あ、私もだ。
机の木の模様が猫に見える。
目と目と口と…ああでも右の鼻の穴が足りない。
うーん惜しいな。
もう疲れちゃった。
子供だからって皆がみんな楽しいわけではない。
楽しい時には楽しいし、疲れている時は疲れている。
~全然、面白くない~
なんだかこの頃だめだ。
とにかくだめだ。
なんだかだめだ。
確かにお友達としゃべっている時は楽しい。けれどそれも終われがすぐ普通以下の状態になる。気持ち上のことだ。
そして家に帰ってくるとさらにテンションが低い。
気分が低い。
何でだろう。

ねえどうして何もしてくれないの?
そんな声がする。
ねえどうして何もしてくれないの?
知らない、私の知ったことではない。

お皿と残飯を片付ける。
浮世ちゃんと一緒に並んだ。

私は自分が持っている使い終わったお皿を眺めた。
今日の給食にはワカメのサラダがあった。
私は今そのサラダが入っていたお皿を眺めていた。

「ねえ、わかめは生きてるの?」

「え?わかめ?うーん。植物も一応生き物だから生きてると思うよ」

「ふうん」

「あ、思うよじゃ無くて生きてる、よ植物も生き物だもん」

「そっか。」

「ねえ、そういえば、今日鬼ごっこしに行こうよ」

「え、ああ…ううん。いい」

「そう?じゃあ私は行くね」

「うん」

そんなことを話している内に、もうお皿の片付けは終了していて、
私はうんと最後に言って、急ぎぎみに走っていく浮世ちゃんを見て、すぐに足元へ目線を落とした。

そんなに行った事ないけど、行ってみよう、図書室。
普段は滅多に入らない図書室。
だって本なんて読まないし、読んでもつまらない。
文字がだあああと並んでいるのを見ていても、なんら面白くはない。
でも、暇だし何となく行ってみよう。
私は図書室に向かった。
図書室の中に入ってみると、思ったより人がいた。
私の学校は去年校舎が全部改築されたからどこもかしこも新しい。
中でもこの図書室は特に綺麗だ。
椅子も本棚も窓も全て新しくて、清楚感じ。
一角には4畳半程度の畳のスペースがある。
そこに座って本が読めるのだ。
主に低学年用であった。
本当に綺麗な図書室であった。
何から何までいい感じ。
本棚を見て回っていると絵本とかもあって、思ったよりも面白そうだった。
1つ絵本を手にとって、眺めてみた。
…んー…でもやっぱり面白くないな。
これは私よりもっと小さい子向けなのかな。
やっぱり外に遊びに行こうかな。
でも今から行くのもなあ。
昼休み、もう半分も終わっているし。今から行くなんて面倒臭いし。
私は例の畳の一角へ歩いていった。
その一角の本棚にグリム童話というのを見つけた。
パラパラめくってみると、ところどころに絵がある。
………
読んだら面白かった。
私はこれまでの自分では考えられないような集中力でその本を読んだ。
本にここまで集中できるだなんて……。私にとっては初めてだった。
チャイムが鳴った。
図書室に居るみんなが、本を閉じたり、椅子から立ち上がったり、本を本棚に閉まったり、図書室から出て行ったりし始める。
私はもっとグリム童話を読みたいと思った。
でもお昼休みは、もうおしまいだ。
もっと読みたい本が初めて見つかったというのに、もう終わりだなんて……。
どうしよう、借りていきたいけれど図書カードを持っていない。
もうカードを作っている時間もないし。仕方がないから私はしぶしぶ本棚に本を入れて図書室を後にした。

放課後また図書室へ来てみた。
グリム童話があった本棚には見るからに同系列の本がある。
中身の構成も、グリム童話と同じで、たまに挿絵がある。
こちらも面白そうだ。今読んでいるグリム童話が終わったら読んでみよう。
この本は、読むのが嫌にならない程度で1つの話が終わるので、飽きずに次々と読み進められる。
面白い。
本って面白い。
私は本を読んでいるのだ。
なんか、偉(えら)くなった感じ。
心の中にお話の世界がどんどん入ってくる。
私の心の中に楽しくてウキウキする、物語が入ってくる。
嬉しい。
私の頭の中は不思議な世界と不思議なお話で一杯になった。
何となく知っていた話も中にはあったけれど、この本に書いてある程は、知っていなかった。
この本をやんで正式にちゃんとその物語を知れた。
全部話すとこういうお話だったのか。
以前思っていたのと少し違う。

うん。
いいかもしれない……本。
私はグリム童話の本を一冊借りることにした。
図書カードを作って、学年とクラスと名前、そして私が借りる本の名前をカードに書いた。
私が初めて借りる本。
絵本じゃなくて、ちゃんとした本
文字が書いてある本。


