重たい空気が流れているなぁと人事のようにあたしは思った。
「・・・・」
グルトはあたしの言葉に黙って思案していたが、やがて
「・・・・うん」
と、小さく頷いて
「それが何だ?・・・リン」
と尋ねた。
「・・・グルトって、カイトとアカイト知ってるよね」
「うん」
「あの2人のこと、どう思う?」
「う~ん、まぁ、ぶっちゃけた話だけど尊敬してるぜ」
「へぇ、それはいいことだねっ」
「・・・・続けてくれないか?」
「・・・グルトってさ、小さい頃<人格操作>した?」
あたしが本題に入るとグルトはそっぽを向いた。
「・・・・した、じゃなくて<させられた>?」
グルトはそっぽを向いたままで口を開かない。
「・・・ま、いいか。どっちにしても結果は変わらないもんね」
「・・・・」
「まず、カイトの人格とアカイトの人格を<交換>して、その交換したアカイトの人格を・・・・」
あたしは一呼吸おいて
「・・・<コピー>・・・したよね。あの集団に」
とどめをさすように言った。
「・・・!」
グルトは驚いてあたしを見た。
「・・・リン」
「・・・・ま、あくまであたしの持っている知識をかけ合わせた推理だから・・・ね?」
「・・・」
「・・・」
あたしとグルトはしばらくお互いを見つめていた。
「・・・リン、お前・・・・」
グルトは何かを言いかけたけど
「・・・何でもない。・・・リンにとって聞きたくない<思い出>だからな」
と言ってまた黙ってしまう。
「・・・え?」
あたしは、小さく声を上げた。
何、あたしにとって聞きたくない<思い出>って・・・・?
「・・・何それ?ねぇ、グルト・・・教えてよ」
「・・・」
詰め寄るあたしにグルトは
「・・・・」
・・・抱き寄せられた。そしてそのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
「・・・え、ちょっと・・・・グルト、放して」
「やだね。だってこんな話をしたから急に寂しくなったんだからな、責任取れよ」
「・・・何・・・責任って・・・・」
グルトの着ている薄手の黒のTシャツから体温が伝わって急にまた落ち着かなくなる。
「う~んとなぁ・・・ま、最終的には全部だけどまずは・・・そうだな」
グルトは楽しそうに言いながら1つの疑問を口にした。
「なぁ、リン。どうして俺たちを<人格操作>したんだ?・・・・<博士>?」
「え・・・・何言って・・・」
あたしは否定しかけたが
「・・・・<博士>・・・・?」
何で、あたしがそう呼ばれなきゃいけないの?
「・・・<博士>ってそれどういうこと?」
「・・・・・・・」
はあ、とため息をついてグルトは言った。
「・・・それはな、リンが<博士>だからだよ」
「・・・・・!」
その瞬間あたしは強い吐き気に襲われた。そのせいで否定することも何もできなかった。
「それで、俺は一番<博士>のそばにいた・・・」
「・・・トルグ・・・・グルト貴方はトルグなのっ!?」
あたしはその名前を読んだ。・・・無意識のうちに。
「・・・・そうだ。俺が昔に捨てた名前・・・俺の本当の名前は、<トルグ>だ」
「そうだったんだぁ・・・」
あたしは、なんだか安心したような気分になった。
「・・・あたしって、そんなすごいことしたんだね。そっか。なんかこれで、筋が通ったような気がするよ・・・うん」
「・・・・リン」
「・・・あれ?なんで、あたし・・・涙でてるの・・・?」
「・・・・・」
再びグルト(トルグ)はあたしを抱きしめた。今度は壊れちゃいそうな程強く。
「え、何々、グルト?痛いよ・・・そんなに強く抱きしめられたら・・・」
あたしは言うけれどグルトは放してくれない。
「今は<鏡音リン>なんですね、安心しました」
(え、何で急に敬語・・・「そうよ。もうあたしはあの頃のあたしなんかじゃない。だからトルグもグルトとして生きてほしいのよ・・・・」
「・・・・分かりました」
(え、何言ったの?今の言葉あたし、そんなの言うつもりなくて・・・・)
あたしは一人混乱する。まるで、あたしの中にもう一人無理やり入り込んだみたい。
「・・・リン?」
・・・・グルトがあたしの顔をのぞきこんで言った。
「・・・・・ねぇ、グルト・・・・あたし<鏡音リン>だよね?」
「うん」
「グルトも・・・・グルトだよね?」
「・・・当たり前だろ」
「・・・じゃ、グルト。1つだけ聞いていい?」
「うん」
「写真に写ってたのって・・・・あたし?」
「・・・・・・・ああ」
グルトはためらいながらも頷いた。
「そっか。・・・・・」
写真には、あたし・・・<博士>の頃のあたしとグルトが映っていた。
「・・・・ね、グルト」
あたしは写真の中のグルトの笑顔を思い浮かべて言った。
「・・・<博士>のこと、どう思っていたの?」
「・・・えぇ」
グルトは驚いてあたしを放した。
「・・・・ねぇ、どうなの?」
「・・・・え、えーとだな!それは本人のいないところでだな」
「・・・今は、いないよ?」
「・・・ぐぅ」
「寝てもだめぇー!!っていうか座りながら寝るって、どんだけ器用なのっ!!」
「・・・・言わなきゃ・・・だめか?」
「・・・うん」
あたしはなんだか緊張してきた。
「・・・・・俺は」
と、まさに、ちょうどその瞬間・・・

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日常的環和 20話 リンの失跡×レンの失跡=悲劇 その6

こんにちわ、もごもご犬です。
今回はいろいろと衝撃的な内容になっていると思います。
・・・っていうか今回は異常に長くなってしまいました。
次回もある意味衝撃的な内容になると思います!お楽しみに♪

閲覧数:144

投稿日:2009/08/07 14:28:52

文字数:2,161文字

カテゴリ:小説

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