているためテレビは使えるという便利仕様のため、二人は1年ほど前からこの小屋を拠点としていた。


「……それにしてもさー、流歌。その恰好なんとかなんないわけ?」


2個目の蜜柑を剥いて口に放り込む流歌の方を向いて、若干恥ずかしそうにつぶやく未来。


というのも。今の流歌の格好は、一見髪や目の色と同じ胡桃色のシャツとハーフパンツを穿いているように見えるが……よくよく見るとそれは麻布などではなく、上等な犬の毛なのだ。

別に流歌が自ら髪を切ってそれを編んで作ったりしたわけではない。―――――地毛である。


つまり。現在流歌は、『人間』としては見えてはいけない恥ずかしい部分を厚めの体毛の層で隠しただけの、全裸状態で生活しているのだ。


これというのも全ては流歌の能力のせい。基本の能力である『人狼』を除いて、流歌の能力は未来と違い一部変化などという器用なマネができない。常に全身を変化させるしか方法がないのである。

そうなれば嫌でも服は変化の度にビリビリになってしまい、毎度毎度買い直す羽目になる。それを面倒くさがった流歌が、自らの体毛を伸ばし服の代わりにするという手段に出たのだ。


「もう少し恥じらいとか持ったらどうなのさ」

「未来、服を着るのは人間だけなのよ?(キリッ)」

「何悟ったような顔してんのさ!?」

「だからこそ」


もう一つ蜜柑を口に放り込みながら、真剣な目でミクを見つめて。


「人間を否定する私たちが、人間と同じことしてどうするのって言う話よ」


思わず言葉に詰まる。

口いっぱいに蜜柑が詰まっただらしない顔であるにも拘らず、謎の説得力を持った言葉に思わず飲まれそうになった未来はしばらく黙り込んで。


「……え、えーとニュース見ようニュース!」

「おーい」

「ああ耳が痛い耳が痛い私は何も聞こえない!」

「それで人間を滅ぼせると思ってるのか―!」

「人間がいなくなったら考えてあげるから!」


流石に他の人間に自分の裸体を堂々と晒して歩けるほど、元普通の人間であった未来のハートは強くなかった。


テレビをつけてみると、ちょうどお昼時でどのチャンネルもワイドショーを流していた。

しかしよくよく見てみるとどこのチャンネルも放送している内容はほぼ同じ。










『―――――大規模テロコンビ『魔蟲』の破壊行動激化―――――』










『魔蟲』。未来と流歌が共に行動し始めてから使い出したコンビ名だ。

このコンビが殺してきた数は約18億8千万人。潰された国や都市は50や60でも利かない。下手をすると3ケタを軽く超えているかもしれない。

今や『魔蟲参上』と聞けばその国の国軍が総力を結集して出撃してくるレベルである。

だがその総力すらも、“蟲”の怨念と“魔”の破壊衝動の前では無力。

もはや彼女たちに、敵う者は殆どいなかった――――――――――










――――――――――とある二人組を除いて。










『……………次のニュースです。『魔蟲』に被害を受けた各被災地にて、『ミラウンドツインズ』と名乗る二人組の救助支援が多数報告されています』


変わって流れ始めたニュースに、思わず二人とも蜜柑を食べる手が止まる。

『ミラウンドツインズ』。最近よく聞く名前だった。自分たちが破壊しつくした跡地で、超常的な力で救助支援を続けているとか。


「……ねぇ、未来。やっぱりこいつらって……」

「……話に聞くところによると、自分の体を機械に変えられる少女と、6体の獣を操る少年らしいわ。……怪しいわね……」


そこまで行ったその時。





《いやぁ、流石だね。そんな断片的な情報で目をつけるとは》





突如二人の脳裏に懐かしい声が響いた。思わず辺りを見回す。

するとテーブルの上の空間が裂けて、一つの人影が現れた。ドリル状に巻いた赤いツインテールに、軍服風の衣装。



『テ……テトさん!?』

《やぁやぁ。元気に『殺ってる』みたいだね。ボクも嬉しいよ。あ、ボクにもミカン一つもらえるかな?》



現れたのは―――――重音テト。二人に力を与えた、重音テトだった。未来にとっては4年ぶり、流歌にとっては3年ぶりの邂逅だった。

ひょい、とミカンを掴み上げ、あろうことか皮をむかずそのまま口に放り込んだ。口の大きさから考えるといっぱいになってしまうはずだが、そんな素振りは塵ほども見せずに口を動かしている。


