ぞくり、と変な悪寒が背筋を震わせた。
「世良?」
小首をかしげて、さらさらの真っ直ぐな金髪を揺らしながら奈々が心配そうに私を見た。
「気にしないで。一瞬…寒気がしただけ。」
「風邪かな?世良最近人混みにいること多いから」
「居たくているわけじゃ、ない。」
大勢の人がいるところはまだ慣れないし、人と目を合わせて会話するのだって奈々や佳絃さん以外とするのはまだ難しい。
「ううん…世の中、やっぱり顔なんだね…世良は可愛いから、人が自然と集まるんだよ。」
「かわいい」…最近よく言われるようにはなった。
だけど、まだよく実感は沸かない。
それでも奈々にそう言われるとちょっと嬉しい。
前に、佳絃さんにもカフェで言われたことがあったけど、あのときは胸のあたりがキュッとして変にドキドキして落ち着かなかった。
「可愛い」と言われるたびにああなってしまうのなら、出来る限り言われたくないとも思う。
だって、どうしていいのか分からないから。
それに何より……恥ずかしい。
「世良、顔赤い。やっぱり本当に風邪なんじゃないかな?保健室行く?」
奈々が私の額に手を当てた。すべすべしてて気持ちいい。
「大丈夫。多分少し疲れてるだけよ」
「そうかな?あまり無理はしない方がいいよ」
「ええ…」
そういえば佳絃さんは、大丈夫なんだろうか。
女の子の集団に囲まれているときの佳絃さんは、なんだか少し嫌そうな顔をしていた。
私と奈々は今、先程まで佳絃さんを中心に出来ていた人集りから逃れるため使われていない空き教室へ避難していた。
奈々は私を見て考えてることを察したのか廊下の方を見つめた。
「佳絃先輩、遅いね。」
奈々がぽつりとつぶやいた。
「佳絃さん、本当に人気があるのね。」
「そりゃイケメンだし。文武両道で性格も真面目だからね。」
………………。
もしかして、いやもしかしなくても佳絃さんって実は私にとって雲の上の人なのでは…。
待って、その前に奈々だって学年の中じゃ一番って言ってもいいくらいの人気者で、岳斗さんも佳絃さんと同じくらい女子生徒には人気で…。
あれ、私…。
「どうしたの世良。やっぱり具合悪い?」
「な、奈々…私。」
「ん?なぁに」
「わ、私って…奈々や佳絃さんと、一緒にいて…いいのかしら」
唐突に私と奈々たちの間に壁を感じた私は、ふとそんな質問をしてしまった。
「世良…?」
「だ、だって…私は。」
何をするにも臆病で地味で目つきが悪くて、人付き合いが苦手で…何一つとして奈々たちと並べるところがない…!
「そんなの、ダメに決まってるじゃない。」
鋭い声が、教室の扉口から聞こえた。
「貴方みたいな人間、奈々たちに悪影響を与えるだけだもの」
突き刺すような言葉に、体の芯が冷たくなる。
声がした方へ顔を向けると、そこには赤髪の女生徒が立っていた。
私はその人を知っている。
「茜…さん」
私が名前を呼ぶと彼女はとても嫌そうに顔をしかめた。
「私の名前を呼ばないでちょうだい!」
ピリピリと敵意を剥き出しにした瞳には、殺意にも似た恐ろしさがあった。
「茜。何か用?」
私を庇うようにして、奈々が一歩前に出た。
奈々も茜さんに負けないくらい、敵意を顕にした冷たい瞳をしている。
「私は今の奈々に、用はないの。私が用があるのはそこにいる世良さんよ。」
まるでこの世で一番汚い言葉を口にするかのように吐き出された私の名前。
奈々の目付きが鋭くなっていく。
「な、奈々。いいわ。私、彼女と話をしてくる。奈々はここで、佳絃さんを待っていてちょうだい。」
私は奈々にそう言って茜さんと共に廊下に出た。
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