辺りは静まり返っていた、客達はみな非難したのだろう。外からはパトカーのサイレンが鳴り響いている。
「引き上げるか」そういって死体の上に銃を放り投げると、死体に背を向ける。
ジェシーの前には、一人の少女が立っていた。黄色の髪の毛に頭には大きな白いリボン、セーラー服のようなデザインの上着にショートパンツといった格好。歳は十代前半といった感じだ。
「っ!?」声にならない様な驚きがジェシーにはあった。少女は右目の上から赤い液体を流している。
(巻き込まれた!?)そう感じたジェシーだが、同時に違和感を感じる。このような場所に、こんな年端もいかない少女が入れるはずも無かったから、それと一緒に人の気配というものを一切感じなかったからだ。
「マスター」少女はジェシーの顔をじっと見つめる、そこに敵意は無い。
彼女の一言にジェシーははっとする。彼女は人間じゃない、彼女の右目の上には弾痕があった。
本来そこを撃たれれば人間なら即死だ。しかし、目の前の少女は表情も変えずにじっとジェシーを見つめてる。
辺りに目をやると、景品コーナーの部分に銃弾が行った後が何箇所か見受けられた。そこに置かれていた景品のロボットだというのは割れたショーケースから見て取れた。
(誤作動でも、起こしたのかね・・・)やれやれと、ジェシーは右手で頭を掻き毟る。
「マスター・・・」少女は、ジェシーのジャケットをちょこっと掴んで引っ張る。
「俺は、お前さんのマスターじゃない。悪いが誰か来るまでここで待ってな」
そういって、少女の頭を撫でてその場を立ち去る。
少し離れてジェシーが振り向くとそこに少女の姿は無い。彼女はジェシーの背後に張り付くように立っている。
壊れてるなと、ジェシーは感じた。
「いいかい、ロボットのお嬢ちゃん。ここに居ろ、解るか?」
ジェシーは少女の目線に腰を屈めて、言い聞かせるように強く話す。
「マスター・・・」
彼女はそう言って、またジャケットに手を伸ばして引っ張る。
(イカレてやがるか・・・)ジェシーは困ったとばかりに、頭を垂れる。本来こういう場合は、ロボットを処分した方がいいのだがジェシーは妙案を思いつく。
(この手は、売ればいくらかなになるか・・・)
「よし、付いて来い。って、頭からその血みたいなの、オイルか?それ垂らしたまんまじゃまずいな・・・」
ジェシーはポケットに入っていた自分のハンカチを裂いて、包帯の様にして彼女に巻き付けた。
「よし、これで何とか大丈夫か・・・」
立ち上がって、ジェシーは少女の頭をやや乱暴に撫でると背を向ける。少女の表情はまったく変わらない、それがロボットなのだと言う事をジェシーに再度知らしめる。

ジェシーが歩き出すと、少女もピッタリと付いてくる。エレベーターに乗り、下に降りる。
ジェシーは少女をに目をやる、少女もジェシーを見返してきた。ジェシーはにこりと笑みを浮かべるとジャケットを脱いで裏を返す。ジャケットはリバーシブルになっていて、表裏と色合いが違うものになっていた。
一階まで降りると、警官隊に囲まれた。ジェシーは両手を挙げて警官隊の支持にしたがう。
少女はロボットということで、警官から必要以上の尋問やボディーチェックを受けなかった。
ジェシーはというと、体の隅々調べられたり持ち物を全部出させられたりした。
「勘弁してくださいよ、俺は只ここにランチしに来ただけなのに・・・」
ジェシーは困った顔で、何人かの警官と話をしていた。このビルの30階は展望レストランになっている。
「受付には確認した。まったく、レストランの客だとか宿泊客だとかが出てきやがって・・・どいつがどいつだか解ったもんじゃない・・・」
警官の一人が困った表情でジェシーの持ち物を確認している。
「いったい何なんですか・・・、俺はこれから友人と約束があるのに・・・」
「またか、25階のカジノで銃撃だとよ」
呆れ顔のでジェシーの身体チェックをする警官が、うんざりだと言うように話す。
それから、しばらく警官とのやり取りがあったもののジェシーは取調べから開放される。
ホテルの玄関口で、車を受け取るとジェシーはその場を離れる。

ジェシーは愛車の大レトロカーで街中を軽快に走る、横にはちょこんと少女が座る。
「ああ、終わった。金は例の所に振り込んでおいてくれ、じゃぁな」
ジェシーは携帯電話を切ると、車の携帯ホルダーに置いて少女に目をやる。少女はずっと正面を見ていた。
「お前さん、名前は?」
前に向き直り、少女に問い掛ける。
「私の名称は、ボーカロイドゼロツー・タイプゼロツー・リン カガミネです」
少女は淡々と答えた。
(驚いたね、日本のロボットかよ・・・おまけに女性型・・・こいつは高く売れるな)
日本製のロボットは精度が良いことで知られている、故にジェシーの居る国で日本製のロボットは高値で取引されていた。
「マスターの名前を教えてください」
リンはジェシーに目を向ける。
「ジェシーだ、ジェシー・ウエスト」
(まぁ、名前教えても直ぐに初期化しておさらばだな・・・)そう、直ぐに手放すと考えていたからなのだろう、いとも簡単に名前を明かした。
ジェシーは『ヒットマン』、偽名はたくさん持っている。実際はジェシーという名前も本当の名前かは定かではなかった。だが、ジェシーは対外表や裏でも『ジェシー・ウエスト』と名乗ってる。本人自体、本当の名前がわからなかったのだ。

ライセンス

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奏でる想い歌~捧げるは賛美の歌か鎮魂の歌か・・・~2

閲覧数:53

投稿日:2009/06/16 20:17:26

文字数:2,241文字

カテゴリ:小説

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