家に帰ってから読んだ。学校でも読んできたのでもう頭がいっぱいだった。だから1つのお話くらいしか読まなかった。
なんだか今日一日いろいろとお話を読んだ。
多くは何となくは知っていた話だったから本当に新しく読んだ話はそんなに多くはないけれど。
それでも今日一日で沢山読んだわ。
なんだか、こんなに本を読んで私、すごいわ。

でも、本を読み終わった後、襲ってくるのは現実の波。
別にこれといって嫌なことがある訳でもない。
でも退屈な、憂鬱な気分に落ちてしまう。
どうしてもそうなってしまう。
なんでかな。
とても気落ちする。

家の前で前は凍り鬼したなあ。近所の人と。
不意にそんなことを思い出す。
だからって、そんなに今も仲良しって言うわけではない。
近所だからっていう事だけで遊んでいたに過ぎないのかもしれない。
ただそういう薄い関係だったのだ。だったのか?
そう思うとかなりさびしげな気持ちに自分がなりそうになって考えるのをやめた。
しかし、やめても又虚無感を感るだけだ。
どっちにしても好くない。

私、何かやりたい。
本もいいのだけれど私、部活もやっていないし、習い事も何もしていない。
4年生からは部活に入ることが出来た。けれど、私は入らなかった。
なぜなら、部活で上手くやっていけるか不安だったから。
入った方がよかったのかなあ。
私、何か習い事をしてみたい。
ピアノとか。
お母さんに、いいかどうか聞いてみよう。
そう思って早速私は居間に行った。
お母さんは、紅茶を飲みながらテレビを見ていた。
「ねえ、お母さん。」
テレビに向けていた顔をこちらに向けた。
「ん?なあに」
「あのさあ……私、ピアノ習いたいの」
「ピアノ?」
「うん」
「そう…いいかもしれないわね」
「うん!」
「私はいいと思うわ。どこで習えるのかしら。調べてみましょう」
「うん」
お母さんは、早速インターネットで調べ始めた。
「ねえ、いい所あった?」
「んーー、見つからないわね」
「そうなの?インターネットって何でも分かる訳じゃないんだね」
「そうなのね」

本当は、浮世ちゃんに聞けばいいのだ。浮世ちゃんはピアノを習っているから。
浮世ちゃんと同じところに行ってもいいし、別のピアノの先生を紹介してくれるかもしれない。
でも…。

浮世ちゃんの方から差し出してきたのCDだった。
これってYUKIの曲なんだけど、「バイバイ」っていうシングルカットした曲なの
【その当時、シングルとかアルバムとかシングルカットとかいった名言葉を使うのは、イケイケ女子の間おいて定番だった。】

 私、浮世ちゃんに話しかけなくちゃ。
最近なんだか、話してないし。
でも、なんだか話しかけにくい。
浮世ちゃんは、私と話したくない雰囲気を出している。
浮世ちゃんはこの頃変わってしまった。
前は今より大人しいというか、落ち着いているというか。
そんな感じだった。
今は、もっと元気というか、ハキハキしているというか、イケイケな感じ。
私は今の浮世ちゃんも、楽しくてなかなかいいと思うけれど、
今の浮世ちゃんは、私とは話してくれないみたい。

CDのこととかよく分からないし…。
私はCD歌手グループを知らなかったので、浮世ちゃんが流行の先へ先へへと行っている感じがした。

日が変わって


ねえどうして何もしてくれないの?

そんな声がする。

ねえどうして何もしてくれないの?

知らない、私の知ったことではない。


昼休みに浮世ちゃんが外に鬼ごっこに行ってしまう前に、思い切って声を掛けてみた。
「あのさあ、私、ピアノを始めようと思ってさあ」
「…」
「それで私どこにしようか分からなくて何処かピアノ教室って知らない?」
「………知らない。私が通ってる所にするつもりなの?」
「え、ううん。それでもいいなあって思ってるんだけど、どこでもいいなあって。何処かいい所あるのかなって思って」
「…」
「ありがとう。もうちょっと調べてみるね」
「…うん」

なんだか、やっぱり、私のこと嫌ってるみたい。
私がいつも昼休みになると行っていた鬼ごっこグループには、私は最近全く行かなくなった。
浮世ちゃんは最近になってその鬼ごっこに行ってるみたいだけれど…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ワカメの国 第四章 思い出す人 杉田亜紀子の物語

【説明文】
何かに参加しようと自分自身が元気を出せる様に自分自身を仕向ける亜紀子。
海の中で終に明かされる、亜紀子の正体。
【賞】
小説「ワカメの国」はKODANSHA BOX-AIR新人賞応募中作品です。
3月15日インターネット上の動画を見る事が出来るサイト「ニコニコ動画」にて結果発表!
【Link】
公式電子書籍:URL:[http://book.geocities.jp/wakamenokunipdf/4.html]
公式サイト:URL:[http://book.geocities.jp/wakamenokuni/index.html]

閲覧数:91

投稿日:2012/07/31 13:53:53

文字数:3,707文字

カテゴリ:小説

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