「どうしてまた急に?」

《何、さっきまで3年ほど眠っていてね。ようやく目が覚めたからちょっと様子を見に来ただけさ。―――――タイミングはよかったようだけどね》


ゆっくりと未来達の傍に降り立ち、テレビの正面に座り込んだ。ワイドショーでは、『ミラウンドツインズ』の姿を映し出している。


「タイミングが良かった……って、この二人組について話してたことですか?」

《ああ。この双子について、簡単に話しておこうと思ってね。……察しの通り、この二人もまた、ボクが力を与えたり、眠る獣を目覚めさせた獣憑きたちさ》


もう一つ蜜柑を手に取りながら、テレビの映し出す二人組の画像を指さす。


《少女の方が、己の体を機械に変化させる『機獣憑き』のリン・ミラウンド。少年が、6体の聖獣を操る『空獣憑き』のレン・ミラウンドだ》

「……空獣憑き!?」


思わず流歌が腰を上げた。その様子を見ながら小さくテトが嗤う。


《おぉ、知ってるんだ? 感心感心》

「……ええ、まぁ。未来と出会ってから、自分の存在について……魔獣憑きについていろんな書物を調べましたから」

「え……つまりどゆこと?」


未来の問いに、流歌が険しい顔つきで答える。


「『魔獣憑き』と『空獣憑き』っていうのは、対になる存在なのよ。どちらも人間が歩むべき道を外れた時に現れる伝説の獣憑きなんだけど、魔獣憑きが道を外れた人間を罰し、滅ぼすために生まれるのに対し、空獣憑きは人間を正しき道へと導き、清めるために存在すると言われているの。その強さは魔獣憑きにも劣らないとされるわ……」

《その通り。……だが同時に、その能力を扱いこなすのは魔獣憑き以上に難しいと言われている。現に彼は、その真の力の10分の1も発揮できていない。対して流歌……君はどうかな? 3年間の虐殺の中で、だいたい力の使い方もさることながら、敵の御し方、自分のペースの作り方も身についてきたんじゃないかな?》


テトの問いに、流歌は無言でうなずいた。その眼には自信が満ち溢れている。

それを確認すると、テトも満足そうにうなずいた。


《素晴らしいね。……どうだい未来、あの正義の味方気取りの双子……斃す自信はあるかい?》

「……変わりませんよ。どんな奴であろうと、私たちの邪魔をするものは全て薙ぎ払います」

《……君を拾い上げたのは間違いじゃなかったようだね。ふふっ、これからが楽しみだ》


ふわりと浮かび上がって、小さく指を鳴らす。すると何もないところから、どさどさと蜜柑が落ちてきた。


「ふわああああああ!! みかん! ミクぅ、みかんだよ~!!」

「う、うん……あの、テトさんこれは?」

《随分と蜜柑が気に入ったようだから、ちょっとした労いの品だよ。4年間よく頑張ってくれた。……何人殺した?》

「約19億人ですね」

《いいペースだ。その調子をあと12年保ちなさい。君たちは一度死んで生き返った存在。もう気づいていると思うが、君たちの体はいつまでも年を取らず力も衰えない。モチベーション維持と邪魔者の排除さえできればあと12年で滅ぼせる。頑張りたまえ》


そう言って空間を切り開いて消えようとしたところで―――――ふと立ち止まり、にやりと嗤った。


《そうそう―――――『ミラウンドツインズ』だけどね。この山の麓の町に今いるようだよ。どうするかは……君ら次第だけどね》

『!!』


2人が目を見張った瞬間には、もうテトの姿はなかった。

しばらくの静寂が流れる。ついで、ミクが口を開いた。


「……流歌」

「……ええ」





『叩き潰しに行きましょう』





邪魔者はすべて片付ける。たとえどんな相手であろうと。





人間は必ず――――――――――私達の手で滅ぼしてやるんだ。










そのころ。





そのミラウンドツインズは―――――麓の町でのんびりと買い物をしていた。


自分たちと―――――巻き添えで町の人が危険にさらされていることも知らずに。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

四獣物語~獣憑戦争編①~

第2章開始でございますよ!
こんにちはTurndogです。

流歌ちゃんの服バリィについてはどうしようか悩みました。
毎回買ってるというのは全世界級極悪犯にしては変な話だし、
変身するときに服ごと化けるっていうのも考えたけど、自然の怒りの体現者たる魔獣憑きが人間の知識の結晶たる服を巻き込んで変身というのもこれまた変な話だったので、
ちょっとアレな妄想しながら全裸+モフモフの体毛という動物スタイルをとりました。
かわいいからいいよね!(雷ばしーん
蜜柑頬張る流歌ちゃん可愛いよ!(落ち着け
因みに作中でも言ってますがこの人たち一度死んだだけあって寿命がないに等しくなっております。つまり不老不死。つまり二十歳だけど16歳の時の容姿で止まっております。
やったねちずさん!(おいやめろ

そしてこの恐ろしいまでの殺戮。
現在世界人口は70億人強、年間出生数7千万人ほどと言われています。
これを計算に入れたうえで、4年で19~18億人殺せれば12年で滅亡できる計算。年間死者数も計算に入れればさらに短くなるでしょう。この子たち怖い。

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投稿日:2014/04/03 21:04:34

文字数:3,996文字

カテゴリ:小説

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