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1.初音ミクの生徒会―入学式
どこからかやって来る桜の花びらが、正門に立てかけられた看板にぶつかってヒラリと落ちた。
『新入生諸君、並びに保護者の皆様。ご入学おめでとうございます』
真新しい制服に身を包んだ生徒がきっちりと列を成す体育館。その後ろには、誇らしげに彼らの背を見守る保護者たちの姿。
校長が晴れ晴れとした顔で挨拶をする。
今日は、入学式だ。
「ふあ……」
有り難い校長の挨拶が始まって三分が経過した頃。堂々と大口を開けて欠伸をする新入生が一人。それが伝染したのか、その後ろでも欠伸をする気配がする。
「長いね、話。嫌んなっちゃう」
こし、と目元に浮かぶ涙を拭いながら、小声で背に話しかけられる。
「ねぇ、僕寝ていい?」
「倒れてもいいならね」
「後ろで支えててよ」
「嫌よ」
「ケチ」
「……」
「って!!」
むっと口を尖らせて、後ろから脹脛に蹴りを一発。思わぬ攻撃に上がった短い悲鳴が、延々と響いていた校長の声を遮った。
『―――――コホン』
わざとらしい校長の咳払いが、マイクを通して体育館に響く。
「あー……スミマセン」
少しカタコトな、不器用な謝罪。それに集まる目、目、目。それらが、悲鳴を上げた彼と、その後ろに立つ少女を見て驚いたように丸くなる。そして、すぐに興味を示す視線へと変わった。
黄色に近いオレンジの髪に、エメラルドグリーンの瞳。
性別、髪型、身長こそ違えど、二人は鏡に映したかのような容姿をしている。前後に並ぶ彼らは、誰が見ても双子だった。
『えー……』
間延びしたそんな言葉から、校長は話を再開する。しかし、終わりが近づいていたのか、それからそう時間を取ることなく、校長は挨拶を終え、ステージを後にした。
ガコン、と曇った音を立ててマイクのスイッチが入り、
『生徒会代表、生徒会長挨拶』
少し擦れた教頭の声が、次のプログラムへ移ることを知らせる。
「は、はいっ!」
少し裏返った返事が、新入生たちの横から聞こえて来た。
カタン、とパイプ椅子を鳴らして立ち上がったのは、まだ幼さの残る顔を緊張に強張らせた少女だった。青緑色の長い髪を高いところで二つに括っている。
ステージに繋がる短い階段を上り、校長が切って行ったマイクのスイッチをカチリと入れる。キィン、と耳の奥に響く音に、ぎゅっと目をつぶる少女。
『あ、あ』
マイクテスト。
そして、
『は、初めまして。生徒会長の、初音ミク、ですっ』
少し震えた声で、彼女はそう名乗った。
『え、えと、えとっ』
焦った様子で、ミクは制服のポケットを漁る。今日のために用意した紙を探しているのだろう。
『あ、あれ? ―――――あ、あった!』
小声で独り言のつもりなのだろうが、スイッチを入れられたマイクがそれらを全て拾っている。
ガサガサと紙を開く音まで、マイクを通して体育館中に響いた。
『あの、新入生の皆様、保護者の皆様、ご入学おめでとうございます』
始めは、校長と似たような、決まり切った挨拶。
新入生に贈られる彼女の言葉は、この次だ。
緊張しながらも、まっすぐ新入生たちを見つめる瞳を、チラリと手元の用紙に映す。
すぅ、っと息を吸って、
『 ネギ 』
その二文字とともに吐いた。
「は?」
『……は?』
きょとん。
体育館に居る全員―――発言した本人を含め―――そんな擬音とともに固まる。
『はぇ? あれ? 何これ……ああっ!! 今日の帰りに買う物のメモ!!』
彼女の受けた衝撃に反応してか、踝まである長い髪の先がピコンっと跳ね上がった。
『ち、違うんですっ! あの、コレじゃなくて、その……あぅぅ、私のカンペ何処行ったのぉっ?!』
あわあわと、ミクは買い物メモをポケットに乱暴に押し込んで、本当の挨拶が書かれた用紙をさがす。
緊張と、思わぬアクシデントが重なり、涙目でパニックを起こす彼女に、心から「頑張れ」のエールを送ったのは一人や二人ではないだろう。
「ミクっ!!」
鋭い声が、体育館を震わせた。
『あっ』
ミクがほっと顔を緩ませる。
泣きそうな顔からへにょっと力が抜けて、さらに情けない顔になってしまっているミクを見て、現れた少女は呆れた表情を浮かべた。
ピンク色の長い髪を揺らし、凛とした青い瞳で真っすぐ前を見据えて、カツカツと体育館内に居る人たちの注目を集めながら、ガラリと体育館の扉を開けて乱入して来た少女は、堂々と道を行き、ステージに上がった。
「ホラ、忘れ物」
小声でつっけんどんに付き付けられたのは、四つ折りにされた用紙。
入学式直前まで考えていた、生徒会長挨拶の台本だ。
『あ、ありがとぉ! ルカぁ!』
「まったく、本当にドジなんだから。しっかりしなさいよ、生徒会長」
つん、と外方を向いて腕を組む。
素っ気無いような態度だが、彼女が優しい人であることをミクはよく知っている。今も、ミクがこれを忘れて行ったことに気がついてすぐに持って来てくれたのだろう。いつもより、上下する肩が早い。
『ごめんね、ありがとう』
謝罪と、もう一度お礼を。
ルカは何も言わず、けれどポン、と軽くミクの肩を叩いて、来た時と同じくピシっと背筋を伸ばしてステージの裾へと消える。
彼女なりの「頑張れ」をもらって、ミクの顔には緊張も焦りもなく、満面の笑顔が浮かぶ。
『改めまして、挨拶をさせていただきます』
オドオドとした態度は一転し、シャンと胸を張り、優しい笑みと共に、新入生たちに贈る本当の祝いの言葉をゆっくりと、耳に優しく響く声で告げる。その姿に、ステージの影で、ルカがほっと息を吐いた。
青緑色の髪をピコンと跳ねさせて深々と礼をした彼女に、校長よりも遥かに大きな拍手が贈られた。
それにペコペコと何度もお辞儀をして答えるミクを目で追いながら、
「ねぇ」
一人の少年が口を開く。
「なぁに?」
同じ顔をした少女が答える。
「面白そうだね、生徒会」
鳴り続ける拍手に紛れるほどの小さな声。けれど、それは片割れの耳にしっかりと届いていた。
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欠陥品
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ミクが可愛いww
今後の展開も楽しみにしてます♪
ブクマに入れさせてもらいますm(_ _)m
2010/06/23 16:35:57