――――――――――『ヴォカロ町』。





それは、『彼』―――――Turndogが平和と叶わぬ願いを夢見て『考え』た理想の町。





もちろん彼が実際に暮らす世界は、現実世界の『日本』であり、これ以上にない平和を持つといっても過言ではない国だ。


だが彼が書こうとして思い描く世界は―――――いつだって血の匂いを漂わせていた。


バトルものしか書けなかった彼はいつだって、物語を作る自分の両手に、血腥さを漂わせていた。


彼は羨ましかったのだ―――――仲間たちが描く『ほのぼの』とか『家族』とか『恋愛』とか『ギャグ』とか。


自分と同じキャラを使いながら、笑って泣けるほのぼの家族を描く人のことが、ボカロ界きってのシリアスキャラを使って読者の腹筋を崩壊させる世界を描く人のことが羨ましかったのだ。





―――――そして、『ここ』で彼が描いた世界観が『彼の住む国から、唯一世界に誇れるものを奪った未来の祖国』になり、バトル路線を歩みだしてしまった瞬間。





彼は考えた――――――――――





『バトル路線を回避できなくてもいい。戦いを、不幸を退けることができるような、平和を信条とする町を作ろう』





彼が考えた町は、『ボーカロイドが平和を守る町』―――――これを物語の中に『落とした』。


物語は大雑把なストーリーとキャラができればひとりでに走り出す―――――。


既に作ってあったキャラクター『ボーカロイドを作った天才科学者たち』は、この町を自分たちの手で具現化させてしまう。


そこで育まれる人のつながり、ボーカロイドのつながり。


彼は自分で作ったこの町をも羨ましがった。


そこで彼が考えたものは、『自分自身が存在する空間』と『自分の世界と町の世界をつなげる存在』。


新たに『Turndog』がキャラとして構築され、町の世界とは別の空間に『落とされ』た。


そして『繋ぐ者』。二つの存在が構築された。


一つは『ロシアンブルーの猫又』。永い時を生きる化け猫・猫又ならば、300年ぐらい生きれば時空を超えることも可能なのではないか。そんな安直な考えで生み出されたこの猫は、後に巡音ルカと並び主役級の立ち振る舞いをすることとなる大物キャラ、『猫又ロシアン』へと昇華した。


もう一つは―――――『Turndogの改変キャラ』。ロシアンが『町側に住む繋ぐ者』であるとするならば、このキャラは『Turndog側に住む繋ぐ者』だ。


彼は自分と自分の愛犬をモデルとして、『Turndog性転換キャラ』を作り出した。彼女はTurndogのネット限定技として初登場し、徐々にその性格を固めていった。





後の『つんでれ☆どっぐちゃん』の完成である。





二人の動きにより、二つの世界がつながる。


新たなつながりが生まれてゆく――――――――――。





この物語は、そんな寂しがり屋の作者と、作者のくだらない思い付きから生まれたツンデレ犬娘と、ひねくれた熱血バトル馬鹿な猫又と、個性豊かなボーカロイドが住む平和を尊ぶヴォカロ町の織りなす。





ほのぼのするかもしれない、そんな話。