昔から、海には神様がいると言われている。
本当にいるかはわからないが、この地の海には、『守り人』と呼ばれる存在がいる。
鮮やかな赤い髪をなびかせたその存在。
どれほどごつい者なのかと思えば、噂に聞く限りでは『美しい少女』だという。
彼女は、『海の困りごと』の解決に、ちょっとばかし手を貸してくれる。
例えば、人が溺れていたとき、彼女が助け、岸まで運んでくれる。
例えば、ごみが投げ込まれたら、それらを全て拾い、投げ込んだ者へ全力で投げつける。
いつからか現れては人々の力になるその少女を、地元の人たちは感謝と敬意を込めて、こう呼んだ。
海の守り人、『ミウ』と。
<<海の守り人 -赤き少女->>
海の守り人。
その存在をどこで聞いたかはわからないが、この地方に昔から伝わる話だそうだ。
何年前から?と聞けば、「ちょっとよくわからないけど、70年くらい前じゃないかな?」とのこと。
あまり昔すぎるわけではないようだ。
なぜ彼女は人助けをするのだろう?
自分には何のメリットもないのに、どうして人を信じ続けるのだろうか。
この間恋人と別れた僕には、よく理解ができなかった。
酷い別れ方だった。
あんなに一緒だったのに、いつからか心がすれ違うようになってしまった。
何はともあれ、僕は『彼女』の存在に興味を持った。
なので、実際に会ってみることにした。
電車に乗って一時間半、だんだん風景が自然へ移る。
最後のトンネルを抜ければ、窓の外にはきれいな青い海が広がっていた。
普通の海となんら変わらないように見えるが、どこよりも澄んだ、深い蒼色だ。
ここが、彼女…『ミウ』の守る海か。
時刻は昼の一時。
経費削減に、と自作した弁当を食べることにした。
大きな岩を見つけたので、そこに座ってお昼にしよう。
安心して座れそうなほど平らである。誰かが削ったのかもしれない。
おかずとおにぎりを食べながら、海を眺める。
潮風に当たって食べると、僕の不器用さを示した弁当も、少し美味しく感じるから不思議だ。
彼女が作るご飯は美味しかったなあ。卵料理がとくに上手だったっけ。
いつも僕のために、栄養のバランスも考えて作ってくれたんだろうか。
隠し味は内緒、なんて言って大雑把なレシピしか教えてくれなかったなあ。
彼女はどうして僕を裏切ったのだろうか。
退屈にさせてしまった僕が嫌だったのだろうか。
なんとかしようとしていた。まだ好きだった。
ある日、買い物をしていた僕の目に飛び込んできたのは、知らない男と一緒に歩く君の姿。
状況を認識する前に、彼女と目が合った瞬間、僕の表情はどんなものだったのだろう。
僕は必要な荷物だけを取りに帰り、そのまま街を飛び出した。
すれ違ってはいたけど、お互いにまだ大切だと思い込んでいた。
でもそれは僕だけだったのかもしれない。
僕が嫌だったのなら、どうして言ってくれなかったのだろうか。
どうしてあんな、見せ付けるようなことをしたのだろうか。
どうして…
そこまで考えたとき、海の中に人影を見つけた。
溺れているのか!?やばい!と思ったが、その人影はだんだんこちらに近づいてくる。
どうも溺れているわけではなさそうだ。自分の意思で泳いでいるように見える。
そして海から上がって砂浜に足を踏み入れたその姿を見て、僕は目を見張る。
赤褐色のツインテールは、ドリルのような巻き髪。
紅蓮の色を宿したその瞳は、強い意思に満ちている。
白いワンピースを着ているせいか、より髪と瞳の赤が映えて見える。
蒼い海とは正反対の少女。
少女と目が合って、僕は問いかける。
「あなたは、この海の守り人ですか?」
「…そうらしいわね。観光客にしては、こんなところに来るのも珍しいわね」
それはおそらく、今はまだ海開きの時期じゃないからだろう。
