クーラーが発売され、暫くした頃エアコンが発売された。
貧乏な俺の家は、そんな高価な物買うお金なんてない。家族3人で生活をするのがやっとだ。
でも、ある日、遅い時間に帰って来て朗報だ、と呟く。
「くじ引きでエアコンが当たった」
俺は、本当かよ、と父を疑った。
しかし、数日後ゴツイ業者の2人が、狭い家に入ってきた──エアコンを連れて。
それからというもの、父は使う前、使い終わった後、毎月手入れをするようになった。
その都度、俺が
「たかが、くじ引きで当たったやつだろう?すぐに壊れるんじゃあねぇの?」
というと、父は決まって「お前にはまだ解るまい」と一言。
解りたくもないけれど。
1人不貞腐れながら、寝床に入ると母がそっと枕元に寄ってきた。
「お父さんは不器用だからねぇ。察してあげてね」
そういつも、中学生の俺を宥めてくれる。ちょっと、小っ恥ずかしいけど。
2人の言葉の意味がまるでわからないまま、高校を卒業して就職を始めた。
父は、俺を大学に入れる気でいてくれたが断った。
今、必要なのはお金だから。流石にお金を貯めて、先々も考え、家に金を入れてやりたい。
仕事をしていると、職場に電話がかかってきた。
スパナを置き、電話に出る。
声の主は母からだった。
「お父さんが……倒れたわ」
急いで、病院に駆けつけ病室に転がりこんだ。
手遅れだった。
くも膜下出血。突然、呼吸が止まり亡くなったらしい。
エアコンを掃除していた時に。
崩れた俺の元に、お母さんがまた寄ってきた。
「あのエアコンは、確かに安物よ。でもね、エアコンも結局は人の手によって作られた物。
高くて良いものを大切にする事も良い事だけど、安い物も大切に使えば長く使えるのよ」
俺は、小っ恥ずかしくなった。
そんな事も解らずに1人不貞腐れていたなんて…。
今は、俺が1人掃除をこまめにしている。
母は、物忘れが酷くなってきてしまった。
父が死んだことも忘れてしまっている。俺が息子だということもわからない。
それでも、この家と母を支えて続けた。
エアコンを掃除してたある日。
母が俺の元へ昔みたいに寄ってきた。
「あなたは不器用ですからね。私がいつまでも、お側で見ていてあげますから」
それが、母の最後の言葉だった。おそらく、父と間違えたんだろう。
俺は、そっと母の遺体に寄っていった。
「不器用ですまなかったな、お前」
父の口調を真似て。
end.
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