!ATTENTION!

この小説は鏡音レンオリジナル曲「Fire◎Flower 」のイメージ小説です。
また、作中ではけったろさんのラップアレンジver. の歌詞を採用させていただいています。

以上の事に少しでも不快感を抱かれる方は読むのを控えてください。

それでは、よろしくお願いします。




   11

 全身がたまらない喜びに打ち震えていた。気を抜けば声が震えてしまうような、そんな感じ。今、自分はこんなにも満たされている。
(どーしよ、……俺、今、超幸せ……だけど、)
 まだだ。まだ、伝えきっていない。ライブのラストスパートとともに、花火大会のスターマインのように、レンは息を吸い込み、歌う。

 ――「生まれも育ちもバラバラな僕ら。……姿も形もそれぞれな僕ら。
    男も女もちぐはぐな僕ら。――それでも、心をひとつに出来たなら――!」

 間奏のパフォーマンスにと、ギターとベースがステージの前方に躍り出る。わっと湧く会場。だがその追随を許さないように、レンはすうっと息を吸い込んだ。演奏されるメロディに、このライブのためにとアレンジで付け加えたラップをのせる。
 ――「無限に広がる幾千の光。この夢乗せ一直線に飛ばしたい。
    今夜は体温上昇、どうしようこの気持ちを今! 打ち上げたい! 花火のように!」
 一瞬、ぽかんとした観客たちから、歓声があがる。腕を振り上げ、とび跳ねて大声で叫ぶ彼らの声に負けないように、レンも声を張り上げた。このラップは、本当にこの“ライブのために”と書いた歌詞だった。ありがとう、ありがとうとバカみたいに繰り返す心の代わりに、
 ――「Fire◎Flower! 君と一緒に生きたいなFly up、
    この気持ち詰め込み、高く高く高く、もっと高く!
    夜空に放とう、let’s go together now!」
 一気に歌い上げてレンはふうと息をついた。これ以上ないくらいにふわふわする。酸欠になって倒れてもいいやだなんて、無責任な事を考える。

 と、その脇から、ギターとベースがマイクもなしに突然大声を上げた。
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
 繰り返されるのは、この曲の間奏で歌う特徴的な音だった。今度、ぽかんとするのはレンの方だった。何事かと、二人を見るも、いたずらっぽい笑顔が返ってくるだけ。
 だが、そのまま何度も繰り返される節には、レンよりもはやく、ファンたちが反応した。ギターたちの声が聞こえる前列から徐々に、腕の振りがそろっていく。そして彼らは一様に、同じ言葉を繰り返した。
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
 何度も何度も、会場全体から寄せては返すように叫ばれるそのメロディが、言葉よりもダイレクトに、レンの心臓を揺さぶった。

 声を聞きながら、なぜだか、あのCDの台詞を思い出した。
『……レン! 夢の達成おめでとう!』
『私達、あんたの歌結構好きだよ!』
『隠しトラックは「フルチン☆ブギ」だろうな!?』
『君が夢に向かって、一歩ずつ、着実に歩んでいるのが何よりうれしい……』
『レン、いつでも帰ってこいよ!』
『テレビ、録画しておくわね』
『心から祝福するよ、おめでとう』
『せーのォ! ……レーン、おめでとー!』
 具体的な言葉に現れたわけではないけど、だからこそ強く、あのメッセージたちと同じ思いが、メロディが響くホール全体から、伝わってくる。声はどんどん大きくなり、会場全体から集まったエネルギーの塊となって、こちらにぶつかってくる。力強く、どこまでも温かい。

 頃合いの合図なのか、それとももっと別のものなのか。分からないが、目の前で同じように叫んでいたギターとベースも、こちらを振り返って笑いかけてきた。背後を見れば、ドラムもまた力強くうなずいてくれる。
「ホラ、主役の出番だ!」
 言葉じゃなく、視線でそう語りかけられて、レンは瞳から涙が一粒、こぼれ落ちたのを感じたが、拭う事をせずに、マイクをつかみなおした。
(――ありがとう!)
 そう叫ぶ代わりに、曲の続きへと声をつなげる。
 



   12

 ――「人生の途中が、線香花火だとしたら……」
 歓声がまた沸いた。まるで「待ちくたびれた」と言われているようで、照れくさい気持ちになる。音をひとつひとつ取るたびに、ああ、もうすぐ終わってしまうと、ちらりと思った。つかれたし喉もカラカラだ。初のソロライブは思ったよりもハードで、少しスタミナが足りなかった気がする。今度からは暴れまわっても大丈夫なように、ちゃんと体力つけなきゃなとぼんやり思った。

