「マサ」
野口先輩が雅彦に声をかける。しかし、雅彦はぼーっとしたままで、視線が定まっている様に見えない。
「おい、マサ、聞いているのか?」
先程よりやや強い声で野口先輩が言う。すると、ようやく気が付いたのか、雅彦が向き直る。
「…あ、先輩、何ですか?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。ここの所、ずっとそんな調子じゃないか」
「大丈夫ですよ」
「本当かよ?」
「…はい」
笑顔で答える雅彦。しかし、野口には、それが嘘である事はすぐに分かった。ここの所、雅彦の調子が良く無い。研究室にいる間はぼーっとしている事が多く、勉強や研究に全く手が付いていない感じで、何か他の事を考えている感じだった。前にもこんな感じで雅彦のパフォーマンスが落ちた事があったが、今回は前以上にパフォーマンスの落ち方が大きい上、それが長期化していた。そして調子が悪いのかと迫っても言葉を濁すのは前回と同じである。
(こいつは相当深刻だな…。とは言うものの、俺には何も手が打てないってのが歯がゆいな)
そう思いながら雅彦を見る野口先輩だった。
(やっぱりおかしいって思われてるよな)
深刻そうな顔で雅彦を見る野口を見ながら雅彦は思った。最近、ミクとの種族の壁を越えて結ばれる手段を無意識のうちに考えてしまっている事、そして妙案が浮かばない事が、雅彦のパフォーマンスが大きく落ちている理由だった。その考える時間が個人のプライベートな時間を使っているだけならまだ良いのだが、勉強や研究の時間にも気が付くとその事を考えているのはミクと状況は同じで、これが問題を深刻にしていた。以前にMEIKOにミクと結ばれる手段を見つけてくると啖呵を切ったが、実を言えばあの時は売り言葉に買い言葉であった。実際の所、どれだけ考えてもその手段の手がかりさえも見つかっていないのが現状である。とは言うものの、今までに前例の無い事である事を考えると、これは仕方の無い事だろう。もしそんな手段がある、と悪魔から契約を迫られれば、普段であれば一笑に付すだろうが、今の雅彦であれば悪魔にすがって契約を結びかねない、そんな状況だった。
(何とか手段さえ見つかれば、見つかれば…)
雅彦はその思いだけが空回りしている状況で、何とかせねばと思いはあるものの、考えが思いに追いついていない状況であった。そして野口はその状況を、ただ見ている事しか出来なかった。
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