「テトさん」
ソファーに座りながら充足感の余韻に浸るテトに、マスターが小さな紙袋を差し出した。それを「ありがとうございます」と言いながら、テトは笑顔で受け取る。
「開けてみてもいいですか?」
「うん、どうぞ」
促されたテトが取り出したのは、銀色のネックレスだった。小さな音符を形どったアクセサリに、チェーンが通されている。
「何をプレゼントしたらいいか分からなかったから、こんなのしか用意できなかったけど…」
「いえ…十分、嬉しいですよ」
苦笑を浮かべるマスターに、テトは言葉に迷いながら言った。手に持つネックレスを、形をなぞるように指先で触れる。
「こういう時、何だかもどかしくなりますね」
「どうして?」
「嬉しくて仕方ないのに、『ありがとう』としか感謝を伝えられなくて…。マスターだけじゃない、リンちゃんとレンくんにだって………」
既に部屋で寝ている双子に対しても、テトは申し訳なさそうに言った。リンは嬉しそうに、レンは少し気恥ずかしそうにしながら、祝いの歌をテトに贈った。それが嬉しくてたまらないのに、それを伝える為の言葉がテトには思い付けなかった。それを彼女は、歯痒く感じているようだ。
「あまり難しく考えなくていいと思うけどな」
「でも…」
「喜んで貰えてるなら、俺もリン達も嬉しいしね」
マスターはそう言いながら、テトが持っているネックレスを取った。その突然の行動に反応の遅れている彼女をよそに、チェーンを前から掛けようとする。
「マ、マスター、自分で出来ますから…!」
「いいから、大人しくしててよ」
マスターにそう言われ、テトは押し黙るしかなかった。互いの顔の距離が近いせいもあって、テトの顔には僅かに赤みが見れた。気恥ずかしさからか、視線の向け所も定まらない様子だ。マスターがテトの首にネックレスを掛けたところで、ようやくその状況から解放された。
「…うん、似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます…」
顔の赤みが増す様子に、マスターは嬉しそうに微笑む。テトにはいつもの冷静さは見られず、羞恥心を頬をかきながら誤魔化す。それでも表情は、どことなく喜んでいるようにも見えて。
「あと一時間ぐらいかな。テトさんの誕生日が終わるまで」
「そうですね…」
「他に何かして欲しい事ある?言うなら今のうちだよ」
時計を見れば、時刻は既に十一時過ぎを指していた。寂しげな表情をするテトを見て、マスターは優しく問いかける。急に言われたテトは少し悩み何か思いついたのか、遠慮がちに口を開いた。
「それじゃあ…」
テトは隣にいるマスターの側に近付き、自分の頭を彼の胸元に落とす。突然の彼女の行動に驚き、マスターは反応する事が出来なかった。
「今日が終わるまでは…このままでいさせてください」
「…やけに素直というか、大胆だね。ちょっと意外」
「言い出したのはマスターじゃないですか…嫌なら止めますが」
「いえ、嫌じゃないです。させてください」
そんなマスターの言い方に、テトは小さく笑い声を漏らす。するとマスターは空いていた腕で、テトの身体を包むように抱き締めた。
「マスター…ここまで頼んだ覚えはないですが」
「単なるサービスです」
「都合の言い事を………」
顔を赤くさせながら、テトは呆れた様子で呟く。しかしその顔には、嬉しそうな表情が浮かんでいた。
「…テトさん」
「なんですか?マスター」
「大好きだよ」
「…知ってます」
(だって、私もアナタが―――)
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