なんてったって、今日はまだ四月に入ったばかりである。
まだ満開の桜が咲く時期だ。
彼女と話がしたかった僕は、一緒に弁当を食べないかと誘った。
時間はいっぱいあるし、ゆっくり喋ってみたかった。
「はむはむ…あなた、おにぎり握るの上手ね。私なんか、いつもご飯粒でぼろぼろになって、不恰好になっちゃうわよ」
「でも僕不器用ですよ。料理なんて苦手で苦手で。なかなか上手くいかなくて」
「あっ、じゃあ私と反対なんだ。私は盛り付けが下手くそで、よく皆に呆れられたものよ」
僕の隣に座って笑顔で食べる少女は、ごく普通の人間にしか見えない。
彼女が本当にこの海を守る存在なのか、今はあまり見えない。
「さて…ありがとうね。あなたのお昼ご飯なんでしょう、ごめんね、わざわざ分けてもらっちゃって」
「いえいえ。それより、僕、あなたに聞きたいことがあるんですよ」
「なあに?何でも答えるわよ」
でも年齢を聞くと怒っちゃうわよ、と付け足す少女。
えっ聞いたらどんな恐ろしいことするの、と固まる僕を見て、冗談よ21よ、と笑いかける。
僕と同い年らしい。
「あなたがこの海を守り続ける理由です。どうしてずっと人助けを?」
「…長くなるけど、いい?」
「かまいませんよ。僕はあなたの話を聞くために来たんですから」
「あらあら、物好きね。私みたいな人間の話を聞きたがるなんて。うふふ」
いや、あなたみたいな存在は、誰からも珍しがられると思うよ。
「あのね、私、探し物をしてるの」
「探し物?」
「うん。あのね、私にも付き合ってる人がいたのよ。一年前のことだけどね」
それを聞いて、僕はどきりとした。
僕は彼女と別れたばかりだ。と言っても、僕が勝手に飛び出してきた感じなのだが。
「その人は心臓っていうところに大変な病気を抱えていてね。亡くなっちゃったわ。この辺には医者がいなかったから、そのせいもあるのかしら」
おっと話がいきなり重くなったぜ!
「そんな申し訳なさそうな顔しなくても。あのね、私の初恋の人だったのよ。私より少し年上でね、いつも私を大切にしてくれた。私も彼が大好きだった。ずっと幸せな日が続けばいいと思ってたけど、あっさり終わっちゃった」
「…つらかったでしょう」
「そうね。凄く悲しくて苦しくて、神様を何度も恨んだわ。どうして彼を連れていったの、って。何度も何度も泣いたの」
なんか、聞いちゃいけないことだったと思う。
たまに空気読めないって言われる僕のことだから、知らないうちにそのスキルが発動してしまったのだろうか。
だから彼女は離れていってしまったのかなあ。虚しいなあ…。
「でもある日、彼からの贈り物だって、彼の妹さんが小さな箱を持ってきてくれたの。遺品を整理していたときに見つけたらしくて。箱の中には、私宛の手紙と、指輪が入ってた」
彼の思いを受け取り、悲しみから立ち直った少女は、その指輪をお守りに毎日を過ごした。
そして大切な人を想いながら、少しづつ幸せな日々を送り始めたという。
「そして今日、同級生数人とここに遊びにきたのよ。で、ふざけた同級生が、私の指輪を落としちゃって…海の中へ、消えていったの。私の、毎日を生き抜くためのお守りが」
それからすぐ海に潜り、指輪を探し続けているらしい。
世界を飲み込む大きすぎる海に、お守りには小さすぎる指輪を。
「でも見つからないの…。今日落としちゃったものだから、そう簡単に見つかるはずないけど。もしかしたら遠くに流れちゃったのかもしれないわ」
「…そうなんですか」
彼女は気づいていない。
自分が認識している今日は、もう70年も前のことなのだと。
おそらく本当の彼女は、指輪を探している最中に、溺死したのだろう。
自分が死んだという大事なことにも気づかず、彼女は大切なものを探し続けているのか。
