――朝。
それは俺をもっとも憂鬱にさせるものだった。
また変わり映えのしない一日が始まるのかと思うと
とてもじゃないが気が重かった。
俺は何かの音楽で目が覚めた。
それはいつものけたたましい憂鬱なあの目覚まし時計の
音ではなく、とても澄んだきれいな歌声だった。
それは、今までの日々では感じることができなかった
清々しい寝起きを俺に与えてくれた。
この声…どこかで…
そう思って目を開けるとその声の主が
二人分の朝ごはんをテーブルに並べているところだった。
「~♪…あ、おはようございます。
もしかして起しちゃいました?」
その声の主、初音ミクは歌うことをやめ、
少しだけ申し訳なさそうに言ってきた。
俺が時間を確認するとまだ7時15分。
朝飯を食べて学校に行くには少しだけ早い時間だった。
ミクに朝の挨拶を言い、綺麗に並べられたご飯を食べ始めた。
昨日の夕飯に引き続き普通にうまかった。
――朝飯の後片付けをし終わった後、ミクに
朝歌っていた歌の話をしてみた。
「あ、歌ですか?私、歌が好きなんです。
うまいわけではないですけど歌っていると楽しいんです。
心が安らぐというかなんというか…
まぁ、とにかくそんな感じです。
朝から変な歌聞かせてしまってすみませんでした」
歌の話をしているミクは本当に楽しそうだった。
また、俺も楽しそうなミクを見て幸せな気になれた。
ミクと俺は学校に行く準備をして家を出た。
俺が通う学校、つまりミクがこれから通う学校は
俺の家から歩いて約20分。
電車で行こうにも家の近くに電車が通っていないので
歩いて行くか、自転車が一番短い時間で行ける。
俺とミクは歩いて行くことにした。
ミクはどうやら自転車に乗れないみたいだ。
ミクの恰好は白いマフラーにファーの付いたコートを着ていた。
中はおそらく朝飯の時と同じ黒のワイシャツにスカートだろう。
「今日はどれくらい授業を受けるんですか?」
ミクが俺に聞いてきた。
俺はあまり確かではない記憶をたどり、昨日と同じ
半日授業ということを思い出し、ミクに告げた。
「半日なんですか!?私と一緒ですね!」
ミクは嬉しそうに言い、その後
何か言いたそうな目で俺を見ていた。
その後、謎の無言の時間が続いた。
多分誘ってほしいのだろう…誘ってみようか…
『…あの!!』
…全く同じタイミングで話しかけてしまった。
「あ、あの、そそそちらからどうぞ!」
めちゃめちゃ噛みまくっているので
俺のほうから放課後一緒にいることを相談した。
「い、いいんですか!?こちらこそよろこでん!!!」
…よろこでんとはどんなとこなのだろうか。
――学校に着いたので教員棟をミクに伝えた。
「ありがとうございます!では、また後で!」
と、ここで昨日の夜に思ったことを思い出し、
ミクに携帯の番号を聞くことにした。
「あ、そっか。よくよく考えたら
聞いていませんでしたね。赤外線でいいですよね?」
と、見たことのない形の携帯を取り出した。
「これ、最新型なんです」
といい赤外線を送信にした。
携帯を出し赤外線で交換しようとした時
「―――っただきっぃ!!」
恭也が横から携帯を出してミクの番号を手に入れた。
「あ!って恭也さんでしたか」
不審者かと思ったのは俺だけではないようだ。
ミクはかなり驚いていたが顔を見て安心したようだ。
「後で俺のも送っとくから!よろしっくねー!」
ものすごいスピードで走りぬけて行った。
「…あはは。それではもう一回。っといいですよ」
ミクは苦笑いしながらも番号を交換した。
「それじゃぁ、また後で」
ミクは手を振りながら教員棟に入って行った。
それを見届けた後は講義の場所に向かった。
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