(でも……もう少し、歌っていたいな……)
 それが本音だった。このライブが終らなければいいのにと、子供のようなことを考える。
 考えながら、それは無理かと内心で苦笑した。だったらせめて、これ以上ないくらいに格好良くこの曲をシメて、最高のライブにしようじゃないか。
 そう思って、さらに大きく息を吸い込み、会場全体を見渡した。

 ――その時だった。レンの瞳に、ある観客の姿が映ったのは。

 それは永遠にも感じる一瞬だった。飛びはね、叫び、腕を振り回す観客たちのなかで、たった一人、その人物の金髪がさらっと流れたのに、目が離せない。
 その観客は、ライブ会場のど真ん中にいた。最前列のブロックの次。通路のすぐ奥の席にいた。通路のすぐ奥の席は、前を遮るものもなく、ましてど真ん中なら、まっすぐレンの視線が届く場所だった。ひとつ惜しいかなと思えるのは、通路との境目なので、席の前に柵代わりに小さな仕切りの壁があること。
 なぜその観客がレンの目にとまったかと言えば、かんたんだ。同じ列の他の客が、その仕切りに飛びつき、身を乗り出すようにしてライブを観ているなか、レンが再び歌い出すと同時に、“彼女”はその仕切りの上によじ登ったからだ。

 ――「一瞬でも……」
 歌いながら、夢かと思った。他の観客たちの怪訝そうな目を微塵も気にせずに、仕切りの上にすっくと立ち上がった少女を、驚きに見張った目で見る。彼女の青い瞳はどこまでもまっすぐに、力強くレンを見据えていた。
 ――「ふたり照らす、向日葵の様に――!」
 他にも思うべきところはいっぱいあったのに、このとき思いついたのは、間抜けなことに、綺麗になったな、という感想だった。

 肩までしかなかった金髪を伸ばしたようで、背中まで届くような長髪になっていた。だけどその綺麗な色や、白い肌は以前と変わってはいなかった。他に変わったと言えば、自分を見つめる瞳が、すぐ他所に目移りすしてしまうような幼いものではなく、強くまっすぐなものになっていたということ。
 それはこの上なくうれしいことのはずなのに、不思議なことに、レンのなかではそれほど大きな感動にはならなかった。罰当たりな、と思考の端で考えたが、正直なところでは、「やっとか」とため息をつくような思いだった。
 ただ、今まで胸の奥に抱えていたものをすぽんとあっけなく抜き取られ、半端なく身体が軽くなった気はした。なんだろう。今までのものでも、別に悪くはなかったけれど。心のパーツにかちりとハマる、最高に心地良い形の歯車が見つかったような、そんな感じだった。

 そして少女の白い腕がまっすぐ伸びる。つられるようにして、レンも歌いながら左手を高く挙げた。二人、同時に指差すのは、ホールの天井――いや、天空だった。
 ――「Like a……」
 ヒュゥーと、背後で花火が上がる音がした。だが、今度は、驚かない。レンはありったけの想いを込めて、マイクに向かって、会場に向かって、そして、待ち望んだたった一人に向かって、歌声を放った。
 ――「Fire Flower!」
 同時、バックのスクリーンに炎の大輪が花開いた。とたんに上がる歓声、それに続くスターマインの映像。会場内が花火大会の中心になったような熱気に包まれる。

 ――「いつか、夜空に大輪を咲かすその時まで、待ってくれ。」
 花火の音を聞きながら、レンは頭のなかであの夜のスターマインを思い描いた。人生で一番輝いて見えたあのスターマイン。実際には、ここに本物の花火は上がっていないんだけど。今、この会場のこの熱気が。自分を見つめるリンの瞳が映している花火が。レンにとっては、あの時よりもさらに大きく、色鮮やかに咲く大輪のように思えた。
(俺……咲かせられたのかな、……強く、なれたのかな……!?)
 届けと、心の中で狂ったように唱えながら、レンは最後の歌詞を、今までは偽物のハッピーエンドだと思っていたその歌詞を、なんの偽りもなく、全身で確信して歌った。

 ――「『最初から君を好きでいられて良かった』なんて、空に歌うんだ」――!