「探し物をしていると、困ったことになってる人がいっぱいいてね。なんだか放っておけなくて、助けちゃうのよ。正義とか恩義とか、全然考えてないんだけどね」
それが君の質問の答えだよ、と微笑んで答える彼女。
それとは別に、僕はとても悲しくなった。
こんなにも純粋に探し物を続ける彼女に、あなたはもう死んでいますなんて、言えるわけがない。
そして『彼女』とうまくいってなかった僕は、少女の話を聞いて、決心がついた。
きっとまたどこかですれ違っていただけなんだ。
もう一度、やり直せるはずだ。帰ったら、ちゃんと話し合おう。
きっとまだ間に合うはずだ。
死んでしまったら、何もできない。そうなってしまう前に。
「ありがとうございました。いろいろ、話してくださって」
「いや、別にいいわよ。私だって、誰かに話したかったからね。あなたが聞いてくれて、少しだけ心が落ち着いたわ」
日も傾いてきたので、僕は終電がなくなる前に帰ることにした。
彼女の話を聞いて、すぐにでも行動しなければと思ったのだ。
「じゃあ、僕帰ります。あ、あなたは地元の人に『ミウ』と呼ばれているんですよ。…知ってますか」
「え?そうなんだ。私も有名人になったのね。多分、海を逆さにしてミウなんだろうけど。おもしろいこと教えてくれてありがとうね」
こちらこそありがとうございました。
そう言って立ち去ろうとした僕に、ミウが言う。
「最後に一つだけ、教えてあげるわ。私の名前は『テト』よ。覚えておきなさい」
「わかりました。では、また来ます。さよなら…テトさん」
きっとまた僕は、彼女に会いに来るだろう。
駅へ向かう途中、『海の守り人』への石碑が立てられているのを見つけた。
石碑に彫られた小さな穴の中に、彼女の探し物であろうさび付いた指輪が入れられていることを、僕は知ることはなかった。
【テト誕】海の守り人 -赤き少女-
テトちゃん初めて書きましたがキャラがつかめません!
二時間クオリティー!
ゆるりーです皆さんどうもこんにちは。
とりあえず、シリアスしか書けなかった!
うわあい!テトちゃん救われてないし進んでない!
うわあああああ!うまくかけなかった!
ちなみに誕生日テキストを書くのは鏡音誕以降久しぶりですやっふううううううう!!!!
コメント2
関連動画0
ご意見・ご感想
イズミ草
ご意見・ご感想
二時間クオリティですか……? ほんとに?(疑いの眼
なんかもっとすごい民族系かと思ってました(おい
いいですね、シリアス、こういう話すごく好きです、テトちゃんおめでとう!
2014/04/05 19:16:32
ゆるりー
はい、きっちり二時間です。
構想は寝ながらw←
民族系は書けないですね、はい。
むしろシリアスしか書けない私です。
私だけですよ、テキスト中に「誕生日」なんて単語が一つも出てこないのは。
2014/04/05 22:02:13
Turndog~ターンドッグ~
ご意見・ご感想
ゆるりーさんむしろ短時間制限付けた方がクオリティ高くなるんじゃないのかい?←
救われなさならうちのテトの方がすげえから大丈夫だ!
進展の無さでもうちのテトの方がすげえから大丈夫だ!
一応なんだかんだでこのテトは救われてないし吹っ切れちゃいないんだけど清々しいんだよね。
うちのテトはダークサイドに完全に堕ちてるからねw
2014/04/01 12:28:42
ゆるりー
それはきっと気のせいです←
暗すぎず、明るすぎずって難しいですね!
一部私の実話を入れるつもりが、忘れてた上にいい感じにまとまってしまったといううっかり。
テトちゃん本当に書いたことがなかったので、本当に書きづらかったですw
そうですね、完全に堕天してますねw
2014/04/01 20:42:09