「マスターって、名前とかどう呼ばれたいですか？」
ある日、突然聞かれたカイトからの質問に、ちょこっと驚いてしまった。
・・・いや、だって、ね？
いきなり何も無しに、その質問はどうよ、カイトや。
「どうなんですか」
何気、期待（？）されてるし。まぁ、それはいいとして。
「そこはやっぱり・・・名前じゃにゃいの？」
「へぇ、やっぱりですね」
怪しい日本語を使うカイト。どこが怪しいのかはさておき。
「でも、僕はマスターですよ？いいんですか」
「うん。だって、カイトだもん」
「・・・？そうですか」
首をひねりつつも頷く青い人。
「それで、今日はどうしてそんなにうれしそうなんですか？いつものことですが」
「えーっ、それ聞くのは愚問だよ、カイトーっ！」
「・・・だから、なんでそんなにうれしそうなんですか？」
うーん、やっぱ誤魔化せないか・・・。
「だって、これ叩き打つの早くなったし」
そう言って、キーボードを指差す私。我ながら良い言い訳じゃ。
「そんなの前から知ってます。で、早くほんとのこと教えてください」
・・・うわー、どうしよ。ちょこっとやば・・・。
「・・・・しょうがないにゃぁ。そんなに知りたいの？カイト」
「はい」
即答かよ、お前さんや。
思わずそう言いたくなるくらいの即答だった。
「いや、ちょっと、アカイトがさ・・・」
「アカイト？」
途端、別人みたく冷たい空気を纏うカイト。
「だから・・・」
ここで、アカイトに襲われたよーとか言えば最後、アカイトはこの青いのに最期を決められちゃうんだろうなぁ・・・。
それはある意味、面白そうだけど、やめておくことにした。アカイトに悪いし。
「ほら、アカイトとミクちゃん、あれから上手くいってるでしょ？それが私としてはうれしいわけだよ」
これはほんと。あの去年の夏祭り以来、２人は確かに寄り添っているのだ。まぁ、うれしい反面、ちょっとだけ寂しいのもあるけどね。
この家も出て行っちゃったし。でも、たまに遊びに来ることもあるけど、最近は全然来なくなった。この時期はこっちも色々と忙しいし、しょうがないのかもね。
「あ・・・」
カイトは口をつぐんだ。そして、目を逸らす。
「カイト」
「・・・はい」
「誰か、いないの？」
「・・・・へ？」
あっけに取られるカイトに、私は言った。
「いつかは、ここへも来れないかもしれないんだよ・・・？そんぐらい忙しくなるかもだし、それに空想もできるかどうか・・・」
「何言ってるんですか。マスターと僕は時間なんかに邪魔されませんよ、絶対」
私の言葉に、カイトは語気を強くして言った後、
「でも、いつまでもこうしていれるのも・・・そう長くないのかもしれませんね。マスターがまだ大人じゃないこの今も、限り無く無くなっているようで、僕・・・」
少しだけ、切なさを織り交ぜた言葉をぽつりと言った。
「にゃはは、そんなのまだまだ早いよ。現に、まだ卒業もしてないし」
「でも、あと１週間・・・ですよね？」
「うっ。何故それを知ってる」
「だって、いっつもるーずりーふの日付のとこに書いてるじゃないですか。そして、いっつも寂しそうにしてるじゃないですか。そんな表情、全部、知ってますよ・・・！」
ありゃ、なんかカイト泣きそうだにゃ、これは。
よし、ここは、らんなうぇいだ。
「じゃあ、べんきょうしてくるから、そこのアイス全部食べちゃっていいから」
そう言って、自室へと戻った。
カイトが無言でアイスの袋を開ける音を遠くに聞きながら。