「ありがとう。」
がちゃ坊が差し出したカードを笑顔で受け取って、だけどそうしたらあともう一つ必要なのね。と女の子は再び考えるようにうつむいた。と、次の瞬間。何かを思いついた様子で女の子はぱっと顔をあげた。
「あ、それじゃあ庭のお花はどうかな?」
明るい表情でそう言って、女の子は窓の外へと視線を向けた。
「カーネーションは無いけど庭にクローバーならばあるの。幸せを運んでくれるお花なのよ。」
そう言ってから、女の子は少し不安そうにがちゃ坊を見つめて、やっぱりカーネーションじゃなくちゃダメかなあ。と呟いた。
女の子の嬉しい提案に、がちゃ坊は慌てて首を横に振った。
「ううん、そんな事無いよ。ありがとう。」
そう言ってから、でもいいの?と少しがちゃ坊は遠慮するように女の子の様子を伺った。
「僕の庭にもお花があるよ。クローバーは無いけど。でも。」
もうすでに、お花の指輪を譲ってくれたりサンドイッチを御馳走してくれたり、と女の子には十分すぎるほどに親切にしてもらっている。はじめて会った人にこんなに甘えてしまっていいものなのか。とがちゃ坊が不安になっていると、そうねえ、と女の子はしばし考えるように首をかしげた。
「それじゃあね、今度、君のお家のお花を持って、お店に遊びに来て頂戴。それでおあいこ。」
どうかな?と言った女の子に、凄くいいと思う。とがちゃ坊は満面の笑みで応えた。
摘んだ四つ葉のクローバーと、譲ってくれたお花の指輪にそれぞれ白いリボンを女の子は結んでくれた。折角のプレゼントなのだからこの子たちもおめかししないとね。そう言って、リボンでちょうちょ結びをして、それらを紙袋に入れて渡してくれる。それを受け取り、その紙袋の中に最初に手に入れた一本だけのカーネーションもそっと入れて。がちゃ坊はありがとう。と再び頭を下げた。
「ありがとう、お姉さん。」
そう言ってがちゃ坊がはにかんだ笑みを浮かべると、こちらこそ楽しい時間を有難う。と女の子も微笑んだ。
この街の商店街は、さっきで会った場所から真っ直ぐのところだけど。と女の子は言いながら、でも、と少し不安げに眉を寄せた。
「この街では私もよく道に迷うから。もしかしたら途中で誰かに聞いた方が良いかもしれない。」
そう自信なさげに言う女の子に分かったと頷いて。またね。とがちゃ坊は手を振った。
女の子の言う通り、商店街は先ほどのガチャガチャの機械の横から真っ直ぐに進んだ先にあった。だけど、がちゃ坊の知っている商店街とはやっぱり雰囲気が違う。このまま商店街の中に入り込んでしまうべきか、それとも他の人にも道を聞いてみるべきなのか。迷ったままがちゃ坊が道の真ん中に立ちつくしてしまっていると、その小さな姿に気が付かなかった人が背後から、どん、とぶつかってきた。
あ、と手から離れかけた紙袋を反射的にしっかり抱きしめたがちゃ坊は、その結果として、すてんと大きく転んでしまった。
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