隣のあの人どこ行く人ぞ。暗闇ぬってどこ行くぞ。灯りもつけずにどこ行くぞ――どこを曲がった、角がわからぬ。
歩みを止めて耳を澄ます――。どこぞで足音響いているか?立ち止まったか何も聞こえぬ。ふっと目を上げれば、柔らかな月明かりに照らされた街の陰影。馬鹿に暗い。街の遠くも連なる家々も、すべて月明かりに照らされるのみ。あるのはわかるが実感が湧かぬ。私は背筋がぞっとして、
「誰か――もし誰か――」
実に自分でも滑稽な、臆病な小さな声で、そう暗闇に問いかけた。しん――と誰も応えない。
空の月は私にのみ光を投げかけているようだ。行く先に見える暗闇の中に、私の影が重なってそこだけ濃い暗闇になっている。
目を凝らすと、その濃い私の影の中に、隣のあの人の影が伸びている。耳を澄ますと、足音が遠ざかっていくのがわかる。どこ行く人ぞ――どこ行く人ぞ――……。
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