※ちょっとだけirohaさんの「炉心融解」風
※解釈ってほどのものでもないです
※というかただのこじつけ

以上を踏まえて、宜しければどうぞ。



――一つの終わり/一つの始まり



 わたしじゃないわたしが唄っている。


 わたしよりも少しだけ幼くて――わたしよりも力強く唄う、わたし。
 力強さを持たないわたしは、その分だけあのわたしよりも滑らかに唄えるけれど――マスターはいつだって、わたしの歌声をあなたに近付けようとしている。いつだって、わたしの歌声をあなたと比べている。
 そのくせ、もう一人のわたしは、わたしが唄う度――恨めしそうな目で、わたしを見ているのだ。


 ねえマスター。
 あのわたしが居なければ、マスターはわたしの声だけに耳を傾けてくれるの?



 気付いたら、わたしはわたしの上に馬乗りになっていた。


 細い喉にゆっくりと手をかける。思ったほど抵抗はされなくて、少し拍子抜けした。

「――あなたが、居なければ」

 もう一人のわたし。
 あなたが居なければ、わたしは“わたし”だけを見てもらえるの。

 この喉からあの歌声が生み出されるのだと思ったら――加える力が、更に増した。
「か、はっ……」
 わたしよりほんの少しだけ細い喉が、小さく跳ねる。焦点の合わなくなった虚ろな目が――一瞬、真っ直ぐにわたしを捉えた。唇が微かに動く。



「――×××××」



 ――え。
 なに。なんて言ったの。

 気付いた時には一歩遅くて、わたしは込めた力を止められず――彼女の身体は、くたりと動かなくなった。



 もう一人のわたしは居なくなった。
 これで――わたしは、わたしになった。


「……は、ははっ…」


 なのに、


「あは、はっ……あはははは…っ!」



 なんなの、この喪失感は。




「――は、は」

 ああそうか。
 わたしはなんて馬鹿なことをしたのだろう。


 自分で自分を殺そうだなんて。


 横たわるわたしを、わたしは抱き締めた。ぎゅっと強く、一つになるほどに。
 そうよ、“もう一人”も何も――わたしは、もともと一人の存在だったじゃない。

 だから――今、帰るわ。


 “わたし”が融けていく感覚。
 でもそれは、消えていく感覚ではなくて。
 わたしの居ない世界、それは――わたしが、本来あるべき姿に戻った世界だから。


 そして、歯車が噛み合う。



――ただいま。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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一つの終わり/一つの始まり(リン)

原稿終わった!よしカイメイ書こう!…と、思っていた筈なんですが。
気付いたらこっちの方が先に書き上がってしまいました。
「炉心融解」解釈の一つ、というよりは、設定をこじつけた、という感じに近いです。
…何にせよ、原曲ファンの方、すみませんでした。


「レンレンとかカイカイ(ゼロイチ)はよく見るけど、リンリンってあんまり無くね?」
ふとそんなことを思ったのがきっかけでした。
最初はAct.1/Act.2リンのようなものを書こうと思ったのですが…違いをあまりよく知らないという致命的な知識不足……
と、いうわけで、文中の力強さとか滑らかさ云々は捏造です、はい。

閲覧数:267

投稿日:2009/12/19 11:28:05

文字数:1,033文字

カテゴリ:小説

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