「……頑張れよ?」
 俺の隣で菓子パンを食べているミクオが言った。
「なぜそこ疑問なんだよ」
「ん、なんとなく」
 ごくりと、オレンジジュースを飲むミクオ。
 隣では神威グミヤ――神威グミの従兄弟――が購買の人気商品「売り切れ御免超特大メロンパン」(3つ目)を頬張っているところだった。いや、大食いでも食べ盛りでもいいんだけどさ、個数に限りがあるのに、3つは買いすぎだろ。ていうか、いつもは他のやつらと昼はいるくせに、なんで今日はいるんだ?
 もぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込む。
「なるほど、鏡音男は鏡音女が好きなんだ。それで初音女は振られたってわけか」
 とうんうん頷いている。
「その通り、神威男」
 とミクオは言った。
「ていうか、グミヤ。なんでここに?」
「ん、なんとなくって言うか、グミがさ、やけにレンの悪口を言うもんだからつい気になって」
 ……グミさん。
 そういや。
「……ミクオ」
「ん? 何だよ、レン」
 俺はミクオに話しかけた。
「なんか、やけに浮かれてないか? いや、気のせいならいいけど」
「そういや、そうだな。絶対何かいいことがあった時の顔だ」
「オレって、そんなに顔に出てるか? まあ、いいや。話そう。実はだな……初音と一緒に出掛けることになったんだよ」
 自慢げにミクオは言った。って、ミクと?
「いつの間に」
「レンが初音を泣かせているうちにさ」
 ……さらっと言ってるけど、かなり責められてるように聞こえるぞ。
「どこに?」
「え、ケーキが評判のカフェ」
 グミヤの質問にミクオは答えた。そういえば、ミクオは甘党だった気がする。
「あぁ、あそこ? いいよな。俺、フルーツタルトが好き」
 とグミヤも言う。
「ミクオは初音女が好きだもんな」
 と付け足して。……え?
「え、それ本当? ミクオ」
 と俺が訊くと、
「え、マジで気付かなかったの? 今まで」
「あれ、教えて無かったっけ?」
 とグミヤとミクオが揃って返してきた。聞いてないぞ。……いや、言えなかったのかもしれないけどさ。
 がたりと、教室の隅で音がした。見ると、ミクが立ち上がって、自分の教室に戻ろうとしている。
 時計を見れば、もう昼休みが終わろうとしていた。

 それからは、まったくと言っていい程授業が頭に入ってこなかった。右から入って左から出て行く。シャーペンは止まったまま。ああ、今度ミクオにノート移させてもらおう。俺は板書を諦めて、頬杖をついた。多分俺は、緊張してる。
 こういう時こそ、窓側の席だったらいいのに。
 一度諦めたら、あっという間のように思った。当てられたら答えるけど、それ以外は授業を聞いている振り。中には居眠りする奴もいるけど、そんなこと出来ない。
 西向きの窓から、オレンジ色の光が差し込む時間。
 クラスメイトがそれぞれ席を立つ中で、俺は何をするでもなく、ただ座っていた。一人、二人と人も減っていく。それに比例するかのように、教室は影を増していく。
 残ったのは、一人。
「鏡音くん」
 俺の名前を呼ぶ、彼女だけ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

彼女なんかより9 Len side

レン視点です。
って言うか、本当に久しぶりの投稿です…。
あと一回、リン視点で完結の予定です。後はクオミクの番外編とか。

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閲覧数:276

投稿日:2012/12/09 16:33:42

文字数:1,275文字

カテゴリ:小説

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