遠くない未来の話。
人工知能と言うシステムが開発された。それぞれに趣味嗜好、個性を持った人工知能があらゆるアプリケーションソフトに組み込まれ、人の代わりとして機能することがあたりまえとなった。
機能は飛躍的に向上し、機械がまるで人のように活動する時代だった。ただしそれはプログラムの中の、小さな箱の中の出来事であり、彼らは未だ、パソコンの中から外部へ出るための体を持たない。
人のように、と造られた画面の向こうの彼らを、人として扱うか、やはり機械として扱うかは、各個人の自由である。
敬老の日のプレゼントとして、ミクはこの家にやってきた。
ご、よん、さん、に、いち。
カウントダウンと共に、途切れ途切れに浮いていた数式が一つのところに集まり。かたちを作り出す。くらやみの世界にゆっくりと白く柔らかな光が満ちてゆき、焦点の定まらない瞳がゆっくりと瞬く。五体満足、思考もクリア。速いスピードで情報が体中を駆け巡ってゆく。既に植え付けられている自分が何者なのかという認識が、自分は何をすべきなのかという役割が、目覚めたばかりの意識のなかで反響する。
わたしは初音ミク。ボーカロイド。歌うために造られた存在。
インストールされたばかりの何も設定されていない初期状態の白く明るい部屋の中、ミクは視線を目の前に広がる画面へ向けた。
画面の向こう側には、二人の人間がいた。一人は10代半ばから後半くらいの若い男性。少しだけ明るく染めた髪の毛に、まだ幼さの残る輪郭。いまどきの男の子だ。もう一人は小柄で温和な印象の老女。微かに笑みを浮かべているような柔らかな口元、白髪が目立ったかみの毛は緩くひとつにまとめている。どちらも興味津々、といったようすの眼差しをミクに向けている。
どちらがマスターなのだろう?やっぱり若い人だろうか?そんな事をミクが思いながら二人の事を見つめ返していると、老女が微かに緊張した面持ちで、はじめまして。と言った。
「はじめましてミク。私がマスターの小岩井さやです。」
きちんとミクが識別できるように、と意識してはっきりとさせた口調で老女はそう言った。
ぴぴぴ、と、その言葉にミクの中で操作音が鳴り、マスターの情報が展開された。氏名、性別、年齢。全て目の前の人と一致する。インストール時に入力されたマスターの情報に、目の前の老女の顔と声が書き加えられ、ミクの中でこの老女がマスターであることが認識される。
ああ、この人のほうがマスターなんだ。と落胆の感覚をミクは自分の片隅で認識した。
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sunny_m
※この話はいっこ前に書いた微熱の音の続きのような話です。
これだけだと、?なところもあるかもしれません。
それでも良いよ!あるいは読んだ事があるよ!という方はどうぞ~
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sunny_m
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wanita
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こんばんは☆土曜の夜のピアプロめぐりしています^^)
新鮮な設定に惹かれて! おばあさん!! トップからコメント打ってしまうほど、わくわくしてます。ではまた後ほど……☆
2010/04/17 20:28:49