重力に逆らいどんどん地上へと落ちていく一人の天使。
その目に映るのは、オレンジ色に染まる雲ただ一つ。
「・・・体の中の物が全部出そう・・・」
重力によって、腹部を圧迫されているリラは、顔を歪め自分のお腹に手を置くと
肘にふわっとした物が当たった。
リラは、その感触に疑問を抱き、横を向くと・・・
「・・・あ」
リラの目に映ったのは、自分の背中から生えている真っ白な羽。
目を数回パチパチと動かしてから、ヒョコっと小さく羽が動いた。
そして、そのまま大きく羽が羽ばたかせ重力に逆らうように体が上へと上がり、向きが反転する。
「ずっと落ちてなくても、あたし天使だから羽使えばいいんじゃん!」
馬鹿だなぁ、など言いながら羽を使って下を見るリラ。
雲の上に居た時よりも、ハッキリと見える建物の形、人の姿。
それに、喜びを感じているリラは、ハッと何かを思い出した。
『万が一、地上に降りてしまったら、羽を隠さなければいけない』
「・・・ってガウラが言ってたような」
バサッと動かしてから羽を見る。
少し名残惜しそうな表情を浮かべていると、遠くの方から何かの鳴き声のようなものが聞こえてきて、リラがその方向に顔を向けると、黒い塊の集まりがリラに向かって来ていた。
「あれって、ガウラが言ってたカラスってやつかな?」
カラスを見るリラの表情は、興味津津っと目を輝かせていたが、徐々に顔が青ざめていく。
「な、なんで、あたしの方に来るの?!」
カラスの群れは、リラを避けようとはせず、どんどんリラに向かって真っすぐ飛んでくる。
そんなカラス達に恐怖を感じたリラは、逃げようとカラスから背を向け逆方向に飛んで逃げる。
だが、飛び慣れているはずのリラでさえも、カラスたちの速さには敵わないのか、どんどん距離を縮められていく。
「だ、誰か!助けてよー!!」
今にも泣き出しそうなリラが、天に向かって叫ぶ様に助けを求めると
「Avreise!(去れ!)」
「?・・・っ!?」
その声にハッと後ろを振り向くと、そこに居たのは漆黒の髪を二本に結び、
鼻筋の通った顔立ちに、赤と青のオッドアイの瞳を持った女の姿。
カラス達も、最初は彼女に立ち向かおうとしたが、オッドアイの目が細められた瞬間、恐怖を感じたカラス達は、一目散に去って行った。
その姿に見惚れたリラだったが、彼女の背に生えていた物を見て息を飲む。
「・・・堕天使」
彼女の背中から生えていたのは、リラの生えている純白の白とは違い、さっき見たカラスを思わすかのような漆黒の羽だった。
『堕天使は、元は我々と同じ天使だったが・・・何らかの禁忌を犯した最悪な奴らだ』
「Do...(お前は・・・)」
「っ!」
ガウラの言葉を思い出していたリラに、彼女の驚いた声が届く。
「Hvorfor jeg bo her en engel?(なんで、天使がこんなところに居るんだ?)」
彼女を見つめたままリラは何も答えなかった。
そんなリラに飽きれたのか、彼女は盛大に溜め息を零し、再び言葉を発し
「Hvem gjorde en kraringke eller taper, men hvor raskt jeg tilbake til himmelen?(カラスにも負ける奴なんて、さっさと天界に帰ったらどうだ?)」
【プロローグ-3-に続きます】
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