枕元で、目覚まし時計の甲高い電子音が鳴る。強制的に夢が途切れ、眠気に顔をしかめながら手を伸ばす。
当てずっぽうで何回か手を振り下ろすと、偶然スイッチに当たって目覚まし時計の電子音はピタリと止んだ。
「んん~……」
のそりと上半身を起こし、目覚まし時計を手に取る。そして、暗闇の中目を細めて時計を読んだ。時計の針は6と7の近くを指している。
「……しちじ、さんじゅうにふん…………?」
そう、時刻は午前七時三十二分。眠気で途切れかけていた彼女の頭の回路が、かちりと繋がる。
「――ぴゃあああぁあっ!?」
彼女は、奇声を上げて勢いよく立ちあがった。
寝癖のついた亜麻色の短い髪に、乱れた水玉模様のパジャマ。
彼女――栗布凛は、大慌てで階段を駆け降りていく。机の上に置いてある食パンを袋から出し口にくわえ、髪をブラシで梳かしながら、パジャマのボタンをはずし昨夜二時間かけて選んだ洋服を手に取る。
そう、今日は蓮とデートの約束をしているのだ。待ち合わせは午前八時、そして今は午前七時半過ぎ……家から待ち合わせ場所に着くまで十分程度かかるので、あと二十分程で支度を終えなければいけない。
「ぜ、絶対間に合わないぃぃぃ」
少し涙目になりながらも、着替え終わる。そして食パンを飲み込むと、洗面所へ向かって歯磨きをする。それも終わると顔を洗い、顔についた涎の後やらを取る。
顔を洗い終えた時、ふと髪を留めるピン留めが足りない事に気づく。
時刻は七時四十五分。タイムリミットまで、後五分。
凛は全速力で階段を駆け上がり、自分の部屋に戻る。そして机の上を見渡すが、ピン留めは無い。ベッドの周りも探すも、無い。クッションの下を漁るが、そこにも無い。
「あー、もうどこにあるのよっ!?」
焦りと不安から、思わず声を上げる。
と、その時。視界の端に白い何かが映る。
「……ふえ」
思わず間抜けな声を上げてしまう。
視界の端に映ったのは、机の中央に置いてあるピン留め。
「えええぇぇぇえ?」
『灯台下暗し』とは、正にこの事だろうか。自分がどれだけ慌てたいたのかと思うと、少し羞恥の感情が湧く。
とりあえずピン留めをつけると、落ちついてゆっくりと息を吐いた。
それにしても、今日は爽やかな朝だ。空は雲一つなくて、耳をすませば鳥の鳴き声も聞こえてくる。気温も暑すぎず寒すぎず、とっても過ごしやすい。
こんな日は何かが起きそうな、そんな感じが……
って何か忘れてる気が…………
「ああああぁぁ忘れてたああぁぁ!」
そう、蓮とのデートの約束。何故忘れたのかはわからないけれど、とりあえず時計を見る。
時刻は……ちょうど八時。もう待ち合わせの時間になってしまった。きっと、今蓮はバス停の前で待っているのだろう……
「――ぴゃあああぁあっ!?」
本日二回目の奇声を上げる凛。急いで鞄を持ち、忘れ物が無いか軽く確認して階段を駆け降りた。
◇◆◇◆
時間は少し戻り、今は午前六時半を少し過ぎたところ。
山波 蓮はゆっくりとベッドから身体を起こした。気持ち良さそうにゆっくりと腕を伸ばし、ふぅっと一息つく。
午前四時に妹の乃莉に叩き起こされてからかわれ、その後眠れなくなった蓮は、弱い睡眠薬を飲みやっと眠りにつく事が出来た。
まだ少し眠いのか、彼はあくびをしながら部屋を出る。まだ部屋の扉は壊れたままだ。部屋の扉は、今日帰ってから直そうか、それとも今日は帰ったら寝て、明日学校が終わってから直そうか、と思考を巡らす。そもそも扉を壊したのは乃莉だから、彼女に直させるという選択肢もあるが……
蓮はガチャリと廊下の扉を開け、リビングへと入る。すると、キッチンに立っていた母親は気づいた様で、おたまを持ちこちらへ近づいてくる。
「おはよう、蓮」
「んー」
蓮は軽く返事をする。
蓮の母は割と整った顔立ちで、蓮や乃莉と同じで癖のある、長い茶色の髪。別に染めているわけではなく、元から、だそうだ。瞳は真っ黒で、母親らしい、優しい光を灯している。
と、母はまた蓮に近づく。そして、
「蓮、ご飯にする? シャワー浴びる? それともわ・た……」
「食パンもらうね」
最後まで言わせなかった。少しすねる母の横を通り過ぎ、食パンを取り出して電子レンジに入れる。そして食パン用のボタンを押し、焼き始める。
このやり取りは毎朝ある事で、蓮はもう動じない。
「ねー蓮、お母さんは、お父さんが家にいなくて寂しいのよー?」
「ふーん」
蓮は軽く聞き流した。父は一年ほど前から単身赴任で、どこか遠くの田舎にいる。
蓮は母を無視し、リビングを出て、自分の部屋へ行った。そしてどんな服を着てデートに行こうか迷う。
しばらくして、引き出しからいくつか服を取り出す。落ちついた、亜麻色が基調の服だ。
「……凛の髪と、同じだな――」
蓮はぽつりと呟いてから、はっと我に返って顔を真っ赤にする。勢いよく頭を振って、はぁ、と息を吐く。
と、その時リビングから母の声が聞こえてくる。
「れーん、食パン焼けたわよー?」
「――わかった、今行く!」
蓮は声が届くように少し大き目に返事をして、選んだ服を椅子にかけてから部屋を出る。
リビングに入ると、母が食パンを手に立っていた。何故かその食パンには、ベーコンやらレタスやら目玉焼きやらが乗っているが……
「…………あー、はい、ありがとう」
蓮は何も突っ込まずにそれを受け取り、口にくわえた。
キミとデートとゴーランド【3】
とりあえず、更新が遅くなってすみませんでしたああああああああああああっっ!!
忘れていた訳じゃないんですけど、何というか、スランプというか……
すみませんでしたっ!!
――――――――――――――
さて、今回はデート当日の朝の二人を書きました。(まだ遊園地行ってなくてすみません^^;)
蓮の家族は色々ぶっ飛んだ設定の人が多いんで、書くのが楽しかったです^^
凛の家族も色々設定があるんですが、それはまた後で。
次回からは、いよいよ最初のイベント、『デート編』をお送りします! たぶん。
たぶん!
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ご意見・ご感想
龍竜
ご意見・ご感想
お久しぶりでーすっ!
あやかです☆
凛めっちゃかわいいw凛のキャラ好きです(笑)
あと蓮ママwww
「それともわ・た・・・」のところwww
これからも頑張ってくださいね!!!
2011/05/04 09:25:20
グーフ&ボイスレコーダー
>あやかさん
お久しぶりです^^
メッセージありがとうございますっ
凛ちゃん可愛いですかwwありがとうですw
山波家は今日も平和ですw
2011/05/04 11:25:23