 会場全体から、今度は呼びかけたわけでもないのに、声が響いた。
「ア・オー! ィエーイエイェー! ア・オー! ィエーイエイェー!」
 そこにこもった温かい思いが伝わってきて、レンも答えるように腕を振りながら声を出した。
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
 ステージの上を走りまわりながら、会場全体へ、その一人一人にむけて、歌う。彼らも呼応するように歌ってくれる。最高の気分だった。この瞬間が永遠につづいているような錯覚。
 でもやはり、終わりは来る。レンはひとしきり会場に向かって歌ってから、ギターとベース、ドラムを振り返り、彼らとも歌声を交わす。
 そしてラスト! と締めるように会場を振り返れば、さっきよりもさらに大きな歌声。
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
 響くその声に、精いっぱいの声を重ねる。レンは客席の中央を見た。リンはまだ、そこに立って、こちらを見ている。彼女は口ずさむようにメロディを紡いでいた。瞳から綺麗なしずくがこぼれ落ちたのが、ステージの上からでも分かった。

「ア・オー! ィエーイエイェー!」
(リン……届いた?)
「ア・オー! ィエーイエイェー!」
(……届いたよ、レン)

 それを最後に、レンはくるりと踵を返した。ステージの脇へと、できるだけゆっくりと、でも大股で歩く。そんな彼を追いかけるように、会場ホールの歌声は響き続ける。答えるように、最後まで歌い返しながら、LENはステージを下りた。
 彼の姿が見えなくなっても、観客たちはしばらく歌い続け、やがて誰からともなく大きな拍手が無人のステージへと贈られ、LENの初めてのソロライブは幕を閉じた。CDやグッズを手に、興奮して語り合いながら会場を去る観客たちの声を聞きながら、彼は控室で一人、涙を流していた。胸のなかのつっかえはすっかり消え去って気持ちはどこまでも高揚し、心のなかのスターマインはしばらく鳴りやみそうになかった。

 そんな彼の目の前、デスクにアルバムCDとともに置きっぱなしにしてあったケータイが震えた。驚いて着信を見れば、ディスプレイには、もう二度と鳴ることがないだろうと思っていた名前。
 鼻水をひとつすすって、おさまらない涙はそのままに、レンは通話ボタンを押した。


 そして次の季節――木々が色づき、風が少し冷たくなった頃、LENのニューシングル「ジュブナイル」が再びランキングの上位に輝くことになる。


 『Fire◎Flower』 了 


Special Thanks! (敬称略)
作詞・作曲:halyosy
編曲:is
ラップアレンジ:けったろ
この曲を愛する皆様



   あとがき

あとがき

 ここまでおつきあいいただきありがとうございました。
 とある音楽少年の物語はいかがでしたか?
 原曲はもちろん、ニコニコの歌い手さんたちや、色んなPV、そしてこちら、ピアプロさんのたくさんのイラストを見て、自分の中で少しずつまとめてきた物語です。
 少しでもリンレンのまっすぐな思いが伝わればいいな……とドキドキしております。

 予定ではこれに付属するストーリーも書くつもりなので、前半とか結構話をまとめてしまいました。
 なのでストーリー的にも本当に伝わって欲しいと切実に願っております(汗
 あと、LENのアルバム曲目は完全なる趣味です(笑
 いちおう「鏡音レン名曲リンク」タグで調べてみたので、有名な曲のはず……!
 どちらにしろどれも名曲ですよね。

 Fire◎Flowerは本当に大好きな曲です。
 今年の夏も、ニコニコをはじめとするあらゆる場所をにぎわわせてくれました。
 毎年あの季節には、「この曲に出会えてよかった」と再確認させられます。

 最後になりましたが、この名曲を作ってくださったhalyosyさん、ラップアレンジを歌いあげてくれたけったろさん、この小説の掲載許可を下さってありがとうございます。
 そしてこの小説を読んでくれた皆様、ありがとうございます。どこかで誰かが、リンとレンのこの物語を読んでくれている、それだけで、私の中では凄い励みになるんです。

 本当にありがとうございました。
 私はこれからもこの曲を大好きでいたいです。 それでは、また新しい物語が花開くときまで。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Fire Flower ~夢の大輪~ 05

鏡音レンオリジナル曲「Fire◎Flower」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm4153727)のイメージ小説です。※作中ではけったろさんのラップアレンジver.(http://www.nicovideo.jp/watch/sm7813332)の歌詞を採用させていただいています。 完結しました。ここまでおつきあいいただき、ありがとうございます。

閲覧数:586

投稿日:2010/10/10 23:16:03

文字数:5,481文字

カテゴリ:小説

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    E-H-Ninja

    コメントのお返し

    はじめまして、ゆーささん。
    読んでくださってありがとうございます!
    ブクマしてくださるんですか!? ありがとうございます(>_<!
    とっても励みになります! 調子に乗ってF◎Fサイドストーリー、がんばってみますね(^_^*
    ありがとうございました。

    2010/10/12 23:16:11

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