一方、こちらは幸田の部屋。
 (安田教授が沢口さんに興味を持ったか…。これはかなり面白いことになりそうな予感がするな)
 そう考える幸田、人類のパラダイムシフトを追ってきた幸田にとって、この組み合わせは非常に興味ある組み合わせだった。自らの意思でアンドロイドに体を置き換えた初めての人間である安田雅彦と、同じく自らの意思でアンドロイドの体への置き換えを拒んだ結果、最後の生身の体を持つに至った沢口優。幸田にとって、これ以上にないほど面白い組み合わせである。
 (安田教授が沢口さんに興味を持つのは、ある意味では必然かもしれないな)
 そう考えながら、幸田は雅彦と初めて会った時のことを思い出した。雅彦は見た目は10代後半だが、生きている期間は幸田より長い。さらにいえば、中学と高校を共に二年で卒業し、普通は三年かける単位の取得を二年で終えた頭脳の持ち主であり、その頭脳と長い人生経験に裏打ちされた抜群の論理展開能力や考察力に幸田は舌を巻いたものである。その一方で、なんでも理詰めで考えるかというとそうでもなく、考えていたよりもかなりナイーブな性格であることは、雅彦と一緒に住む六人、特にミクへの取材で分かった。とは言っても、ミクとつき合い始めた頃は、なんでも理詰めで考える傾向が強かったらしい。実はミクを思ってのことだったようだが、そのせいでミクと大きな喧嘩もしたらしい。しかし、そのことを乗り越えた雅彦は、誰よりも他人を思いやれる存在になったと、六人とも口をそろえていっていた。特にKAITOとMEIKOは、今のボーカロイド一家にとって、雅彦は非常に重要な存在であり、欠けているピースを埋めてくれる存在であると話していた。幸田が面白いと考えていたのは、その豊富な人生経験がある割に、精神的な年齢はさほど高いとはいえず、その意味では見た目どおりの存在という所である。特にあれだけ生きてきて、色々な場数を踏んできたと思われるが、その割には狡猾さや老獪さとは無縁に見える所は驚くべき所である。何にせよ、雅彦は面白い存在だった。
 (沢口さんは安田教授のことをどう思うかな?)
 沢口に関しては、生身を体を持つ人間が数えるほどになってきた頃、誰が最後の生身の体を持つ人間になるか、推測した上であたりをつけた中の一人だった、人類のパラダイムシフトを追ってきた幸田にとって、最後の生身の体を持つ人間の取材は必須事項ともいた。最初、幸田が沢口を取材した時には、沢口には驚かれたが、幸田が沢口を取材する意義を丁寧に説明すると、快く応じてくれた。親しみやすい人柄であり、幸田はそこに好感を持った。
 (安田教授が沢口さんに会った時、何を話すのだろう?)
 幸田が興味があるのはそこである。恐らく、雅彦はこの出会いは必然であると考えているだろう。そうすると、沢口に対して何を問おうとしているのだろうか。幸田は予想してみた。恐らく、雅彦自身をどう思っているかは聞きたいと考えているだろう。立場が大きく違う二人であり、そこから考えれば、気にするのは同然だろう。他には、沢口がアンドロイドの体を持つ選択をしなかったということも聞きたいのではないだろうか、現実問題として、今の社会は、体がアンドロイドであるということを前提に作られている場合が多く、もちろんそうでない人間に対しても代替手段は用意されているが、生身の体で生きるというのは、それなりに苦労することが多い。実際、アンドロイドの体を持つ人間が多数派を占めるようになり、そのことで社会がアンドロイドの体を持つことを前提になり始めたことで、生身の体を持つ人間が急速に減ったという事実もある。そのような状態で生身の体でい続けるというのは、何か理由があると考えるのは当然のことであり、雅彦がそれを考えないとは思えなかった。
 (おっと、こうしてはいられない。沢口さんに連絡をとらないと)
 そう思って、沢口とコンタクトをとる幸田だった。

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初音ミクとパラダイムシフト4 2章4節

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投稿日:2017/03/08 22:16:34

文字数:1,631文字

カテゴリ:小説

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