泣いてしまったら君にはもう会えないと言うの。
 レンが歌っている。中低音が落ち着く。
 なにを歌っているのと聞くと、眉間にしわを寄せ気怠げな半目でこちらを訝しむ彼が口を開いた。
「何って、マスターがこれを練習してって言ったんじゃない」
 ありゃ、そうだったか。忘れっぽくて困る。少し眠ったうちにこれなんだから、発言に無責任だ。
「この歌、そんなにぱっと忘れてしまうようなもの、なの」
 こちらに捻っていた顔を戻して、どうでもよさそうな感情の伺えない声で言う。そうではない、そんな筈ないんだけれど。忘れてしまうのは自制の出来ない癖のようなもので。そんなこと言った事はないから、彼との間に齟齬が生まれてしまうのも、気をつけるしか仕方がない。だからこそ起こさないようにしてきたことだった。
 そんなしまうようなものじゃないよ、ごめんね。静かに謝るとレンは自分に向けていた顔を前に戻してしまった。こちらからだと横顔しか見えない。
「別にいいけどね」
 そう言って、目線を伏せたまま億劫そうに手を項に置いた。
 ああ、
 癖、出てるよ。
 それをする時、本当はよくはない事に気付いてしまった。それに彼は気付いていない。ぞんざいな言動はもう自分には色褪せた感情に見えるのだ。
 じゃあまた、歌ってくれるかな。それをこの子に悟られてはいけないなと思いながら聞いた。
 緩慢に降ろされた睫に瞳が隠れて、現れて自分を見た。
 口を開いて少し間を空けて、目を逸らして。
「もちろん」
 ありがとうと言うと照れたようにいいえと言った。
 指を操作して音を流す。手を抜いたつもりはない、ポップなような、ジャンルはよくわからない別れではない何かの歌。何かとしか言いようがないけれど、好んでそうした曖昧な歌。
 泣いてしまったら君にはもう会えないと言うの。
 Please love me,endless.(どうぞあいして、繰り返し)。
 レンが、歌いながら驚いたように振り返る。その部分だけ歌詞を書かずに、でもその分の場所も取ってあるから演奏のみになる部分に滑るようにはめてみただけ、だ、けれど。まだそこを誰に歌ってもらうかは決めていない。
 「英語のわからない君に笑うと、不思議そうな顔をした。」
 えせのデュエットまですると不思議そうに瞬きをして、それが先程の煙るようなものとは反対に可愛らしくて、笑った。
「マスター、忘れてたんじゃあ・・・」
 言葉を吐息で引きずって怪訝な、不思議そうで疑わしげな目をした彼に笑んだまま、忘れてたよと深くした。そうするとレンも少し照れたように目を伏せて微笑んだ。

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ぞんざいな嘘に身を匿った自分


不眠症さんからお言葉いただきました。
れんくんの手を首に回す癖とかが書きたかったから満足しています。八分目か九分目らへんん。なんだか曲についても細かく書けたし過ぎたりはうんうんの言葉でいくと及んでます。
マスターにいらん設定ついちゃったけど気にしたら恥ずかしくなるから気にしないふりでいく。
マウスとかって書かなかったのはそれにするとれんくんとますたが場所入れ替わる描写必要だったのではいてくききか何かの・・・何かで・・・

英語が普及してない、ちょっと南蛮語出始めたあたりの時代のもので英語わかんないぼかろ書きたい。それでますたがマスターって呼んでみ、ますたあとはなんですかってやり取りさせたい。

煙るような耽美な感じのれんくんいいよねっておはなしでした

閲覧数:184

投稿日:2010/08/31 04:02:37

文字数:1,090文字

カテゴリ:小説

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