梅酒の造り方。
梅を洗ってその水気をよくふき取る。
へたを楊枝などで取る。
殺菌した大きな瓶に梅と氷砂糖を交互に入れていく。
焼酎を注いでふたを閉めて冷暗所にて保存。
「これで3ヵ月後くらいには梅酒が出来上がります。」
そう画面の向こうでマスターが厳かに告げた。リンは、そんな3ヶ月だなんて待てない。と思わず頬を膨らませた。
梅酒を漬けよう。という話になったのは、そもそも、リンたちのマスターが住むこの家にしょっちゅう遊びに来るようになった、あげはの提案だった。
マスターはこの家に一人で暮らしている。ほぼ毎日のようにマスターの孫であるタロウがやってくるけれど、それでもこの家にはマスターしかいなかった。そこにあげはが訪れるようになった。他愛のない話をして、ピアノや歌をリンたちと一緒にマスターから習い、おやつを食べたりする。時折あげはの母親があげはを迎えに来て、結局マスターと一緒に夕ご飯を作っていたりするのを、リンはレンと一緒にあげはと画面を挟みつつ、お喋りしながら眺めていたりした。
そんな6月のはじめ、あげはが、おばあさんは梅酒をつけませんか?と聞いてきたのだ。
「梅酒?」
そうマスターが問うと、こくん、とあげはが頷いた。
梅雨が始まる前の、明るい日差しが庭木の緑を濃くしていた。かろん。とあげはの飲んでいたグラスの中で氷が音を立てて揺れる。硬質の水気を含んだ音。初夏の熱を帯びているくせに涼やかな音。その音の気配にほんの少しだけ心を奪われつつ、リンは録音室の椅子に腰掛けて足をぷらぷらさせながら、あげはとマスターの会話に耳を傾けていた。
「前に私がお世話になったおばさんから、良い青梅が沢山手に入ったけどいらないか。って電話がきたんです。私もママもお酒は飲めないんだけど。おばあさんなら梅酒、つけるかな。って思って。」
迷惑だったら、いいんです、けど。そう心配げに語尾をかすませながらのあげはの問いかけに、マスターは少し考えるように首をかしげたが、こくりと頷いた。
「そうねえ。梅酒なんて漬けるの久しぶりだけど。やってみようかな。」
それはどれくらい頂けるの?と具体的に問うマスターに、あげはが少しほっとした声で、確か二キロ、とか言ってたような気がします。と答えた。
「二キロ、ね。それだけ貰えるんだったら梅酒だけでなく、梅シロップも作ろうか。それならばあげはちゃんも、橘さんも飲めるでしょ?」
「梅シロップ、って何?マスター。」
初めて聞く単語にリンが口を挟むと、お酒なしで造る梅酒みたいなものよ。とマスターは教えてくれた。
「そうね、リンやレンはまだ子供だから、取り寄せるならば梅酒はだめだからね。」
そう釘を刺されつつもリンは、どうせならば両方味見したいものだ。とこっそりと思った。
そしてその週末にあげはとあげはの母親がこの家にやって来て、マスターと一緒に梅酒を造ることになり。そしてリンも又、梅酒と言うものを自分の手で造りたくなり。そしてそして、お酒好きのメイコや、最近やって来たこの和風な飲み物が半端なく似合ってしまうがくぽをたきつけて。結果、マスターたちと一緒にパソコンの中でも梅酒と梅シロップというものを造ることとなった。
Master 梅酒の造りかた・1
ばあちゃんマスターの話です。
梅酒、好きです。
しかし私には晩酌の習慣がないし、一人で飲むのは寂しいので漬けません。
ので、皆に漬けてもらおうかな。というわけです。
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