雨上がりの駅は、いつも少しだけ世界の輪郭がやわらかく見えます。
あの日も撮影の予定が終わり、濡れたホームをぼんやり歩いていました。
雲の切れ間から差し込む光が水たまりに映る人影を静かに揺らしていて、その景色に足が止まりました。
私は何気なくカメラを構え、一枚だけシャッターを切りました。
急いでいたわけでも、作品を残そうと思ったわけでもありません。
ただ、その瞬間が二度と戻らない気がしたのです。
数日後、その写真を整理していると一人の人物の後ろ姿が気になりました。
傘を閉じ、小さく空を見上げている姿です。ど
こか見覚えがあるような気がしていましたが、思い出せません。
しばらくしてその写真をSNSに投稿すると、一通のメッセージが届きました。
「この写真に写っているのは、たぶん私です」
送り主は、何年も前に一緒に仕事をしたデザイナーでした。
互いに忙しくなり、自然と連絡が途絶えていた相手です。
「あの日、少し落ち込んでいたんです。でも、雨が上がって空を見た瞬間に、また前を向こうと思えました。
その時間を写真に残してくれていたなんて驚きました」
その言葉を読んだとき、写真は景色だけを写しているのではないのだと改めて感じました。
そこに流れていた時間や、その人だけが抱えていた感情まで静かに閉じ込めることがあるのです。
その後、私たちは久しぶりに会い、新しい撮影プロジェクトをご一緒することになりました。
偶然の一枚が、切れていた縁をもう一度結び直してくれたのです。
私は今でも、雨上がりの駅を見ると自然とカメラを手に取ります。
運命という言葉は少し大げさかもしれません。
でも一枚の写真が誰かの人生と交わる瞬間は、確かに存在します。
だから今日も私は、目の前の一瞬を大切にシャッターへ収めています。
未来で誰かの大切な記憶になることを、静かに願いながら。
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